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第三話









「というわけで、模擬戦一緒に見ようか、シャーリー。」
 どういうわけかまったく説明はされていなかったが、はやての満面の笑顔の前に、シ
ャーリーは頷いて、はやての隣に腰掛けた。目の前のモニタには、訓練室の様子が映し
出されている。
「今日は二対一でやるらしいで。
 なんでも、シグナム・ティアナ対フェイトちゃんなんやて。」
 上機嫌に言うはやての膝の上には、ヴィータがぐでっと伸びていた。ヴィータは模擬
戦など興味はないといった風体で、はやてに髪をなでられるまま、気持ち良さそうに目
を閉じている。シャマルとザフィーラは何処かへ行ってしまってここにはいなかった。
「2対1なんて、よくシグナムさんが承服しましたね。」
 感慨深げにシャーリーが言うと、はやては可笑しそうに教えてくれた。
「やっぱり最初はしぶったんやけどね、
 フェイトちゃんが、2対1で負けたら示しが付かないからですか?
 とか言ったらシグナムが怒ってしもうて、
 ティアナ、テスタロッサを落とすぞって。
 フェイトちゃんに煽られるなんて、シグナムも青いなあ。」
 はやてが深々言うと、モニタの中でシグナムがこちらを向いていた。らしくもない恨
めしそうな目をしている。シグナムの周囲に立っているフェイトとティアナは顔を見合
わせて笑っていた。
『主、その部分だけこちらに回線繋ぐのはやめてください。』
 言われてはやては、さも今気付いたという風な声を出す。
「あれ、繋がっとった?
 ごめんなあ、手が滑ったみたいやね。」
 訓練室内での模擬戦のデータを残しておく為の部屋であるここは、中央に座るはやて
の所に情報開示用の端末がある。話し出す時に、はやてがしっかり通話ボタンを押すの
を見ていたシャーリーはフェイト達同様、忍び笑いを漏らした。
 表面上は素直に謝ったはやてに対し、シグナムがそれ以上何かを言えるはずもなく、
憮然とした顔で、気を付けて下さい、とだけ返した。
「ていうのは冗談で、これからが本題なんやけど。」
 通話を切ったはやてが、モニタを眺めながらシャーリーに話し出した。口元にはまだ
先ほどの笑いが残っているが、その眼差しは機動六課の司令室で何度も目にした厳しさ
を宿している。
「なんやけったいなロストロギアが見つかったんやて?」
 シャーリーは肯いた。本局に戻ってからやたらと技術部に詰めることになった最大の
原因、もとい頭痛の種がそれだった。過日の初動捜査で回収された、解析前に盗まれた
二つのロストロギアをシャーリーは思い浮かべる。
「ジュエルシードのようなエネルギー結晶体ではなく、
 むしろ夜天の魔導書のような、デバイスに近いんですけど。
 使われている魔法そのものがどうにも、
 ミッドチルダ、ベルカそれぞれと大きくかけ離れているみたいで。」
 画面の中で、先ほどまでの居た堪れなさそうな様子を掻き消し、シグナムとフェイト
が刃越しに睨み合っていた。模擬戦だというのに、そこにはスクリーンを通してさえ伝
わってくる張り詰めた空気があった。命を掛けた戦いが始まるような緊張。実際のとこ
ろ、二人とも内心では何かを掛けているのだろう。
「どういった仕組みで動くのか、
 ソースを解析しているんですけど、
 二つだけでは中々思う通り進まなくて。」
 自然、暗くなる声音でシャーリーが呟くよう言った。
 傍目には合図があったようには見えなかったが、二人は同時に地を蹴り、その姿が瞬
間視認限界を超える。打ち込みの速度は同じだった。互いの立ち位置の丁度まんなかに、
刃を削りあう二人が現れる。
 そこへティアナが誘導操作弾を打ち込んだ。フェイトはレヴァンティンを弾くと、急
速旋回して宙へ飛び上がる。その後ろを、誘導操作弾は更に追いかける。
<< Schlangeform. >>
 合成音が響いて、鞭状連結刃がフェイトの周りに渦を巻いた。
「そっか。
 ちょっとこれ見てくれへん?」
 はやては初めて訓練室の様子から目を離し、自分の端末を起動させた。はやての手元
に表示されたのは何かのソースだった。画面をスクロールしさっと目を通していくと、
それが何であるかシャーリーは悟った。
「これ、あのロストロギアと同じ系等の?」
 はやては肯定する。
「ご明察、なんやろうな。
 この間まで私が追っとったロストロギア不正取引事件で、
 めでたく回収されたものの一つなんやけど、
 一つだけやとまあ解析し難い、ってことで埃被ってたんよ。」
 現在、このロストロギアについて判っていることは、ミッドチルダ、ベルカとも大き
く異なる魔導式を内蔵していることと、製造されたのが、150年以上前ということだ。
150年前というと、丁度時空管理局の草分期でありおのずと資料の絶対量は限られて
くる。そのため、無限書庫でも未だ有力な情報は得られていなかった。
 シャーリーはその画面を見つめたまま考える。
「何か、この二つの事件って、関連があるんでしょうか。
