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口にするつもりは無かった。
ずっと。

口にする必要はなかった。

口にしてはいけないと、
思っていた。

だからあの日、零れてしまったものを、
全て、
無かったことにしようと、思ったんだ。








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				扉が叩かれる時







 潰れてしまったビルを、呆然と目に映していることしか、もはや出来なかった。見計
らっていたかのように現れた、最後の機動兵器がフェイトを撃った。普段のフェイトだ
ったら、避けられただろう。
 普段の、両目とも見えているフェイトだったら。
「フェイト、ちゃん。
 やだ、やだよ・・・・。」

 瓦礫の山は鎮座して動かない。十数階建てのビルが、あの華奢なフェイトの上に圧し
掛かっている。押し潰している。あの笑顔を、やさしい手を、金の髪を、背も腰も足も
腕も押し潰している。

 私があなたの手を、払ったから、

 あなたが、

「いやぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!
 フェイトちゃん、フェイトちゃん、フェイトちゃん!!」

 絶叫が喉の奥から迸る。廃墟と化した街で、誰もいなくなった場所で、地面に座り込
んだまま一人で。倒壊したビルが舞い上げた砂塵が降り積もる。初夏の日差しが遮られ
ていた。
 未だ肌を残響が振るわせる中で、甲高く金属を打ち鳴らしたかのような音が、なのは
の耳朶を打った。涙で霞む目を凝らし、なのはは顔を上げる。
 瓦礫の下から、金色の光が溢れていた。
 金色の光は、圧し掛かる瓦礫を破砕して、雲を割り、天へと刃を突き立てる。
「フェイト、」
 その中に立つ、金色の人。黒い斧をその手に提げ、破れ赤く染まった白い外套を翻し、
底光りする深紅の瞳が、虚空を滑る。雷光が撒き散らされ、足元が削れ巻き上がる。頬
を流れる血が揮発し消える。
「ちゃん。」
 彼女の左目が、まだ空域に残っていた機動兵器を捉える。すると、機動兵器の周りに
青白い魔方陣が展開され、その機影が薄くなり消える。転移魔法。別次元へ逃げる。
<< Load Cartridge. >>
 バルディッシュが破砕音を四発響かせる。途端、フェイトの魔力が吹き荒れ、周囲に
複数のスフィアが展開される。フェイトの目は虚空を睨んでいる。追っているのだ、別
次元に逃げたあの機動兵器を。
 吐き出される魔力が空間を湾曲させる。翳した手も、閉ざした目蓋も突き抜けて、閃
光が目を灼いた。フェイトがバルディッシュを振り上げる。咆哮が世界を席巻する。
「サンダーレイジ O.D.J !!」
 圧倒する。放たれた雷撃は高々と天を射抜き、次元を超えて彼方を蹂躙する。叩きつ
ける衝撃が暴風となって襲い掛かり、感覚を粉砕する。永遠のような一瞬を耐えながら、
なのははやっと気付いた。
 立ち上がったフェイトの腕の中に、少女の姿がなかったことに。




「機動兵器の反応、ロスト。」
 シャリオの声ははっきりとしていたが、そこには何か力の抜けたような響きがあった。
管制室に重たい空気が充満する。機動兵器は全て破壊した。市民の救助も、完了した。
あとは、怪我をしているなのはとフェイトを先に回収し、本局からの増員が到着次第、
現場の処理を引き継げば良い。あともう、20分もすれば、終わるのだ。活動目的は達
成されている。
 一人として死者を出さないなんて、土台無理な話だった。白昼の市街戦で、現場到着
自体、事件発生から1時間も経っていて、それまでに死んだ者は数え切れなくって。
元から、幾つもの命を諦めた任務だったのだ。むしろこれだけの少人数で、こんな大都
市で起こった大規模犯罪を相手に、不測の事態にも耐え抜いて、良い出来と言われても
いいくらいなのに。
 はやては思いっきりデスクに拳を叩き付けた。
 画面の中で、フェイトが膝から崩れ落ちる。投げ出されたバルディッシュが地面に転
がる。フェイトとあの少女を分けたのは、ただバリアジャケットを着ているかどうかだ
けだった。インパルスフォームといえど防御力が高いとはいえない。篭手は壊れており、
破けた袖から伸びる白い腕は裂傷に塗れている。体を丸め、背を引き攣らせて呼吸をす
る。

 いつも、たまらなくやさしくて、
 人を大切にするってことがどういうことか、良く知っていて。

 フェイトの魔力はもう底を着いている。しかも、死んでいたっておかしくはない攻撃
を受けた状態で、次元跳躍という他に類を見ない高負荷の魔法を行使したのだ。彼女は
明らかに限界だった。

 いつも、誰かを守ろうと懸命で。
 そんなあなたが、自分の腕の中にいた少女さえ守れなかったことを、

「スターズ01、ライトニング01の転送を。」
 はやてはシャリオに中継ポートへの連絡を命じる。シャリオが小さく頷いた。

 どう思っているか、
 なんて。

<< Alert. >>
 管制室内の全ての計器類が、異常を伝える警告音を発した。各種モニタからの光に、
部屋中が赤く染められる。
「転送魔法確認!
 新たに何か送られてきます!
 数、20!」
 スタッフの一人が計器を読み上げる。はやてはシャリオに向かって叫んだ。
「なのはちゃんと、フェイトちゃんの転送をはよう!!」
 シャリオから返って来たのは悲鳴だった。
「ダメです!
 通信断絶しました!」
 そんなバカな、思わず怒鳴り返そうとしたはやてを遮って、先ほどのスタッフが更に
声を上げる。
「20基転送完了!
 魔導師です!」
 先ほどの機動兵器はこちらの戦力を殺ぐための布石だったのだ。数も体力もこちらに
勝ち目は無い。相手の目的は街の破壊にではなく、管理局との交戦にあったのだ。
 せめて動けないものだけでも、この場から逃がさなければ。
「ライトニング02、ティアナ!
 今すぐなのはちゃんとフェイトちゃんを連れて脱出!」
『了か―――――っ!』
 ティアナの返事が途中で掻き消える。オペレータが声を張り上げる。
「敵魔導師散開!
 ライトニング02と接触!
 スターズ分隊と交戦開始!
 ライトング04、05魔力反応ロスト!」
 複数の画面が一斉に切り替わり、各地点で交戦に入る隊員の様子が映し出される。疲
弊しているところを突かれた隊員達は、防戦に徹するのが精一杯だった。
「スターズ01、ライトニング01の方へ、3人向かっています!」
 その報告を聞いた瞬間。
 はやては片手で空を水平に切り裂いて、控えていた守護騎士達を振り返った。はやて
の服装が一瞬で切り替わる。騎士甲冑が翻る。
「指揮権限を副官へ委任!
 八神はやて特別捜査官以下、固有戦力ヴォルケンリッター出動します!
 シャマル、転送魔法を!」
 守護騎士達が歩み出る。クラールヴィントが強く輝いた。
 応援部隊の到着まで後15分だった。