はやて







 はやてが私にキスをした。
「フェイトちゃん。」
 僅かの間触れた唇が名残惜しくって無意識に追ってしまうと、はやてはとろける様な
笑みを私に零してくれた。はやての手が私の前髪を掻き揚げ、晒された額にキスをする。
頬にも、目蓋にも、鼻先にも。
「はやて。」
 心臓が怖い位に鳴っていて、背筋を何かが這い上がるようで、逆に気持ち悪くなるん
じゃないかってくらいに熱いのに、はやては微笑んで口付けをくれるばかりで、私の口
からは掠れた声が漏れる。
「はや、て。」
 はやてが私の目を覗き込んだ。琥珀みたいな瞳に、情け無く弛緩した私の顔が映り込
む。
「フェイトちゃん、どうかしたん?」
 顔の左右に肘をつき、はやては私に覆い被さっている。私を組み敷くはやてを見上げ
る。サイドテーブルに置かれたスタンドからの暖色の光が、はやてを背中から照らして、
その微笑みに淡く影を掛けていた。はやてが身じろぎをすると、触れ合っている体が私
の肌を滑る。
「う、ん・・っ。」
 はやての体が、私に重なっている。
 私がまた声を上げると、はやては唇を合わせた。指が勝手に跳ねる。私ははやての肩
に手をかける。はやてが唇を歪めた。
 口の中に、はやての舌が入り込んできた。熱くて、なまめかしい感触に体が震える。
 気持ちいい。私の口の中を舐め、舌の裏をなぞるはやてに、私は自分の舌を絡めよう
と動かした。
 はやての手が私の頭を撫でた。そして、その舌は私から逃れるように、歯列を辿る。
 はやて。
 追いかけて口を開くと、はやては私から唇を離してしまった。途端、部屋の空気が口
に入り込んできて、私に満たされていたはやての匂いが押し流される。
 顔を上げると、はやては私を見つめていた。口の周りが濡れている。
 私はねだる。
「は、やて。」
 なんて声だろう。
 乱れきっていて、哀願の混じった上擦る、いやらしい声だった。それでも、私はねだ
る。ねだらされているのかもしれない。はやては余裕のある表情で私を見下ろしている。
でも、私は早くキスして欲しかった。組み伏せられて、もう腰から下は溶けてしまうん
じゃないかってくらいで、気持ちよくって、だからなのか、体に全然力が入らない。手
を掛けている肩を強引に引き寄せればいいって思うのに、はやてに抑え付けられて何処
も私の言うことを聞かない。縋りつくしかない。
 ただねだるしか出来ない。私の体は、はやての言うことしか聞かない。
 でも、もう、だめだよはやて、ねえ、
「は、やて・・・っ。」
 口を開けて舌を出すと、はやての表情が一瞬止まって。それから、顔が真っ赤になっ
た。上気した声で、囁く。
「それはあかんて、フェイトちゃん。」
 はやての声に、私は体を震わせて。
 噛み付くみたいに、私は口を塞がれた。柔らかくて、あたたかくって、はやての匂い
が溢れる。私も舌を絡める。すると、口の中に唾液が流し込まれた。喉は勝手に鳴った。
背筋を熱いものが駆け上がる。
 はやての左手が、私の胸を下から掴みあげた。
「はあっ、んぁっ・・・。」
 口を割り、声が上がる。絡んでいた舌が離れる。いやなのに。
「あ、う・・っん。」
 キスをしたいのに、声は止まらない。はやての手に胸を包まれ、撫で上げられるだけ
で、私は跳ねてしまう。
「なに、口が寂しいん?」
 はやてが意地悪な口調で言った。口の中に、はやての指が2本入れられた。2本の指
は私の舌の表面も裏側も弄び、口の周りが唾液で濡れた。上手く息が出来ない。でも私
はその指を舐める。はやてが微笑む気配がした。そして、私の胸を舐め上げた。
「は、あっ!」
 体が仰け反って動く。はやての下で、私は身を捩る。視界が霞む。はやてが噛んだ。
「あ、あ、・・・っ。」
 はやての手が私の腹部を撫でる。私の耳には、口の中をなぶるはやての指が立てる音
と、自分の大声と、ベッドが軋む音と、はやての息遣いばかりになる。胸を口に含むは
やての呼気が、肌に触れる。はやてが私の上で息をしている。
 はやての左手が、足の付け根をなぞった。
 そうして、私の口から指を引き抜いて、はやては私を見つめた。
「フェイトちゃん、お願い、してくれへんかな。」
 はやての笑みが視野いっぱいに広がる。黒い睫の上を、光が跳ねる。私に見せ付ける
ように、はやては指を濡らす私の唾液を口にした。
「はや、て・・・っ。」
 細い指の上を、薄く開いた唇から覗く舌がなぞる。しな垂れかかって来るはやての重
み。私の足はいつの間にか開かれていて、はやての体は私の胸から腹に掛けてに乗って
いる。
 左手が、太ももの内を撫でた。はやての白い喉が動く。
「フェイトちゃん。」
 唇から紡がれる名前に、私は服従した。
「はやて、入れて。
 ・・欲しいよ。」
 はやてが満面の笑みを零した。
 指が私の中に入れられた。
「は、あああぁっ!」
 はやての細い指が私の中を乱す。出し入れされる指の感触に、私は震え上がる。
「んあっ、あっ・・・・っ。」
 足の間が濡れる。こんな、溶ける、よ。体が、だめ、だよ。
 足が、
「フェイトちゃん。」
 仰け反り腰を浮かせる私を、はやてが肩で抑え付ける。すぐ傍にあるはやての顔。息
が耳に掛かる。熱い息。はやての熱い息が、私の耳に掛かる。吹き込まれる。
「フェイトちゃん、気持ちええ?」
 上気して、上擦ったはやての声。掠れて、もう余裕なんてなかった。
 私は、叫ぶよう声を上げる。
「気持ち、いいっ!」
 はやてが嬉しそうに、言った。
「よかった。」
 はやての指が、私の奥を突いた。
 はやての肩が私の顎に触る。
 はやての髪が頬を擽る。
 はやての体が、私を組み敷く。
「あっあっあっあっ・・・・・っ。」
 はやての汗ばんだ肌が、私と重なっている。
 熱くて荒い、はやての息が、私に、
「フェイト、ちゃんっ。」
 はやてが私の名前を呼んだ。
 私はいつの間にか回していた腕で、はやてを思いっきり抱き寄せた。
「はやてっ!」

 息が絡まって、体が溶けて、

「ああああっ!!」

 このまま、一つになれたらいいのにね。