第十二話









 草原を夜風が駆け抜けていく。森の黒々とした木々はざわめき立ち、上空を雲が流れる。
その合間に、皓々と月が浮かんでいた。満月の夜空に星は少なく、月の光に晒されて、は
ためく彼女の外套は、白く目に焼き付いた。
「フェイトちゃん。」
 はやてがその背に投げかけた声に、彼女はゆっくりと振り返った。金のツインテールは、
夜に濡れているみたいに、滑らかな光沢を放っていた。
「久しぶりだね、はやて。」
 彼女が微笑んだ。
「結局、最初の一回しか会わなかったから、
 たまたま応援に呼ばれただけなのかと思ってたけど、
 違うのかな?」
 フェイトはそう言って、首を傾げた。はやてはその発言に、歪んだ笑みを浮かべた。憔
悴した表情。らしくもない、はやては自棄な声を出す。
「むしろ、その逆やね。
 フェイトちゃん係にされてしもうて、
 この一週間は軽く軟禁状態やったよ。」
 はやてが口走った内容に、フェイトは困り顔になる。
「えと、・・・ごめん、でいいのかな?
 でも、艦の方でモニタリングされてるんじゃないの?
 はやて、そんなこと言って大丈夫?」
 フェイトは真剣な眼差しではやてを見つめ、心配をしてくる。その仕草が相変わらずで、
はやては思わず笑ってしまった。眉を変な形にして、困惑しているような、喜んでいるよ
うな、曖昧な風に。
「うーん、フェイトちゃんに心配されてもなあ。
 しゃあないやん、本当のことなんやから。」
 艦橋に入れば追い返され、捜査資料等が回ってくるわけでもなく、通信すら禁じられ過
ごした一週間。フォルスのスタッフは誰一人としてはやてに事件の進展を口外することは
なく、はやての事件の認識は、フェイトに非殺傷設定解除の許可が下りたところで止まっ
ていた。最初しか会わなかったと言われても、フェイトがこの一週間で何度現れたかすら
はやてには知りえない。
「それで、とうとう私が駆り出されて、
 フェイトちゃんがこないなとこに突っ立ってるってことは、
 これで終わりにしようってことで、ええんかな?」
 はやては尋ねながら、フェイトの背後に聳える山々を見上げた。ミッドチルダ南部、ア
ルトセイム地方。フェイトが幼少期を過ごした場所だ。フェイトの足元あたりから、なだ
らかな丘は抉られて、いびつな形になっている。今は草が生い茂るそここそ、10年の昔、
時の庭園が横たわっていた場所なのだろう。
 フェイトが肯いた。
「うん、そうだよ。
 もうパーツは全部揃ったんだ。
 後は、」
 区切られた言葉を、はやてが引き継ぐ。
「組み立てと試用、やね。」
 フェイトは肯定するように、笑みを深くした。花やかなフェイト、その赤い瞳が一瞬、
金色に輝く。
「ごめんね、はやて。
 こんなことにつき合わせて。」
 フェイトの背後に、無数の影が現れる。
 機動兵器だ。
 はやてが嗤う。
「ええんよ。
 10年来の親友を討ったなんて、指揮官として箔が付くわ。」
 暗闇から、はやての周りに守護騎士達が進み出る。
 風が一際強く吹き、森が轟音を上げた。それを契機に、金色の閃光と白銀の瞬きが、空
を染め上げた。