17.デザートは一緒にね










 振り向いたら、フェイトちゃんは丁度付け合せのポテトを眺めていたから、テーブル
中央にあった塩をごん、と目の前に置いた。
「ありがと。」
 降りかけられる塩が真っ白で綺麗やなあ。眼下の大地を白銀に染めよ! なんて、そ
こまでやったらフェイトちゃんの死亡確定やね。白銀に染めたらあかんのです。生活習
慣病に罹ってるフェイトちゃんとか、新世界すぎるわ。
「でも、はやての気持ちが判って良かった。」
 フェイトちゃんが塩粒がついたポテトにフォークを刺した。私は醤油ラーメンの上に
いるメンマさんを一つ掴み上げる。しなちくさん、ともいうけれど。
「まさか、あんなに嫉妬してくれてるなんて、思わなかった。」
 ぽろっと、スープの海から救助したメンマさんが、またも海へダイブした。
「な、ななな、い、いきなり何言うんよ。
 しっと、とか、なんの話なん。」
 あああ、メンマさん今助けてあげるから、故郷に嫁と五歳になったばかりの娘がいる
んやろ、まだ諦めたらあかん! うぐう、なんか妙に箸先が震えて助けられへん。
「はやて、言ってたじゃない。
 嫉妬して、むかつくから失敗した料理を酷くして食べさせた、って。」
 こ、こいつ、覚えてるんか。号泣してたくせに、しぶとい奴や。そんなこと言ってた
気がします、ええしますよ。私、かなりいっぱいいっぱいやったから、何言ったかあん
まりはっきり覚えてへんけど。な。洗いざらいしゃべってそうや、な、この感じ・・・。
「う、うんまあ、
 そんなことも言ったかしれませんなあ。
 ええ。」
 メンマさんの命は諦めます、ごめんね、深海の孤独やね。大丈夫、嫁も娘も私のお腹
の中やから、後で会えます。って言っててなんか残酷な話な気がしてきた。だめだ、恥
ずかしい。
「最近、はやてがちょっと機嫌悪いの判ってたのに、
 どうしてなのかはよく、判らなくて。
 それで、悪いなって思ってたから。
 ごめんね、気づいてあげられなくて。」
 そ、そんな素直に、ごめんねとか言われて、私にどうしろっていうんだか。フェイト
ちゃんを横目で見ると、ポテトを口にくわえたまま、にこっと私に微笑んだ。
「う、ええよ、別に。
 そんな風に言われるほうが、なんか、困る。」
 思わずラーメンに目を落として、スープの中に箸を入れた。こんなことしてたら、麺
がのびちゃうやんか。すくい上げた麺をふ、っと吹いて麺を啜る。すると、フェイトち
ゃんが椅子に背を預けた。
「でも、本当にシャーリー達の言ってる通りだから、驚いちゃった。」
 ・・・・。
 は?
 なに、その、シャーリー達の言ってる通りって。
「やっぱり出勤してもお腹痛くって困ってたらね、
 シャーリーに何食べたんですか、みたいなこと聞かれてね。
 闇鍋だよ、って答えたら、
 いいから、早くはやてさんに謝ってきてください。
 何やって怒らせたんだか知りませんけど、
 どうせフェイトさんが筋金入りの鈍感だからなにかやらかしちゃっただけです。
 今ならまだ間に合います。
 って。」
 ん、あ、ああ、シャーリーってそういうとこフェイトちゃんより鋭いからな。フェイ
トさんが筋金入りの鈍感だってわかってるって、えらいぞシャーリー。やなくって。
「それで、こんなことあっただけだよ、って話したら、
 はやてさんがヤキモチやいただけですね、ごちそうさまです、
 って言われて。
 ヤキモチやくってなんで、って思ったんだけど、」
 ちょっと、私、この人の言うてること理解できへんのやけど。私と最近会ったときの
こととか、洗いざらいしゃべるのもどうかっては、思うけど。
「お昼のとき一緒だったから、あの子にも、
 あれは私もヤキモチだったと思いますよ、なんて言われてね。
 そうなのかなあ、嫉妬してたのかなあ、わかんないなあ、って思ってたら、
 本当に、はやてが嫉妬してたっていうから、
 そうだったんだ!! って――――。」

