笑顔のリレー












「ねえ、咲と居ると、笑顔になるのはなんでかな?」
 ぽろっと口を付いて出てしまった言葉に、舞は顔を赤らめた。
咲がきょとんとした顔でこちらを見ている。夏の夕焼けは真っ赤で、舞はそれがこの顔の熱さを隠してくれれば
いいな、と願う。学校の屋上から眺める夕日は、水平線に今にも没しようとしていた。二人の足元で、長い影が
伸びる。
「そんなの、当たり前だよ!
 だって私、舞のこと大好きだもん!」
 振り返ると咲が満面の笑みを浮かべて、舞を見つめていた。涼しい風が吹いて、舞の頬を撫でる。咲はいつも
の調子で、元気いっぱいに答える。
「私、舞のこと大好きだから、一緒にいるとそれだけでうれしくなっちゃうんだ!
 それで、いつの間にか、顔がにこーってなっちゃって、
 きっとそれが舞にも伝わってるんだよ!」
 咲は舞の手を取って、にっこり笑い、歌を口ずさむ。
「にっこり白い歯見せーてー、笑顔のリレーしようよー。」
 舞が咲の手を握り返して、二人で歌う。
『おー、いぇーす!
 みーらいはimagine! いーまの続きー。
 ぷりっきゅあの魔法 ☆lucky coming☆
 へい!』
 歌い終えると、二人はくすくすと笑い出した。だけど、無性にこみ上げてくる笑いを抑え切れなくて、とうと
う二人は高らかに声を上げて笑い出す。夕焼けの空に、二人の笑い声がこだまする。
「そっか、だから私、咲と一緒に居ると、
 いつも笑顔になれちゃうんだね。」
 咲は大きく胸を張って頷く。
「絶対そうだよ!
 間違いないって!」
 舞から笑顔がこぼれた。いつの間にか、太陽は沈んでしまっていて、緋色に染められた雲の向こうに、幾つか
の星が瞬きだしていた。咲が空を見上げていう。
「さ、舞。
 そろそろ帰らないと、先生に怒られちゃうよ。」
 咲はカバンを背負って、舞の手を取って歩き出すが、舞はその場に立ち止まったままだった。咲が不思議に思
って舞を見つめる。舞の視線はまだ、海のほうを向いていた。
「舞? どうしたの?」
 逆光で咲には、はっきりと見えなかったが、振り返った舞は、少し困ったような顔をしていた。何かひっかか
ったように、舞がおずおずと言う。
「あ、あのね、咲。
 その、さっきのだと、私の気持ちが入ってないと思うの。」
 少しシャイな様子の舞の言葉は、少し足りなくて、咲は小首を傾げた。
「さっきの?」
 舞の声が、また、う、と詰まる。舞は顔を伏せると、小さな声で答えた。
「咲が、私のこと大好きだから、その笑顔が私にも伝わるって・・・いう・・・。」
 話すうちにどんどん小さくなって消えてしまった舞の声とは逆に、咲はぽんと掌を打って逆にいつもよりやや
大きい声を出した。
「ああ、それのことね!
 舞の気持ちが入ってないって、どういうこと?」
 咲が舞の顔を覗きこむ。握った手の平に、しっとり汗を掻いている。舞は意を決して顔をあげて、咲をまっす
ぐ見つめた。
「私だって、咲のこと大好きなの。
 だから、その、私が咲のこと大好きって気持ちも、伝わってると思うの。」
 逆光で舞の表情の機微は咲にはわからなかったけど。この真っ赤な夕焼けの光が、ほんの少し熱くなった顔を
隠してくれたらいいな、と咲は願った。星の瞬き始めた校舎に、チャイムの音が鳴り響く。先生に、怒られるか
な、と思っても何だか上手く目をそらせなくって、手を握ったまま二人ははにかんだように微笑みあった。
「これじゃあ、どっちからどっちへのバトンかわからないね。」
 咲が握る手に力を込める。
「ほんとうだね。」
 舞が同じだけの力で握り返した。最後のチャイムの音が、残響を置いて消えていった。











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うっかり書いちゃったよ。
大好きな板に貼ってこようか悩んでいたり。

07'08.14