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第七話









 定例の捜査会議には、重苦しい空気が垂れ込めていた。ティアナは体を押し潰してく
る目に見えない圧力に、背筋を伸ばしていることすら苦痛を感じずには居られなかった。
週に一度行われるこの会議には、本件に携わる巡航艦3隻すべてから数名ずつ出席する
ことになっている。
 ティアナの所属するL級艦船16番艦『ベリテ』からは艦長と、ベリテにおける本件
捜査主任であるフェイト・T・ハラオウン執務官、そしてその副官であるティアナ・ラ
ンスターが並んでいる。フェイトのもう一人の副官である、シャリオ・フィニーニはこ
の度は本局技術部の人間として、数名の技術者と席を同じくしていた。
 合同捜査班第二の船であるL級艦船21番艦『パンセ』の椅子には、歳若い艦長と、
熟達した腕を持ち、実力、政治力を兼ね備えている局内でも指折りの執務官と数名の捜
査官が座っている。
 そして、室内のもっとも上座に位置するのは、当ロストロギア強奪事件を担当する第
一の船。XV級大型次元航行船第4番艦『フォルス』だ。合同捜査本部はこのフォルテ
直属であり、居並ぶ数名の執務官と捜査官の中心に、フォルテ艦長にして、合同捜査本
部長官並びに総指揮官である人物が鎮座していた。
「二週間前に第141観測指定世界で確保された2つのロストロギア、
 並びに、強奪犯らが拠点として使用していた遺跡と
 過日の第148観測指定世界に於ける
 強奪犯逮捕の際に発見された遺跡で用いられている魔導が、
 同一のものであると確認されました。」
 技術部から出向してきた一人が、モニタに当該ロストロギアと遺跡の画像、そして、
機械語で記述された魔導ソースを表示させる。技術部員が手を翳すと、その一部が色付
けられた。彼が言葉を続ける。
「ソース解析完了部分は4割に留まります。
 現在判明していることは、
 この魔導式は魔力を用いるのは主にシステムの起動であり、
 主立って運用されるエネルギーは魔力ではないということです。」
 その内容に会議室の空気が変わる。
 魔導とは、魔力を用いて任意の効力を周囲に及ぼすプログラムと定義される。2大魔
導言語であるミッドチルダ、ベルカのみならず、全ての魔導言語は魔力のみを行使する
ものである。技術部からのこの報告は、自明の理が崩れたにも等しいことでだった。
「魔力に変わって用いられるエネルギーがなんであるのかは、
 未解明のままですが、
 第148観測指定世界の遺跡で発見された大型演算機内に残されていたデータにより、
 更なる解析が目下進行中です。」
 技術部からの報告は以上のようだった。次に起立したのは、合同捜査本部の捜査官だ。
遺跡の調査を行った班の人間である。
「遺跡内最奥の部屋は、
 奥行き約112.5メートル、幅約76.5メートル、高さ約70.2メートル。
 容積は6.04×10^5立方メートルです。
 大型演算機の他には何もありませんでしたが、
 部屋の中心部の床と壁が一部抉れている箇所を発見しました。」
 捜査官が部屋の中央に据えつけられた立体モニタに、遺跡の模式図を表示する。直方
体の空間の中央に、床と壁に端を重なり合わせて球体が描き出された。
「抉られている部分は滑らかな局面を成しており、
 空間中央を中心とし球形に空間が削られたものと見られます。
 曲率半径はおよそ39.4メートル。
 L級艦船より小さい型の次元航行船ならば、納まりきる大きさです。」
 ベリテ艦長が柳眉を顰めた。
「それは、捜査本部の公式見解なのかね?
