舌の上で溶かして甘いチョコレート。
あんまり食べ過ぎると、ちょっと気になるけど。
それでも、つい食べたくなるあの甘さ。

「うん、うん、そうやね。
 チョコレートってええ食べ物やね。」
私はしきりに肯いた。
今日も今日とて休日を、なのはちゃんに捧げています。
もういつの間にかお決まりになった喫茶店の、お決まりになったテラス席で、
お決まりになった客をお決まりのように毎週やっています。

ホント、年頃の女の子がやることやない。

とは思うのだけれど。
何故か付き合ってしまう私はきっと、
アリサちゃんなんかに言わせたらトロい子に分類されてしまうのだろう。
なのはちゃんは満面の笑みを浮かべている。
「それでね、それでね、フェイトちゃんって、
 チョコレートみたいじゃない?」
じゃない?
と訊かれても、困るんやけど。
とは言えず。
私はまたもや曖昧な顔をする。
「どんなところがチョコレートみたいなん?」
途方も無い疲れを感じながら尋ねると、
なのはちゃんは何処か遠くを見つめた。
その頬がなんとなく赤いのは、きっと、頭の中でフェイトちゃんと逢引しているからだろう。
「フェイトちゃんがね、この前ヴィヴィオに頭撫でられてたの。
 もう、くしゃくしゃーってほっぺはさまれて、
 くすぐったそうに笑ってるフェイトちゃんがすっごく可愛い笑顔してたの!」
テーブルに身を乗り出し力説するなのはちゃん。
顔、近いんですけど、
とはやっぱり言えない私に、
なのはちゃんは、これがそのときの映像なんだけどね、と空間モニタを開いて見せる。
映し出されるのは高町家のある日の様子。
ヴィヴィオがソファに座るフェイトちゃんの膝の上に乗っかって屈託の無い笑みを零している。
そのヴィヴィオがフェイトちゃんを撫でる様子は、
明らかに犬を撫でる時と同じだった。
どうやら、ヴィヴィオも『子犬はフェイトちゃんに似ている』という高町案を受け入れたらしい。
まあ、くしゃくしゃにされながらも、
こんなにうれしそうなフェイトちゃんも、フェイトちゃんなんだろうけど。
なのはちゃんが一緒にモニタを覗き込みながら、ため息を漏らす。
「うーん、やっぱり、映像じゃあフェイトちゃんの可愛さは伝わらないなあ。」
私はその言葉に、
まあ、ミッドの技術でも限界はあるよ、と無難に返す。
なのはちゃんは残念そうだが、その目は映像のフェイトちゃんを捉えて離さない。
なのはちゃんが無言になってしまったが故に、
私としては微妙な沈黙がテーブルに落ちる。
きっと、なのはちゃんは気づいてすらいないのだろうけれど。
すると、突然なのはちゃんの手が素早く動いて、画像を一時停止した。
「はやてちゃん!
 この顔!
 フェイトちゃんのこの笑顔見て!」
私が返事をするより早く、なのはちゃんは私の肩を掴んだ。
あー、痛い、痛いよ、なのはちゃん。
親指が肩に食い込んどるんやけど。
「すっごくかわいいでしょ!
 もう、ヴィヴィオと一緒に構ってもらえてうれしい!って。
 このふにゃふにゃに甘くってちょっと情け無い笑顔がもう、ね! ね!?」
一時停止の画面には、
ヴィヴィオに頬にキスされているフェイトちゃんの顔だった。
もうヴィヴィオにめろめろ、という言葉が良く似合う。
「それとね、それとね、こっちも見て!」
なのはちゃんはもう一つウィンドウを開いた。
そこに映るのは、任務中の戦闘に望むフェイトちゃんだ。
夜空に凛とした顔で佇み、眼下を睥睨している。
「格好いいでしょ!
 フェイトちゃんってね、こーんなとろっとろな笑顔も見せてくれるのに、
 時々、凄く涼しい顔もするんだよ!
 それでね、チョコレートみたいだなって!」
私は肩に依然食い込むなのはちゃんの指に苦しみながら、
意地の悪いことを言う。
私だってたまにはしっぺ返しを食らわせたい。
「それで、味は確かめたん?」
なのはちゃんの顔が、瞬時に真っ赤に染まった。