「そうだったんだ! じゃないわあボケぇぇぇええええええ!」
 思いっきり両手をテーブルに叩きつけて、私は勢いよく立ち上がった。目を見開いて
る場合じゃないぞ、テスタロッサぁぁああああ!
「なにそれ、人に言われるまで、全然、まったく、これっぽっちも!?
 じゃあなに、今さりげなく横に座ったのって、シャーリーの入れ知恵!?」
 フォークもナイフも落として、フェイトちゃんが私を驚いた顔で見上げてくる。ばっ
ちり私を見たまま、あろうことか、首をこくこくと縦にふりやがったこんにゃろー!
「せ、正確には、シャーリーとあの子の二人が、だけど。
 すごいんだよ二人とも、はやてがどうヤキモチやいてるのかとか、
 すっごく細かく予想をね!」
 殴ってええよね!
「アホかぁぁぁああああ!!!
 そんなん人に教えてもらうバカがどこに居るんや!
 ここかぁあああ!!」
 胸倉を掴み上げて、がくがく揺すると、フェイトちゃんが「ううあう、はやて、何す
るの!」なんて悲鳴を上げたけれど関係あるか! こっちの傷ついた乙女心をどうして
くれんの!
「感動を返せぇぇぇぇえええええ!!」
 なにこの人! 鈍感って言葉で片付けてええの!? なんか今、人生で一番傷ついて
る気がするんやけど。こみ上げてくるこれは何、涙!?
「うう、はやて酷いよ。
 そんなこと言ったら、まんまとだまされて闇鍋を食べた私の身にもなってよ!」
 私の手をぐっと掴んで、フェイトちゃんが立ち上がった。身長差だけで形勢逆転でき
ると思ったら間違いやかんな!
「だまされたってなに、あの時おいしいって言うたやん!
 はやての作った料理って、なんでもおいしいねとか言うてたやんか!」
 背伸びして、ぐっと顔を近づけてフェイトちゃんに迫ったる。いつもはこれだけ強く
出ると半歩退くけど、今日は逆に半歩近づいて来よった。なんや強気やな。
「失敗した料理をもっと酷くしたって言ってたじゃない!
 あの時は、一生懸命作ったのにうまく行かなかったんだな、
 って思って食べたけど、
 そうと判ったらだまされたとしか言いようがないよ!」
 なに、フェイトちゃんのくせに、生意気言いよる。
「だまされたのはこっちや!
 はやての作った料理はなんでもおいしい、って言葉の信憑性が、
 がったがたに落下ですよ!
 証券会社の倒産ですよ!!」
「はやての作った料理はおいしいよ!
 でもさ、あれは酷いと思うんだけど!
 家にあった調味料、全部入れたでしょ!?
 ピクルスが出てきたときには、何事かと思ったよ!?」
「残念ですね、ピクルスは調味料じゃなくって漬物ですー。
 そもそも、醤油を冷蔵庫に入れておくのが間違ってるんや!
 あほちゃうか、コーヒーの隣に醤油とか、脳みそとろけてるんやないの!?」
「ピクルス、瓶の中身全部を汁ごと入れたくせに!
 ラベルをちゃんと確認しないからいけないんだよ!
 ちょっと注意力が足りないんじゃないの!?」
「なにをー!」

