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第十話









 撃墜命令とは言っても、管理局の対人戦闘で使用される魔法は非殺傷設定と規定され
ている、命を奪えというわけではない。ただ袋叩きにしろと言うだけだ。だから、大丈
夫だ。
 何度も繰り返している馬鹿げたおまじないを胸中で唱えて、はやては叩きつけそうに
なった拳を手の中に収めた。
 フェイトが失踪してから、既に三日が経過していた。
 なのはが家宅捜索を受けたのと時を同じくして、海鳴市にあるハラオウン家にもまた
管理局の手が入っていた。このところ余り帰ることの無かった為にであろう、そこから
は何も見つからなかったが、ミッドチルダの家は違った。差し押さえられた記憶デバイ
スの中から戦艦の動力部管制系のデータが出てきており、フェイトの容疑はそれまでに
挙げられていた証拠と共に固まった。
 フェイトは再犯と言う扱いに区分されるようだった。二度に渡る次元犯罪。そして、
空戦S+ランクという管理局内でも稀有なまでの実力。ただしS+ランクというのは戦闘に
限った話であり、フェイトは長距離個人転送魔法、広域探索魔法、結界の形成など、高
ランクになるにつれて大きくなる偏りというものが他のものに比べて著しく少ない、実
に多岐な能力を持った魔導師でもある。近接戦闘魔導師というイメージも、クロスレン
ジが得意というだけで、実際にはオールレンジに対応できる。加えて、実戦は初めてと
いう9歳の頃とは違いフェイトは今や、名実共に世に聞える執務官なのだ。生半可なこ
とでは捕まえるに至らない。
 撃墜命令が下ったのは、当然といえば当然のことだった。
 はやての脳裏に、最後に会った時のなのはが過ぎる。一昨日、はやてがXV級大型次
元航行船第4番艦『フォルス』に乗る直前のことだった。なのはは取り繕った笑みを浮
かべ、フェイトちゃんは帰ってきてくれる、何かの間違いだよ、と涙を呑み込んでいた。
 魔導師戦が今後展開されると見られており、空戦部隊にも出動要請は下っている。し
かし、なのははそのメンバーから外されていた。
 地上部隊所属のはやてには、次元航行部隊がいかようなものであるか、明確な認識は
無い。どういった人間の集まりであるかもわからない。もちろん、みなのフェイトに対
する考えも、推し量るには難しい。だが、フォルス艦長、すなわち総指揮官がフェイト
に良い印象を受けていないことは明白であり、艦全体にも張り詰めた空気が流れている。
 先日出航したベリテからは、ティアナ、シャーリーとも降ろされていた。右も左も判
らない中で、仲間と呼べる人間が存在しない。はやての気は急く一方だった。
「主はやて、少しお休みになられたらいかがですか?」
 不意に、背中に声を掛けられて、はやては僅かに椅子から腰を浮かせた。フォルス内
に宛がわれた専用の執務室の入り口に、いつの間にかシグナムが立っていた。厳しい顔
つきのシグナムに、はやては薄く笑む。
「なんや、シグナムか。
 あんまり驚かせえへんといて。」
 生来生真面目なシグナムは、はやての冗談めかした言葉にも、申し訳ありませんでし
た、と頭を垂れる。はやては卓上の時計を一瞥する。ミッドチルダの時刻で午後5時を
示している。もうかれこれ20時間以上、寝ていなかった。
 半年に渡る事件の報告書は、2日かかってやっと全てに目を通し終わったところだ。
目蓋も重たくなってきたことだし、寝ても良い頃だろうとは、思うのだけれども。
「そろそろ、フェイトちゃんかそれとも強奪犯さんたちが出てくる頃やろ。」
 はやては呟いて、開かれたままの空間モニタを睨んだ。そこにはフェイトの勤務記録
と強奪犯の犯行録が映し出されていた。
 フェイトの行動がおかしくなり出したのは、2週間程前に第148観測指定世界で倒
れたあとからだった。それと期を同じくして強奪犯の行動が活発化し、犯行はいづれも
3日と空けずに成されている。
 強奪犯への警戒網はフォルス、パンセ、ベリテの3隻で張っている。無限書庫での魔
法の特定により、出現区域は以前より限定されており、充分3隻で全域を覆うことが出
来る。
「向こうが遺跡またはロストロギアを発見し、
 出てきたところをこちらが迅速に叩く、という方針でしたね。」
 シグナムが腕を組んだまま確認する。はやては肯くとモニタを切り立ち上がった。あ
まり広いとは言えない室内を歩き、一角に据えられたソファに座り込む。
「フェイトちゃんの探索能力には戦艦じゃあかなわへんからな。」
 フェイト・T・ハラオウンがこれほど厄介な魔導師だと、正直はやては思っていなか
った。以前、フェイトが行った広域探索の結果にはやては感心よりも先に驚愕に打たれ
た。四方数十キロに渡る探索を、誤差を1%以内に収めてなど通常どれだけの時間を掛
けたところで一個人に成しえることではない。ここまでの広域の探索は通常、部隊を編
成して行うものだ。
 戦艦であればこの範囲は決して広くは無いが、戦艦にはこの程度の精度と確度を出す
ことは出来ない。自らの動力炉が吐き出す魔力によって、一定値以下の反応は全て誤差
に含まれてしまうからだ。
 これまでに見つかっている遺跡は全て、昔の人の意向か知れないが偽装スキンで覆わ
れている。それをフェイトより早く見つけ出そうと思ったら、フェイトに撃ち落されな
いだけの護衛を付け、広域探索に長けた人間を何人も集めてやらなければならない。そ
れはおよそ非現実的な方法だった。
「まあ、せこい方法やけど、しゃあないやろ。」
 はやては自嘲気味に吐き出して気付いた。この間から、仕方ないとばかり言っている。
なのはが自分に憤慨するのも、当然だった。
 はやては片手で顔を覆い、天井を仰いで目を閉じた。



 突然鳴り響いたけたたましい警告音に、はやてはソファから飛び起きた。気づかぬ間
に寝ていたらしい。いつの間にか掛けられていた毛布が床に落ちる。はやてはそれを放
るようにソファに置くと、艦橋へと一目散に駆け出した。
 廊下に出ると、そこにはシグナムが立っていた。
「現れたようです。」
 その言葉に頷くと、二人は並んで道を急ぐ。
 艦橋のモニターには強奪犯数名と機動兵器数十体が映っていた。前回までに現れてい
た全翼機と明らかに型が異なる。性能の差こそモニタの中だけでは窺い知るに足りない
が、既に交戦に入っているパンセ局員の苦戦を見るに、随分と良く出来た機体らしかっ
た。
 第152観測指定世界の霧深い渓谷を舞台に魔力の輝きが踊る。
「八神。」
 艦長席に鎮座した人物が、はやてを振り返る。
 はやては無言で肯くと、すっと手を水平に切った。
「八神はやて以下、守護騎士ヴォルケンリッター出動します。」