 今まで発見されたことの無かった魔導式を持つロストロギアが、
 ほぼ同時期にしかも犯罪がらみで出てくるなんて。」
 はやては肩を竦めて、椅子に凭れ掛かった。膝の上のヴィータはいつの間にか寝てい
た。
「どうやろうな。
 決め付けるのは、早いと思うけど。
 まったく関係ないってこともないかも知れへんね。」
 ヴィータの頭を撫でながら、
「ということで、これ役立ててな。」
と笑って、はやてはシャーリーにそのデータを送った。
 モニタの中で、一際激しい爆発が巻き起こった。



 シグナムがレヴァンティンを鞘に収めた。といっても、複数あるシグナムの影に埋も
れて、それは大層目立ちにくかった。自分が何人もいるよう見えるというのは、何とも
おかしな気分であるが、そう感じさせられるのも、ティアナの技術向上のためだと思え
ば感慨深いものがある。
 フェイク・シルエットが放つ数多の魔法の中に、いくつも実弾が混ざっている。避け
きれる数ではないうえ、下手な機動を取るとすかさずティアナの砲撃が飛んでくるせい
だろうフェイトの手数は少なかった。
 一日で二度も、主にからかわれる破目になった報いを受けてもらおう。
 シグナムは柄を握る手に力を込め、咆哮を上げる。
「飛竜一閃!」
 圧搾音を響かせ、カートリッジが排出される。鞭状連結刃が魔力を乗せ撃ち出され、
フェイク・シルエットの相手をし続けるフェイトに肉薄する。瞬間、フェイトがバルデ
ィッシュ・アサルトの刀身を翻した。ザンバーブレードの放つ光が尾を引く。
「疾風・迅雷!」
<< Sprite Zamber >>
 雷が訓練室内を揺るがし吹き荒れる。雷光はフェイク・シルエットも結界・補助魔法
の効果をも破壊して、シグナムの一撃を受け止め弾ける。爆発が空間を席巻し、結界を
失った訓練室の壁中に亀裂が走る。
 爆風に耐えるティアナの元に、光を切り裂いて砲撃が迫った。サンダースマッシャー
だ。ティアナは咄嗟に張った障壁ごと吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
「紫電一閃!」
 砲撃を放つ間隙を突いて、シグナムの一撃がフェイトに襲い掛かる。ザンバーで受け
るがそんな反応で防ぎきれるものではない。ザンバーが弾かれ、フェイトの首筋に刃が
突きつけられた。
 二人の動きが止まる。
 互いに睨み合う。肌が焼け付くように張り詰める。フェイトが確かめるよう口を開い
た。研ぎ澄まされた響きが耳朶を打つ。
「引き分け、ですね。」
 平素にはない威圧的なフェイトの視線を真っ向から受け、シグナムは低い声を出す。
「そのようだな。」
 シグナムの周りには、フォトンランサー発射用のスフィアが20個展開されていた。
金色の光が、瞳に映りこんでいる。二人は相手の気配を窺うようにしながら、同時に刃
とスフィアを引いた。
 途端、フェイトの表情がいつもの笑顔に切りかわる。思い切り身体を動かして、満足
したとでもいうような顔だ。
「今日のティアナ、すごく良かったと思いませんか?
 砲撃を何発か貰ってしまいました。」
 言われてシグナムは、壁際で起き上がるティアナを見た。確かに良かった。機動六課
に配属されたころとはもはや比べるべくも無く、執務官補佐になってからまた一段と魔
法の制御と読みがよくなった。
 二人は降りて、駆け寄ってくるティアナを迎えた。
「また私だけ撃墜・・・。」
 ティアナは不満たらたらな様子で俯いていた。貪欲なくらいに溢れるこの向上心こそ
が、彼女の強さであるとは、周囲の人間全てが認めるところだろう。
「ティアナはAAになって、もう随分経つよね。」
 フェイトに聞かれて、ティアナは肯いた。随分経つのに、未だに落とされずに終わっ
たことが無いことが情けなくて仕方ない、そんな様子だった。
「最近、またティアナの魔法がよくなったって、
 シグナムと話してたんだよ。
 それでね、」
 ティアナがフェイトを見やった。フェイトは微笑んで言う。
「しばらく本局に停泊することになるし、
 この間に、高々度高速飛行魔法を習得してみたらどうかな?
 今のティアナなら、適正試験クリアできると思うよ。」
 ですよね、とフェイトに振られたシグナムは深く肯いた。
「ああ、できるだろうな。」
 突然のことに、面食らったティアナは二人の顔を交互に見た。
「え? え? 本当、ですか?」
 信じられないと顔に書いてあるが、内心はすごく嬉しいのだろう。口ほどにものを言
うらしい目が、期待に輝いている。そこへ、はやての声が響いた。
『私もいけると思うで、ティアナ。
 時間もあるみたいやし、受けてみたらええんやないか。』
 どうする、とフェイトに再度尋ねられ、ティアナは迷わず答えた。
「はい、やってみます!」
 その威勢のいい返事に、フェイトとシグナムが破顔した。はやてもうんうん、と頷い
て言った。
『で、誰が訓練室の修繕費払ってくれるん?』
 やっぱ、結界破壊しちゃったフェイトちゃんかな、との言葉に、フェイトの表情が凍
りついた。