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 今日の昼に解析は終わるだろうとリインフォースは言っていた。そろそろ連絡が入る頃だろう。
 ベッドに横たわり目を瞑ると、蛍光灯の眩しさも気にならない位に強く目蓋の上下は貼り付いた。ユニッ
トバスからはシャワーの音が響き始める。壁に埋まっている配管を湯が通るくぐもった音が部屋に低く響い
ていた。
 はやての調査の目的は、不正デバイスの回収と出所を特定することではない。管理局所属レアスキル所持
者への連続襲撃事件を解決することが捜査の目的だ。この連続襲撃の最初の事件は数年前に遡り、その後続
く事件の一つ一つもまた互いに長い期間を空けたものであったため、連続襲撃事件として顕在化したのは最
近のことだ。レアスキル所持者のいる部署も能力等も全く違うこともあり、連続事件と考えられるまでには
時間を要した。しかし、ここ数ヶ月間に頻度は以前の倍以上にあがったことが、これらが関連した事件であ
るとの推測をもたらした。襲撃の内容も、当初の脅しから今や拉致にまで及んでいる。最後に襲われた者は
拉致された挙げ句、大怪我まで負わされ管理局の前に放置された。
 その最後の事件からすぐ、はやてに捜査が回ってきた。そして見つけた襲われたレアスキル所持者の共通
点が、管理局が所有している汎用デバイスだった。彼らは訓練や、特殊な状況下で自分のデバイスが使えな
かった時などに、皆この汎用デバイスを使用していた。暴発するという不正デバイスとの関連は今はまだ不
明だ。ただ、襲撃時に所持していたデバイスが暴発した者がいるために、関連が疑われているという段階だ。
 はやての推測は、このデバイスからレアスキル保持者の情報が漏洩したというものだ。
 管理局所属のレアスキル能力者はその技能を一般には秘匿されている。理由は様々だが、主たる理由は悪
用や今回のような襲撃事件などを恐れてのことだ。希少性を持ちかつ有用な技能ならば、手を出そうという
ものは現れる。はやて達が管理局に入局するより前にも、実際に事件が起こったことはある。
 犯人達は、誰かを探しているのかも知れない。薄々とはやてはそう感じている。しかも、焦り始めている。
手口の過激化も頻度の上昇も、そう推察させるには十分であろう。それが人物を求めているのか、技能を求
めているのかは分からない。だが、汎用デバイスから情報を収集しているとしても、彼らに分かることは少
ないのだろう。おそらく、具体的に誰がどんな能力を持つかは分からない。だからこうやって片っ端から人
を襲っているのだ。
 拉致された先の重傷者で終わりかどうかはわからない。次にまた人違いだったならば、犯人達は一体、何
をするだろうか。解決は次の被害者が出る前に成されなければならない。だが、依然として犯人達の尻尾は
掴めない。
 シャワーが止まった。まだルームメイトは出て来ないだろう。なんとなく聞いていた限りだと、今は頭か
体を洗っているところだ。なんだか聞き耳を立てているみたいで、はやては鼻から長い息を出した。目を閉
じると耳が遠くの物も掴んでしまうから仕方ない。上の階で部屋のドアが開けられる気配が落ちてきた。
 管理局正規の汎用デバイスに、襲撃犯達が情報収集に用いている疑似デバイスが混入しているのだろう。
そして、正規汎用デバイスの管理拠点はこの訓練場だ。それゆえ、この訓練場に保管されている汎用デバイ
スを調査し、この疑念の真偽を確認することとした。だが、正式な捜査として、倉庫を調べることはしたく
なかった。犯人達が、こちらの動きにまだ気づいていない可能性ある以上、それを潰したくなかったのだ。
最初の事件も古いことからデバイスの混入時期もまた古く、混入ルートを発見するのは難しい上、疑似デバ
イスが紛れ込んでいるとするならば、それは通常のメンテナンスでは発見されないほどに本物と酷似してい
ることになる。犯人らにこちらの行動が伝われば、捜査はさらに難易度を増すだろう。それは避けねばなら
ない。だからこうして訓練に参加するという回りくどいやり方で、はやてはこの汎用デバイスに近づいたの
だ。この訓練を選んだ理由は、開催時期が直近だった為だ。さらに言えば、最初に襲われたレアスキル保持
者の人間が、過去にこの訓練を経験していることも一因にある。
「せやけど。」
 口の中で呟く。彼はそろそろシャワー室から出てくるだろう。はやては寝返りを打つと、窓の方に体を向
けた。居心地のよい体勢を探して身を捩ると、シーツが耳を擦った。さっき、ベッドの足下の方に移動して
しまったから、体を伸ばすと足首がベッドからはみ出てしまうのが窮屈だったけれど、眠くて意地でも目を
開けたくはない。はやては足を引き上げて、背を丸めた。
 だが、汎用デバイスに混ぜるなんて確実性の低い作戦だ。自分の知っている限りのレアスキル所持者は専
用デバイスを使用している。ヴェロッサ・アコース『無限の猟犬』、カリム・グラシア『預言者の著書』、
八神はやて『蒐集行使』。蒐集行使に至っては、元は融合型デバイス『夜天の魔導書』の機能だ。レアスキ
ル所持者を探していたとして、汎用デバイスを媒介して発見できる望みはあまりに薄くはないだろうか。探
している相手が汎用デバイスを使っている筈だという推測が、犯人達にはあるのだろうか。
 しかし、この任務に自分がついたことで、不正デバイスに触るレアスキル所持者は一人増えたことになる。
不確実性が一人分、減った。
 どうかしてる。
 はやては声に出さずにそう言った。確かに最初、捜査を依頼されたとき、何故、レアスキル所持者である
自分に依頼するのかと疑問を感じた。リインフォースもそれには同調した。しかし、自分には部下がいる。
ここにはやて自ら潜入したのは、はやての判断に他ならない。それを他者が左右する余地は無かったはずだ。
 誰もはやてに、犯人を誘き出すための餌になれとは命令できない。
 はやて以外は。
 だがその疑いも、本質的にはどうでもいいことだ。どちらにせよ、自分は退けない。生まれ持った能力の
為に、悪意のある誰かに傷つけられた人がいる。だから自分には、絶対に退くことは出来ない。
「さっぱりしたー。ナカジマ、お前は浴びねぇの? ナカジマ?
 寝た?」
 ぺたぺたというスリッパの音を聞いて、はやては寝ることにした。