 そのとき、めきょ、と左側から私の頬に何かが突き刺さった。
「いたああ!」
 思わず仰け反って倒れ掛かるのを、フェイトちゃんがうまい具合にフォローしてくれ
た。くそう、こんなときにまで格好つけおって。って思うけど、手を借りて立ち上がり、
私は頬に突き刺さってきたものの正体を仰いだ。
 蛍光灯を背負い、虚空に仁王立ちする一つの人影。
 銀色の髪が波打つように広がって、その姿を色づける。その人の名前は、
「リイン、フォース。」
 私、もしかして、リインにドロップキックもろたの? リインが今までみたことのな
いような形相で睨んでくるんですけど。軽蔑と憤りが滲んだ表情って言うん? 負のオ
ーラで空間が歪んでますよ。
「ど、どうかされましたか、リインフォースさん。」
 思わず敬語になって話しかける。うわあ、リインが私をこんな冷たい目で見る日が来
るなんて!
「ここは食堂だっていうのに、なにぎゃんぎゃん騒いでるですか。
 はやてちゃんも、フェイトさんも、
 もう少し自覚を持ったらどうなんですか!」
 くわっと見開かれた目から放たれる威圧感で胃が痛む。フェイトちゃんが少し私に近
づいた。フェイトちゃんも怯えてるんかい。まったく。
「あ、その、ごめん、リイン。
 ちょっとカッとなっちゃって。」
 フェイトちゃんがおずおず言う。しかし、リインは鈍く目を輝かせて、絶対零度の声
を放った。
「ごめんで済めば警察はいらないんですよ、フェイトさん。」
 なぜ、なぜそこで唇を歪めて笑うんですかリインフォースUさん! 教えて!
 と、そこにのんきな声が舞い込んだ。
「リイン、もう許して上げなよ。
 ただの痴話げんかにかまってても、疲れるだけだよ。」
 リインを手招きしてるのは、トレーをもったなのはちゃんやった。なのはちゃんが私
の向かいの席にトレーを置くと、リインがすかさずなのはちゃんに抱きつく。
「だって、食堂内に響く声でマイスターが喧嘩してて、
 リインは恥ずかしかったです!」
 涙ながらに訴えるリインを撫でると、なのはちゃんはうんうんと肯いた。
「そうだよね、あれは恥ずかしいよね。
 リイン、家に来る?
 ヴィヴィオも喜ぶよ。」
 あ、うちの末っ子をタブらか―――!
「行くです。
 今日から、なのはさんの家の子になるですー!」
 あ、ああああ・・・、り、リインに見捨てられてもうた。うう、リインが私以外の人
とあんなにきゃっきゃうふふしてるなんて。
「はやて、元気だしなよ。
 リインも冗談に決まってるんだから、ね?」
 思わず椅子に座り込んだ私の背を、フェイトちゃんが叩いた。リインを見ると、私に
向かって舌を出した。ひ、酷いやん、リイン。
「ご一緒してもいいですか?」
 そこへ、シャーリーと新人さんがトレーを持ってきた。フェイトちゃんの前には新人
さん、なのはちゃんを挟んで反対側にシャーリーがついた。
「なにはともあれ、みんな事件解決お疲れ様。
 なんか、すごい事件だったみたいだね。」
 なのはちゃんがそう切り出して、フォークを手に取った。ミートソーススパゲッティ
や。あと二人は、なんかよくわからないけど、どっかの世界の料理を持っていた。私も
これ以上放っておくと、ラーメンが可哀想なことになるから、どうにかしてあげないと
あかんね。
「うん、ちょっと大変だったけど、
 でもみんな無事に終わってよかったよ。」
 フェイトちゃんの言葉に、そっか、ってなのはちゃんは頷くと、私の顔を見た。左目
半分しか開いてなくて、包帯ぐるぐる巻きやったら気になるよね、やっぱり。
「フェイトさん、なにさらっと格好つけてるんですか。