 あの空間に戦艦が納まっていたとでも。」
 捜査官はベリテ艦長に向き直ると、首肯しモニタ内に新たなウィンドウを開く。そこ
には遺跡内部の構造と建材の成分構成がリスト化されていた。
「建材は次元航行船のドッグに使用されるものと似通った構成であり、
 基礎構造も十分に戦艦の運用に耐えうるものであるということから、
 あの場に残されていたものが戦艦である、
 という可能性が十分存在するというのが、捜査本部の見解です。」
 他に質問がなされることはなく、捜査官は発言を終了する。ティアナは着席する彼に
入れ替わり、執務官が立ち上がるのを見ながら、今の話を反芻する。球形に抉り取られ
た痕があるというのはとにかく妙な話であり、どういうことなのか見当も付かない。だ
が、戦艦が納まっていたという考えが突飛であることくらいは理解できた。あんな土の
中に戦艦をしまいこむ意味が無いうえ、巨大な搬出口があるでもないのにどうやってあ
そこから出たのか説明が付かない。
 人間はその質量の小ささゆえに長距離個人転送が可能だが、戦艦はどう足掻いたとこ
ろで出力が不足する。現在の管理局もそうだが、艦隊の次元転送には転送用ポートを利
用しなければ成しえない。それでも、使用エネルギーの大きさ故に、いちいち使用許可
を取る必要がある。
「5日前に出現した戦艦のうち、
 一隻には逃走を許す結果となりましたが、二隻の確保に成功。
 どちらもL級艦船より1ランク小型の船であり、
 身柄の拘束に成功したロストロギア強奪犯は23名です。
 うち7名が前回ベリテが挙げた容疑者でした。」
 パンセ艦長が声を上げる。
「7名がですか?」
 7名とは、第141観測指定世界の拠点に強制捜査をした際に、ベリテが確認した者
全てということだ。執務官は首肯し、逮捕者リストを出した。
「23名は同じ強奪グループの人間であると取り調べの結果判明しました。
 ですが、取り逃がした一隻は同業者であるものの、
 今までに取引があった船ではないとのことです。
 また、3日前、2日前に連続して起こった強奪犯による強襲も、
 別グループの者の仕業であると言っています。」
 モニタに映像ファイルが出力され、連日の強襲事件の様子が映し出される。いずれも
2隻の船が攻勢をかけてきているが、全て別の船だった。表示されている時刻は夜半過
ぎ、警備の交代時間だ。
「強襲を受けたのは第78管理世界の遺跡発掘現場と、
 そこから発掘されたロストロギアの輸送船団です。
 周知の通り、第141、142、148観測指定世界並びに、
 それに隣接する第56、78管理世界は
 本件で標的とされているロストロギアの発見地域であり、
 警戒態勢を敷いている区域でしたが、
 強奪犯らは警戒網並びに護衛船の隙を突いて攻撃を行い、
 いずれも20分以内に当該ロストロギアを奪われるという事態になりました。」
 遺跡発掘現場の方は魔導師戦の様相を呈しており、色取り取りの魔力光が散発的に夜
空を染め上げている。発掘団も応戦しているようだが、圧倒的に戦力が不足している。
一瞬、画面が発光したかと思うと、次の時には完全に発掘団は沈黙した。広域魔法が放
たれたらしく、様々な機器は破損し煙をあげ、地面には人が倒れていた。画像が不鮮明
であるが故にその魔力の固有色は判然としなかったが、黄や白のような明るい色調であ
るようティアナには感じられた。
 そのときだ。
 机を叩くけたたましい音が響き渡り、パンセの艦長が腰を浮かせた。
「捜査班の中に、情報をリークしている者がいるというんですか!?」
 若い艦長の剣幕にしかし皆、冷静な目で彼のことを見ていた。合同捜査本部長官とベ
リテ艦長はそんな彼を一瞥すらしない。
「複数の強奪犯らが徒党を組むなど早々あることではないにも関わらず、
 本件は特定のロストロギアが狙われ、
 発掘現場すら襲われ、あまつさえ警備の隙を突かれているのだ。
 内通者の存在を疑うのは、可笑しいことではない。
 裏で手引きする人間がいるとの推測も、当然視野に入れておくべきことだ。」
 長官は低い声で語る。パンセ艦長は閉口し、目線を下げる。握られた拳が、机上に力
なく置かれる。
「既に流出したロストロギアによる被害も複数件出ている以上、
 主犯は次元犯罪者として数百年間の懲役に科せられることは確実だ。
 これだけの数の人間を利用する代償を払い、
 死して猶も牢獄に閉じ込められることすら厭わない犯罪者の心理とは、
 度し難いものだ。」
 長官の双眸が眼窩を滑り、一人の人物を睥睨した。踏み潰すような圧力のある声で、
その名を口にする。
「そうは思わないかね?
 フェイト・テスタロッサ執務官。」
 室内の全員の視線が、フェイトただ一人に注がれた。フェイトの赤い瞳が、長官を映
す。瞬きすることなくじっと、跳ねつけるでなく受け止めて、フェイトは答える。
「私にも理解の及ぶことではありません。
 ですが、何を捨てでも叶えたい願望を持っているということではないでしょうか。」
 その返答に、長官は小さく嗤った。
「そういうのは、願望ではなく欲望というのだよ。
 やはり、テスタロッサ執務官は我々とは一線を隔す物があるな。」
 長官はフェイトから視線を切り、声を張った。
「これにて会議を閉会とする。
 各艦共、情報統制を徹底せよ。」