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第三話









 ティアナは窓から、停泊しているL級艦船16番艦『ベリテ』の姿をぼんやり目に映
していた。
 あの停止命令は、艦長が出したものではなかった。捜査令状の申請を出すと、すでに
戦闘行為が始まっているというのに受諾は遅く、執務部から替わりに下されたのが停止
命令だった。
 曰く本件は、「フェイト・T・ハラオウン執務官の越権捜査並びに観測指定世界への
強制介入」として扱われる、とのものだった。フェイトへは無期限の謹慎処分が言い渡
され、艦を降ろされた。
 その後、合同捜査本部立会いのもと、初動捜査を行い、複数のロストロギアの確保に
至った。今までに盗まれたロストロギアの数からすれば少ないものだったが、それでも
これが、本件での初めての進歩となった。
 そのうち、2つのロストロギアについては、発掘終了と同時に盗まれたものだった為、
能力が未知数であった。なので、ベリテはそのロストロギアの解析と、フェイトが持ち
帰った犯人の映像から容疑者特定を命じられ、現在本局に帰還中である。
 その間にも、艦長はフェイトの処遇について度々抗議をしていた。だが、上が取り合
う気配は無く、フェイトは空間モニタの中で、ティアナとシャーリーに申し訳なさそう
にするばかりだった。随分と地位の高い人間が決めたことらしく、提督といえど、そう
そう決定を覆すことは出来ないのだと、艦長が語ったのは記憶に新しい。
 シャーリーは技術部に詰め、ティアナはといえば、フェイトが居ない分の仕事に忙殺
されているうちに、あの突入作戦から6日が経っていた。
 今日は、フェイトがベリテに戻ってくる日だった。
 先日、今まで頑なな態度を取り続けていた上層部が、掌を返したように、フェイトの
謹慎を解き、なおかつすぐ呼び戻すよう言ってきたのだ。艦長は複雑ながらも歓迎して
いる風であったが、フェイトはちょっと寂しそうにしていた。通信をするフェイトの後
ろでは、ヴィヴィオが拗ねた顔でこちらを見ていた。
「ティアナなんてきらーい。」
 と泣かれたことが、今でも胸を疼かせるが。大慌てで謝り倒すフェイトと、ヴィヴィ
オをなだめるなのはが微笑ましかったといえばそうで、ティアナは苦笑を漏らした。
 時計の針は、12時を指そうとしている。そろそろ、フェイトが到着する時間だった。
 窓の外に視線を向けていると、廊下の奥から足音が響いてきた。複数の足音。ティア
ナは反射的に背筋を伸ばし、そちらを振り返った。
 角を曲がって現れたのは、八神はやてとシグナム、シャマル、ヴィータ、それに短髪
の青年だった。はやてはティアナを見つけると、手をひらひら振った。
「なんや、ティアナやない。
 久しぶりやね。」
 相変わらずの人懐こそうな笑みに、ティアナは肩の力が抜けるのを感じた。八神はや
て元機動六課部隊長。今は、特別捜査官として、守護騎士と共に各部署を渡り歩く生活
に戻っているらしい。
「お久しぶりです、はやてさん。」
 そんなはやてと最後に会ったのは、現在の任務に就く前、先月のことだった。あの時
はなんだか七面倒な案件に追われているとかで、やたらと忙しそうにしていて、挨拶と
同時に駆けて行くという有様だったが、この余裕に溢れた軽い足取りは、それが終わっ
たことを示していた。
 ティアナはヴォルケンリッターを振り仰ぐ。こちらも会うのは久しぶりで、そしては
やてと同じように、その顔には安堵が浮かんでいた。ティアナは一人ずつ挨拶をする。
「みなさんも、お久しぶりです。
 シグナムさん、ヴィータさん、シャマルさん。
 それと、――――。」
 シグナムは目礼を返し、ヴィータは片手を軽く挙げた。シャマルは控えめに手を振る。
ティアナの視線は、最後、端に立つ短髪の青年で止まる。はやてと共に、ヴォルケンリ
ッターと歩いてくるということは、親しい仲なのだろうが、ついぞ彼にあった記憶がな
い。
 ティアナが閉口してしまうと、はやてが合点がいったというように、手をぽんと叩い
た。
「そういえば、六課のときは人型にならへんかったなぁ。
 そのむきむきの兄ちゃんは、ザフィーラなんよ。」
「え、そうなんですか!?」
 そう言えば、ザフィーラははやての使い魔だと聞き及んでいる。使い魔が変身魔法を
使えるのは当然のことだった。ザフィーラに尻尾や耳は生えていない。厳しい目がティ
アナをじっと見ている。
「ザフィーラさんも、お久しぶりです。」
 犬型しか知らなかったころは、呼び捨てにしていた気がしたが、何故か自然と敬語に
なる。ザフィーラは口を閉ざしたまま、目礼だけ返した。人型になっても、やはり寡黙
だった。しかし、はやてはそんなザフィーラを、面白そうに眺めている。
「さっき技術部に行くときザフィーラを連れてったら、
 動物同伴はちょっと困ります、
 毛がデバイス内に混入するとショートの原因になるんです、言われて、
 ちょっと傷ついてるんよね。」
 小首を傾げて、はやてはザフィーラを振り仰いだ。
「主――――っ。」
 ザフィーラが情けなく眉を垂らした。
 はやてが可笑しそうに笑った。
「フェイトちゃんはまだ戻ってへんの?」
 はやてはティアナの隣に並んで、窓の外を眺めた。複数の大型機が入り、ベリテに整
備を行っている。機械に特別な興味を持っていなくても、そのスケールにはなんとなく
魅入るものがある。
「そろそろ、来る頃だと思うんですけど。
 何か御用なんですか?」
 眼下で、よく用途の判らない機械が鎌首をもたげる。兵器でもないのに、妙に攻撃的
に見えるのは、重機に対する偏見だろうか。ティアナはどちらかというとやたらと熱心
に整備の模様を見ているはやての方が気になった。
「いやあ、なんか、
 シグナムがテスタロッサ、テスタロッサうるさくてな。
 本局に着たんだから久しぶりに手合わせしたいって、
 もーそれはそれは昨日から夜通し泣きっぱなしで。」
 至極真剣な眼差しで、ティアナに耳打ちをしていると、シグナムが肩を怒らせていた。
「主はやて、嘘を吹聴するのは止めてください。」
 いたずらがばれた、という風にはやてはぺろっと舌を出して、しかしさして悪びれも
せずに返す。
「でも、半分は本当のことやろ?
 フェイトちゃんのこと大好きやもんなー。」
「主!」
 否定を張り上げるシグナムの後ろで、ヴィータとシャマルが忍び笑いを漏らしていた。
ふとそこへ、足音が近づいてくる。ザフィーラが皆より先に、廊下の奥を振り返って見
ていた。シグナムに向けて言い放つ。
「来たようだぞ。」
 その言葉に少し遅れて角を曲がって姿を現したのは、噂をすればなんとやら、フェイ
ト・T・ハラオウン執務官だった。フェイトはティアナとそろい踏みした八神家一同を
見て、初め目を丸くしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「久しぶり、ティアナ、はやて。
 ヴォルケンリッターのみんなも元気そうだね。」
 なんだかんだ言っていたシグナムの顔が、きらっきらに輝いた。