 作戦検討中なんて、熱くなっちゃって凄かったくせに。」
 シャーリーがぽろっと言った。
「しゃ、シャーリー!
 何を突然いいだすの?」
 フェイトちゃんが顔を赤くして、手をぶんぶん振る。お、なんやおもしろエピソード
でもあるんかな。
「ふーん、なにかあったんだ。
 シャーリー、私聞きたいな。」
 なのはちゃんがシャーリーに尋ねるから、私もそれに同調した。
「うん、私も知りたいなあ。」
 おいしいチャンスは逃さへんで。フェイトちゃんの顔赤いなあ。
「爆破直後の作戦検討中とか、向こうの偉い人怒鳴りつけてたんですよ。
 人の命をそんなに簡単に諦められるのか!
 あなた達はただの腰抜けだ!!
 ―――なーんて、それはもうすっごい剣幕で!」
 お偉いさん相手に、そんな怒鳴りつけるフェイトちゃん、か。
 会議に並んでる面子の中で一番若いはずのフェイトちゃんが、腰を浮かして怒鳴り声
を張り上げてる。
「へ、へんなこと言わないでよシャーリー。
 私、怒鳴ってなんかいないよ?
 ほんとうだよ?」
 今、困ったように眉を垂らして、みんなの顔をぐるぐる見渡してる様子からじゃ、全
然想像つかへんけど。きっと、ほんまなんやろうな。
「凄かったよねー?」
 シャーリーが新人さんの方を向いて、同意を求めて首を傾げた。
「はい。
 別人みたいでした。」
 手を合せて、新人さんがにっこりと肯定すると、フェイトちゃんは真っ赤な顔でなの
はちゃんと私の顔を、交互に窺ってくる。
「へー、フェイトちゃんがそんなに怒鳴ってたんだ。」
 なのはちゃんが面白そうに、ちょっと白々しく納得した素振り。
「そうなんや。
 へー。」
 私がフェイトちゃんの顔を下から覗き込むと、
「うー・・・。」
と唸りながらフェイトちゃんが唇を引き結んだ。耳まで赤くして顔を背ける仕草が、な
んや。うん、可愛い。
「まあでも、一番凄かったのは、やっぱりあれだよね!
 私、テレビで見たよ!」
 なのはちゃんが思い出したように手を叩いた。
「あ、私も後でテレビで見ましたよ。
 あれは凄かったですよね!」
 シャーリーが大きく首を縦に振る。
「あれ?」
 あれって、なんのことやろう。新人さんもなんかわかってる様子で、うんうん頷いて
る。フェイトちゃんは、なんか困り顔で私に顔を向けた。うーん、こっちは判ってない
みたいや。
 なのはちゃんとシャーリーは顔を見合わせると立ち上がって。
 二人がひしっと抱き合った。
 え、えええ・・・・?
「心配してないわけ、ないよ。」
 なのはちゃんの唇から、切ない声が漏れる。あ、なんか、聞いたことがある、フレー
「私、はやてのこと心配で、しんぱい、で、
 死んじゃうかと、思った・・・っ!」
ズ、やね、なんて・・・。へへ。なのはちゃんが背中を引き攣らせる。泣きまね、うま
いんな。
「こんな、怪我して。」
 なのはちゃんがシャーリーを強く抱きしめて、涙が滲むような声を震わせる。
「よかった。
 無事でよかった。
 ほんとうに、よかっ・・・。」
 伏せたなのはちゃんの目から、涙が零れたように見えた。
「ごめん、フェイトちゃん。
 ・・ごめ、なさいっ。」
 なのはちゃんへシャーリーが縋りついて、これまた悲しい声を張り上げる。
「怖かった、怖かったよぉ・・・っ。」
 そんで、なのはちゃんがシャーリーの頭に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
「ばか、ばかはやて・・・っ。」
 そんで、二人は強く抱きしめあったまま、シャーリーの方が大声を上げて泣き出し、


