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繋ぎとめることは出来なかった。
触れられないから。

傍にいて、手の届く距離に居ても、
隣ではなかった。
見詰め合っていたわけでもなかった。

私があの日、勘違いをしただけなのだ。
目が合ってしまったと。

瞬きにも満たない、刹那だったのに。








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				軌跡を描いた一瞬







『フェイトちゃん、右目はどうなん?』
 空を翔るフェイトの元に、はやてから通信が入った。オープン回線ではない。他の誰
に聞かれるわけでもないチャンネル。
 フェイトはそっと目の縁に触れ、表情を歪めた。乾いた笑いが出る。視界の右半分は
真っ暗だった。
「ちょっとだめそう、かな。
 自分から飛び込んだのに、カッコ悪いね。」
 飛び回っている機動兵器の数は減っていた。あと10数機といったところだ。A、B、
Dの三地区の鎮火も完了したらしい。制圧地区も増えている。もう少しだ。フェイトが
速度をあげ、交戦中のライトニング隊の戦列に加わろうとしたとき、沈黙を続けていた
はやてが口を開いた。
『ごめんな、フェイトちゃん。』
 フェイトは前を見たまま、呟くよう返した。
「はやてが謝ることじゃないよ。」
 風を切る。睫にこびり付いた血が、気持ち悪かった。



 はやては鈍い痛みを感じて、自分の手を見た。爪が掌に深く食い込んでいる。はやて
はより強く、拳を握った。痛みが自分の思考を正常に戻す。感情を押し殺し、平坦な声
で通信士に尋ねる。
「シャーリー、応援はあと何分で着くん?」
 焦っても仕方ない、先ほどから何分も経っていない。判っていても、内心が熱く陽炎
を立ち上らせる。
「あと、30分です。」
 事件発生から、2時間半も待たなければ、纏まった人員すら送れない管理局の遅さを、
今更責めても無駄だ。自分が機動六課でもっと成果を上げればよかったのだ。はやては
短く返す。今吐ける、最大限の悪態。
「はよしてって、一言言っといて。」
 隊員達にも疲労の色が見える。なのはが落ち、フェイトが負傷したことは各員に伝わ
っている。こんな時、自分が塞いではいけない。3機がまた吹き飛ばされる。10機も
もう残っていないのだ。
 無事に、かつ迅速に終える。そして、早くなのはとフェイトを連れ戻す。
「シャマル、なのはちゃんが突然魔法がよう使えなくなったんは、
 なんでやと思う?」
 なのはのバイタル反応、魔力波長、近頃の健康状態の記録を見ているシャマルに問い
かける。機動六課が解散した後も、なのはは度々シャマルの診断を受けていた。
「考えられるのは、やっぱりJS事件の時負った傷の後遺症くらいなんですけど、
 魔力最大値も回復傾向にありましたし。
 なのはちゃんの魔力波長にも異常はないですから、
 多分、リンカーコアの問題ではないと思います。」
 はやてはその言葉を聞き、ぽつりと呟いた。
「身体的な、問題か。」
 そもそも人員の配置を決める際、はやてが一番最初に確認したのは、なのはの健康状
態だった。異常があるようなら、前線に出さず要救助者の救出を任せるつもりだった。
機動六課解散後の記録のどれからも、なのはの身体に問題が生じたということがなかっ
たため、スターズ分隊の隊長に任じたのだ。
 他の指揮官であったならば、こんなことはしなかったであろう。もとより、なのはは
通常の職務についていたのだ。心配のしすぎと言われても仕方のない対応だった。
 だが、実際はどうだ。
 なのはは突然魔法が使えなくなり、フェイトはなのはを守るために傷ついた。
 眼球が傷ついたわけではなさそうだった。恐らく、視神経を傷めたのだろう。もしか
したら、フェイトの右目は見えなくなるかもしれない。
 自分のせいだ。
 判断の甘かった自分のせいで、フェイトは。
「戦闘が終了次第、負傷中のスターズ01、ライトニング01を回収します。
 使用中継ポートは出動時と同じA−091、B−121。
 両方へ連絡を取っておいてください。」
 通信士に命令し、敵機残数を見る。5機。飛び回るその最後の敵勢力に向けて、フェ
イトが魔法を解き放った。高々とバルディッシュを掲げ、天に朗々たる声を響かせる。
『サンダーフォール!』
 厚い大気の壁をイオン化させながら幾筋もの雷光が機動兵器を貫いた。眩い輝きに視
界が焼かれ、その出力に管制室の観測機類が一瞬振り切れる。
 迸る金色の暗闇が、晴れたあと、空に佇むのはフェイトだけだった。
「おっしゃあ!」
 ヴィータが握りこぶしを振り下ろし、勝ち鬨を上げる。スタッフの口からも、安堵の
ため息が漏れる。
 フェイトの周りに、もはや兵器の影はない。計器類にも反応はなし。だがはやては、
モニタの画像に違和感を覚え、じっと見つめる。フェイトの足元で、粉砕された機動兵
器が地表に降り注ぐ。4つの黒い煙。
 4つ。
「もう一機はどこや!」
 はやての怒号が管制室を揺るがした。気の抜けていたみなに、緊張が走りぬける。計
器類が全稼動し、見失った目標を探す。だがどこにも見当たらない。
 あの一瞬では転送魔法で逃げようがない。
 しかも、他の4機はなすすべなく撃ち落されているというのに、何故、一機だけ攻撃
をさけ、計器類からも姿を消しているのか。喉の奥から、言い知れぬ恐怖が競りあがっ
てくる。
 とにかく、早くなのはとフェイトを。
 はやてはフェイトに向かって叫んだ。
「フェイトちゃん!
 なのはちゃんのところへ!」
 フェイトは頷くが早いか、軌跡を描いて飛び出した。