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「ひさしぶりの翠屋はええなあ。
 やっぱり他のお店より落ち着くわ。」
 はやてはそう言ってテーブルの上に伸びた。お昼を過ぎたばかりの時刻、デザートには
少し早い為か、店内はいつもより人が少ない。なのはもはやての正面に腰を下ろすと、頬
杖をついた。
「うちの売りはおいしいケーキと、居心地の良い店内だからね。」
 なのはは看板娘さながらに言う。家族経営なだけあってそんなに広い店内ではないが、
掃除も行き届いており、煩く騒ぐような客も無く、こざっぱりと纏まった空間は確かに居
心地が良い。なのはが自慢するだけのことはある、とはやては来る度に実感する。
「はやてちゃんは、モンブランは好きだったわね?」
 客の注文を一通りこなし終えた桃子が、お盆を片手に二人のテーブルへと訪れた。
「はい、好きです。」
 はやてが快活に答えると、桃子は「それはよかったわ。」と嬉しそうにお盆を下ろした。
そこに載っているのは、なのはですら見たことのないモンブランケーキだった。
「あれ、お母さん、これ新メニュー?」
 淡いブラウンのクリームが螺旋を描いて山を作る。その頂きにはマロングラッセが載り、
彩りを添える金箔が夕日に映えるモンブランさながらに、店内の明かりを反射していた。
「そうよ、今年の秋限定メニューに加えようと思って。
 二人共試食してくれるかしら。」
 桃子がそう尋ねると、はやてが目をきらきらさせて顔を上げた。
「もちろんです!
 桃子さんのケーキおいしいから、
 こんな試食させて貰えるなんてもう願ったり叶ったりですよ!」
 満面の笑顔が本当にうれしそうで、なのはははやてに見えないように笑った。はやての
右手はフォークを掴みたそうにしていて、それがなおさら可笑しい。澄ました顔をしてみ
せたって、なんだかんだで本心を隠しきれない所が昔と変わっていない。
「あら、うれしいわ。
 じゃあ、今度から試食はいつもはやてちゃんに頼んじゃおうかしら。」
 桃子が目元を綻ばせると、はやてが軽く腰を浮かせた。
「ほんとですか!?
 もうすっごいがんばりますよ!」
 頑張るって何を頑張るんだろう、なんてなのはは唇に浮かんだ三日月型の笑いを噛む。
そのとき、店のドアが乾いたベルの音を鳴らして開いた。
「いらっしゃいませ!
 あら、今日は一緒にいらしたんですね。」
 桃子がそう続けるのを聞いて、なのはとはやてはドアの方を振り返る。立っていたのは
二人の女性。片方が手をなのは達に向かって振っていた。
「なのは、はやて。お待たせ。」
 金色の髪が揺れる手と共に動く。柔和な相貌を崩し、フェイトがなのはとはやての方に
ゆっくりと歩み寄る。そのもう片方の手はリンディの腕に回っていて、二人の足並みはお
揃いだ。
「フェイトちゃん!
 リンディさんもお久しぶりです。」
 なのはが挨拶をする。その向いの席に座ったはやてが、フェイトに満面の笑みを向けた。
目の奥で星が瞬いているような輝きが微笑ましくて、リンディは思わず破顔する。
「もう、フェイトちゃん遅いでー。
 5分遅刻は日本やと3時間の遅れに相当するんやよ。」
 フェイトに向かってぴっと人差し指を立てるはやては、口とは裏腹にさりげなく窓際に
詰めて席を空ける。その空いた座席に誰が座って欲しいのか、あまりにも眼差しが雄弁に
語る。
「えぇ、意地悪言わないでよ、はやてぇ。」
 困った様に眉を垂らすフェイトは、それが判っているのか判っていないのか、するりと
リンディから腕を解くとはやての隣に腰を下ろした。
「リンディさんもここどうぞ。」
 なのはが唇を浮つかせながら、リンディに自分の隣を空けた。あからさまなはやての態
度が面白くて仕方ないらしかった。
「お母さん、リンディさんとフェイトちゃんにもー!」
 なのはが腰を浮かせて、キッチンの桃子へと呼びかける。すると、もう用意していたの
か桃子はダージリンを淹れた紅茶カップを二つと試作品のモンブランを載せたお盆を腕に
出て来ると、なのはに向かってちょっとだけ頬を膨らませた。
「もうなのはも、座ってないでちょっとは手伝いなさい。」
「はーい。」
 つんと唇を尖らせて返事だけは素直ななのは。桃子はリンディとフェイトの前にケーキ
と紅茶を並べると、なのはの後ろの席に回り込んで、きゅっとなのはの頬をつねくった。
お餅みたいに頬をむにっと伸ばしたなのはが、不満げに益々唇を尖らせる。
「お母さん、もう、みんなの前でやめてよ。
 なのははそんな子供じゃありません。」
 なのはの言葉に、桃子はいたずらっぽく口の端を吊り上げるとわざと唇を突き出した。
「いつまで経っても、子供は子供ですー。」
 突き合わせた表情の作り方がなのはと桃子はまるでそっくりで、はやてが吹き出してフ
ェイトを肘で小突いた。フェイトも唇を震わせると、なのはは真っ赤な顔で桃子の手から
逃れて、澄ました様子で座り直す。
「いつまでも子供扱いしてっ。困っちゃうよね。」
 そう零すなのはの後ろに立った桃子が、目元を綻ばせた。なのはと同じ亜麻色をした睫
の奥にある瞳が、あんまり優しそうになのはを映しているから、はやては笑い声を立てて
モンブランの頂点の栗を口に運んだ。