「・・・・・・・は?」


 なに今の。
 どっかで聞いたことのあるやりとり。すっごい身に覚えのある今のやりとりって、一
体なに? それとも単なるデジャヴュかなんかで、ただの劇の一幕?
 シャーリーと離れたなのはちゃんが、面白そうな顔で身を乗り出してきた。
「でなに、このあとちゅーとかしたの?」


「はあああああ!?」


 テーブルを両手で叩いて私は立ち上がった。
「ちょっと、今の何!?
 な、なんで、なのはちゃんたちがそんなの知ってるん!?
 どういうこと!!」
 食いかかると、なのはちゃんが意外そうに目を丸くした。なんでそんな反応になるん
や。普通、人とのプライベートな会話を他の人が知ってたらびっくりするで!
「はやてちゃんもフェイトちゃんも、テレビとか見てないの?」
 え、なに、テレビって。昨日は家に帰るなり、ヴィータとシャマルには怒られて、シ
グナムには無言でひたすら涙を流されて、リインとアギトに大丈夫か大丈夫かなんてつ
いて回られて、夜中にはザフィーラが私のベッドの傍で丸くなってるとかいう至れりつ
くせりで、見てる暇なんてなかったんやけど。
 フェイトちゃんを振り返ると、赤い顔のまま、私に向かって首を左右に振った。なの
はちゃんは、そっかー、なんて言うと、食堂の中央の方に向かって手を振り上げた。中
央には一個、大きなモニタがあってこの時間帯なら普通にテレビとして機能しとる。机
5列分くらい離れてるけど、ここからでもよう見えるサイズ。今は、なんやろう、どっ
かのスポーツニュースが流れとる。ただ地球ではついぞ見かけなかったスポーツやから、
ようわからへんけど。
「すみませーん、ちょっとだけチャンネル変えてもらっていいですか?
 こんな感じのに!」
 こんな感じ、といいながら、なのはちゃんが私とフェイトちゃんを指差した。こんな
感じって、別に有名人でもなんでもないんですけど、なに言うてんの。って、向こうで
おっちゃんがオッケー出したし。しかもなんか、今のなのはちゃんの声で食堂に居るほ
とんどの人がこっち振り返ってるし。全員訳知り顔やし。なんやの、これ。
 画面が一瞬ぷつっと途絶えて、新しい映像を映した。
 周りのビルの倍くらい高い高層ビル。真ん中よりやや上方に位置するフロアが真っ黒
く焼け焦げたビルが映し出された。これは、ヘリから直接撮った映像やろうか。色が鮮
明な代わりにプロペラの雑音とブレが画面を揺らしとる。
『突入作戦は成功したとの情報が入ってきました!
 あ、今、ビルから誰か出てきます!』
 これは昨日の事件の映像か。レポーターの声がガンガン入っとる。あ、そうか、この
ときAMFが使われてたから、映像記録に魔法技術は使えへんかったから、こんなんな
んか。
『魔導師みたいですね。
 管理局の人でしょうか、手に誰か抱えています。
 先んじて突入した八神二佐でしょうか!』
 ううわ、ちょ、私か。確かに報道のヘリ回ってたから、こういう可能性もあったけど、
なんか照れるな。レポーターがもう爆弾の処理は終了したこと、これから順次人質も避
難させられることを言うてる一方で、やめなさいカメラマン。ええから! 私達のこと
アップにせんでええから!
 私がフェイトちゃんの顔押しのけてるところまで、ばっちり映ってる。アップにする
とヘリからでも一応表情くらいみられるんやな。フェイトちゃん困った顔してるわあ。
「って、なに、なのはちゃん、この映像。」
 なんか余計頭痛くなってきた気がして、額を押さえながら呻く。するとなのはちゃん
はテレビを見たまま、横顔で私に笑いかけた。
「あれだけ大きな事件なんだから、放送されないわけないじゃない。
 一つの世界の問題に管理局が出てきてるんだし。
 あ、ほら、AMF解除されたから、映像がヘリ視点から切り替わるよ。」
 ぺしぺしなのはちゃんに肩を叩かれて、私はテレビへと目をやって。

