目に突き刺さる初夏の陽光が眩しい。思わず翳した手のひら、その指の隙間から一条の青空がなのはの左
目を掠めた。
「全員、揃ったかな。」
 脇にノートを一冊挟み、胸ポケットには黒いボールペンが一つ。なのははきれいに刈り込まれた芝生を踏
みながら、グラウンド中央を見渡した。土の水分が蒸発していくうっすらとした揺らぎの中、運動着に身を
包んだ人影が多数ある。なのはは近づくにつれ鮮明になっていく彼らの様子を眺めながら、昨日目を通した
資料内容を思い出した。22名の若い魔導師達があそこにはいるはずだった。ひときわ背の高い黒髪の男の
子がなのはに最初に気づいて、こちらを振り返っていた。
 歩いているだけでも少し汗ばむような陽気だった。なのはは額に掛かる前髪を除け、彼に分かるよう大き
く手を上げた。
「これから合同訓練を開始します!
 君、全員を整列させて!」
 他の人がこちらを振り向いた時には、彼は頷いて皆の前に回るよう駆け出した。白いジャージがひときわ
眩しくて、なのはは目を細める。ここに集まった皆の士気は、どうやら期待通り高そうだった。管理局分局
が所有する中でも広い訓練施設を借りたが、十分使いこなせるだろう。グラウンドの奥は針葉樹の木立だが、
そこを抜けた海上には仮想訓練場もある。なのははぎゅっと手のひらを握りしめた。
「点呼!」
 4列に並んだ訓練生に向かって鋭く告げると、先ほどの青年から「1!」と歯切れのよい声が上がった。
今回の合同訓練は管理局内の若手魔導師のうち、特に評価の高い者から希望者を募って開かれたものだ。期
間は一ヶ月半。22名という人数を一人で見るには短いが、一般的な教導と比較すれば長い。なのはは緊張
と期待に引き締まった22名の顔を見渡して、たっぷりと微笑んだ。
「航空戦技教導隊第5班、高町なのは戦技教導官です。」
 端から順に、一人ずつ顔を見る。最前列に立ったなのはより背の低い男の子は、目が合うとあからさまに
顔を輝かせた。なのはは思わず頬を綻ばせる。年少で15歳、最年長でも21歳の彼らの顔の中には、過去
に教導をした者や任務を共にしたものなど、いくつか知ったものもある。そのとき、いつか強くなると思っ
た人がここにいるのは少し誇らしかった。
「事前通知では教導隊第6班が担当するとしていましたが、
 第6班が急遽別の任務に就いたため、私に変更になりました。
 突然のことで申し訳ないけど、これから一ヶ月半でできる限りのことを教えます。
 厳しいこともあると思いますが、諦めずついてきてください。」
「はい!」
 一人分の大きな返事が聞こえた。四列目、前から二番目に立つ赤い髪の青年が、一人顔を赤く染めていた。
堪えきれずアップまで既に終わらせたのか、黒いTシャツは首回りから胸まで、もうすっかり汗が染みて色
が変わっていた。
「うん、いいね。」
 頷くと、彼は照れたように口を噤んだ。
「今回の合同訓練の目的は、一つに同世代間の交流があります。
 これから経験を積んでいく中で、今、ここに居る人と現場で一緒になることもあるでしょう。
 そのとき、連携して事態に当たること、深化した作戦立案が出来るようになることが目的ということです。」
 なのはの視線は、最後列にまで届く。
「何より、同世代の人たちと肩を並べて訓練をすることは、良い刺激になると思います。
 この一ヶ月半を過ごす仲間と技を高め合ってください。」
『はい!』
 重なる返事が胸を叩く。なのはは彼らに頷き返して、もう一度最後列を見た。

 そこにたぶん、『彼女』が居た。

 心持ち緊張したような、神妙な顔してるけど、童顔でちっこくて人なつこくて知り合いによく似た顔だ。
髪はトレードマークのバッテンぴんではなく、さっぱり短くなっている。胸もなく、体つきは男子だけど、
あれは間違いない。
 八神はやての顔だった。
「今から訓練を開始します。
 まずは全員柔軟運動です。散開!」
 なのはは明朗に言い放ちながら、妙な汗が背中に伝うのを感じた。