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第二話









 帰ると言われていた30分も前から、二人してドアの前でそわそわしていた。飼い主
の帰りを待つ犬って、こんな感じなのかな、と頭の中の冷静な部分が呟くけれど、それ
でもドアの前でそわそわするのを止められなかった。
 1分おきに、互いに顔を見合わせる。
「フェイトまま、まだかな。」
「あともう少しだよ。」
 恐らく互いの顔を見て、互いに感じていることは一緒だろう。ヴィヴィオはドアの前
をぐるぐる回っており、なのははというと、逆にドアをじっと見つめて、微動だにしな
かった。
 なんせ、二週間ぶりの帰宅だ。通信で何度か顔を見ているとは言っても、会うのとは
全然違う。昨晩、突然、明日の昼頃に帰宅すると言うので、急遽支度したお帰りなさい
パーティ。もう一度メニューを思い起こす。ばっちりだ。フェイトの好きなものは全て
揃っているし、この前撮ったヴィヴィオの授業参観映像もばっちり流す準備が整ってい
る。
「フェイトまま、まだかなっ。」
「あともう少しだよっ。」
 時間が経つにつれて、ヴィヴィオの眼差しが真剣味と期待に輝きだしている。なのは
は何故だか緊張で掌に汗を掻いていた。
 初めは、気のせいだと思った。しかし、だんだんと大きくなるエンジン音は聞き間違
いではない。ヴィヴィオがなのはを振り返った。なのはは大きく頷いた。家の前でエン
ジン音が止まり、足音が聞えてくる。あと、3歩。2歩、1歩。
 ノブが回されて、ゆっくりと開いていく。ドアの隙間から、真昼の日差しが滑り込ん
でくる。初めに見えたのは、日に透ける長い金髪だった。伺うような声と共に、ドアが、
「ただい―――。」

「フェイトままおかえりなさいっ!!」
「フェイトちゃんおかえりっ!!」
 飛び出してくるヴィヴィオとなのはによって、勢いよく開けられた。二人して、競う
ように帰ってきたその人に飛びつく。
「なのは、ヴィヴィオ!
 あ、危ないよ――――っ。」
 悲鳴と共に、その人は案の定、尻餅をついて倒れこんだ。
「いたた・・・。
 もう、そんな風に飛びついたら危ないって言ってるのに。」
 転んでも抱きついたまま離れない二人を叱るその顔は、しかし笑顔だった。そして、
二人も彼女が怒らないことを知っていて、満面の笑みを向ける。
「おかえりなさい。」
 二人が声をそろえると、フェイトは目を細めた。
「ただいま、なのは。ヴィヴィオ。」
 ヴィヴィオはフェイトの帰宅が嬉しくて仕方ないのか、フェイトの左手を掴んでぐい
ぐい家の中に引っ張っていく。
「ヴィヴィオ、そんなに走ったら危ないよ。」
 そんなことを言いながら、どちらかといえばフェイトの方が転びそうになりながら、
後を着いて行く。彼女の提げた荷物はショルダーバッグだけ。なのはは空いている右手
を少しの間眺めて、
「フェイトちゃん。」
自分の左手を重ねた。するっと、指を絡めて手を繋ぐ。
「なのは!」
 振り返ったフェイトの頬は微かに赤く、でもそこには笑顔があった。





 おかえりなさいパーティは、ヴィヴィオは大はしゃぎで、フェイトはといえば、テー
ブルの上に広がる好物達を見て、子供みたいに目をきらきらさせていて、なのははそれ
が可愛くって、可笑しくって。
 フェイトが隣にいること、それだけで嬉しかった。
「フェイトちゃん、今回の任務は長く掛かるって言ってたのに、
 早く終わったみたいで嬉しいね、ヴィヴィオ。」
 微笑むと、ヴィヴィオは大きく頷いた。しかし、フェイトの顔は、その言葉を聞いて
少し曇った。
「フェイトちゃん、どうかしたの?」
 なのはが首を傾げると、フェイトは言いづらそうな様子で振り向いた。眉毛が困った
ように垂れている。手の中にあるスコーンすら、所在なさげだ。
「あの、ね。
 事件が解決したわけじゃなくって、その。」
 フェイトが困り眉毛をさらに歪めた。
「謹慎処分に、なっちゃったんだ。」

 高町家の天井が、抜けた。

「えええええええええええええ!!!」
 なのはの叫びが天を突いて、フェイトが縮こまる。スコーンがころっと皿の上に落ち
た。ヴィヴィオだけは、言葉の意味が判らないようで、突然大声を上げたなのはを、目
を丸くして見ている。
「な、なのは、そんな大きな声出さないでよ。」
 フェイトが気付いておずおずと口に出すが、しかし、なのはにはヴィヴィオのそんな
様子もフェイトの言葉も入らない。
「だってだってだって、謹慎処分って、
 フェイトちゃん一体なにしちゃったの!?」
 迫るなのはに、フェイトは圧倒されながら、指折り経緯を説明する。
「その、違法捜査っていうか、越権行為っていうか・・・その。
 捜査に本局の許可が必要な世界だったんだけど、
 そこでの広域探査魔法を使用したことと、
 犯人の拠点に入ってから、許可申請出したから。」
 一緒に行ったティアナの責任も取って、謹慎処分ってことになったんだけど、という
フェイトの言葉は尻すぼみだった。それを聞いて、なのはの頭に疑問が浮かぶ。捜査の
際の細かい手続きのことは、なのはにはよく判らないことだったが、それでも、ただの
探索魔法が処罰の対象になったなどと言う話は聞いたことがない。
「それだけで、謹慎なの?
 どれくらい?」
 訊くと、フェイトは困った顔を通り過ぎて、いっそ微苦笑になっていた。
「えと、・・・・無期限。」

 高町家が大地震に見舞われた。

 ヴィヴィオはなのはから少し身を引きつつ、しっかり耳を塞いでいた。フェイトは耳
鳴りのする頭を抑えている。
「無期限って、なんでなんでどうして?!
 フェイトちゃん、まさか言ってないだけでまた無茶でもしちゃったの?」
 言い募るなのはの目に険が含まれる。この間、フェイトが怪我をして帰宅したときに、
あれほど身体を大切にしろと怒ったと言うのに、またしかもこんな短期間に繰り返した
のか。
「してない、してないよ!
 ただ、ちょっと場所が悪かっただけだよ。
 だからそんな目で睨まないでよ、なのはぁっ。」
 半泣きになりながら、両手をぶんぶん振るフェイト。確かに、何処か庇って歩いてい
るようすも無かったことなので、その言葉を信じることにする。一段落した風な二人の
会話に、ヴィヴィオがとりあえず、一番気になっていたことを訊いた。
「フェイトままは、いつまでお家にいられるの?」
 なのはとフェイトは一度顔を見合わせて。
 フェイトが微笑んだ。ヴィヴィオの頭を撫でる。
「長いお休みだから、ずっと一緒にいられるよ。」
 なのはがぽんと手を打った。
「明日、私もヴィヴィオもお休みだから、
 みんなで遊園地行っちゃおうか。」
 ヴィヴィオの歓声が、居間を包んだ昼下がり。