 思わずいろんなものを吹き出しました。

 大泣きしてる私の顔のどアップがそこにはありました。
『私、一人で、怖かった、のに・・・っ。
 すっごく、フェイトちゃんのこと、心配してたのに・・・!
 私だけなんだって、そう、思って。』
 額から後ろ頭から流れた血だとか、鼻血だとか口切ったのとかですっごい凄惨な顔に
なっとるけど間違いなくあれは私。ちょうぼろっぼろ泣きながら、フェイトちゃんにっ
てえええええええ!!!!
「ちょ、なにこれ!!
 なんでこんなの流れてんの!?」
 声を荒げる私に、なのはちゃんもシャーリーも新人さんも、リインも、果ては食堂に
居るほかの方々まで生暖かい目を
『心配してないわけ、ないよ。』
「ちょ、恥ずかしいから!
 なにこれ、やめてって!!」
 あああああ、これ、私が抱きしめられた時の台詞やないか! テレビなんかみない、
テレビなんか見るもんかー! って他の人みんなこれみてんの!?
『私、はやてのこと心配で、しんぱい、で、
 死んじゃうかと、思った・・・っ!』
 私は今恥ずかしくて死にそうです! ああそうや、ようよう考えたら、ある程度の映
像はこの魔法世界においてはその場にカメラがなくてもなんとかなるんですよね!
「この局のが一番よく撮れてるよね。
 他の局はまだ結構AMFが残したノイズの影響を受けてるっていうか。」
 なのはちゃんが冷静に分析する。
「って、そんな、いろんな局でやってんの!?」
『こんな、怪我して。』
「うっさい!」
 ていうか、ここまではっきり音聞こえるって、あのチャンネル変えたおっちゃん音量
上げおったな! 周囲から好奇の視線が突き刺さってなんか息が詰まるんですけど。
「しかたないです、
 はやてちゃんが一番最初にビルの中から出てきた人だったんですから。
 しかもあんなに堂々と出てきたら、注目されるに決まってます。」
 リインが不機嫌そうに腕を組んで突っぱねた。判らなくはないけど、こんなシーン流
さなくたって。
『よかった。
 無事でよかった。
 ほんとうに、よかっ・・・。』
 フェイトちゃんが泣く声が響いた。嗚咽が食堂に溢れるってちょっとなんか背筋がぞ
わぞわするんやけど。
『ごめん、フェイトちゃん。
 ・・ごめ、なさいっ。』
「うわああああああ!!
 おっちゃん、テレビ切ってぇぇぇぇえええええええええ!!」
 自分の泣いてる声なんて聞きたないわああああああ!!!
「怖かった、怖かったよぉ・・・。」
「ばか、ばかはやて・・・っ。」
 って、なのはちゃんとシャーリーがまたやってるし! このぉ!
『怖かった、怖かったよぉ・・・。』
 自分の、声が。ちょお甘えてる声やんかこれ!
「ちょっとフェイトちゃん、黙ってないで、この人たちとテレビ止めてって!」
 ものっそい勢いで振り返ると、フェイトちゃんは背もたれにもたれかかって、真っ赤
な顔で呆然としていた。目とか潤んでるし、いや、そういう顔も、ええけど、そんな顔
してる場合やないっていうか、衆目の前でそんな顔すんな! 私の前でだけにしなさい!
「フェイトちゃん!」
 怒鳴ったらフェイトちゃんが私を振り仰いだ。
『ばか、ばかはやて・・・っ。』
 画面の中のフェイトちゃんが涙声で私を叱るけど。目の前のフェイトちゃんは私を見
上げて、真っ赤な顔のまま、笑った。
「はやてが無事で、よかったって、思うよ。」
 耳まで真っ赤なくせに。
 目尻に涙溜めながら、そんなんいうのって、ずるい。
「心配しなくても、はやては私の一番だよ。」

 ずるいねん。

「う、うっさいわ!
 こっぱずかしいこと真面目な顔で言うな!」
 すぱこーん、とフェイトちゃんの頭を引っぱたく。痛いよぉ、なんて情けない顔で私
を見上げてくるフェイトちゃんの頭をぐしゃぐしゃに掻き撫でる。
 テレビは私達のシーンが終わり、違うニュースへ。どこかの世界の、何かの様子を描
き出してる。でも、私の前にはフェイトちゃんが居て、
「チャンネル変えたって、昨日からどの局でもこの映像流してるよ。
 夕刊とか号外の見出しになってるのもあったし。」
 なのはちゃんが居て、
「今日発売の週刊誌にも載ってましたよ。
 大ニュースですからね、今回の事件は。
 あとで買って渡しましょうか?」
 シャーリーがいて、
「ああー、もうそんなことしらへん!
 もう何も見たない、何もしらへん・・・・!」
「そんなに気にするなら、あんなことしなければよかったんです。」
 リインが居て、
 新人さんがいて、他の局員の人が居て。
 私も腹を括らなあかんのか知れへんですね。命令無視だのなんだのいっぱい規則違反
してもうた責任もとらなあかんし。フェイトちゃんも今回、私のせいで命令無視をして
しもうた。ほんまは結界維持だけで突入はしないっていう話やったらしいのに、な。
「なあ、名前なんやったっけ。
 教えてくれへん?」
 唐突に振り返ると、フェイトちゃんとこの新人さんが驚いた顔をした。
「はは、ごめんなあ、なんやぱかすか殴られたせいか、名前覚えてなくって。
 もっかいだけ、ええ?」
 新人さんははっきり頷くと、快活な笑顔を花開かせた。
「はい、私の名前は―――――。」