壮麗なステンドグラスが祭壇の奥にあった。
人の入らなくなって久しい大聖堂の礼拝室。
静謐な空気の中に舞う微かな埃が、そこからの光に照らされている。
見上げるばかりの高い天井、その荘厳をなのはの押し殺した声が乱す。
『その子を放しなさい。』
鋭い眼光が突き刺す相手は、数人の魔導師だった。なのはが追い詰めたと思った相手。
しかし、その手の中には、少女の姿があった。
誘拐でもしてきたのか、それともこの廃墟同然の聖堂を遊び場としていたのかは知れない。
いずれにしても、彼女の安全が保障されない限り、なのはには手の出しようが無かった。
『デバイスを床に捨てろ!』
男の一人が吼える。
なのはは微かに逡巡し、レイジングハートを床に投げた。
デバイスが無くとも、魔法は使える。
しかし、デバイスが無ければ少女を助けるのは難しい。
念話で通信は入れておいたが、他の航空隊員が来るには時間が掛かる。
『抵抗するなよ。』
魔導師がなのはにデバイスを向ける。
砲撃のチャージが見える。
防御することはたやすいだろうが、
少女の身を考えればそれすらしないで置けと言うことなのだろう。
少女が震える眼差しでなのはを見つめている。
なのははその瞳を見つめ返し、微笑んだ。
少しの恐怖を抑え付けて。

砲撃が放たれる、瞬間。

『なのは、助けに来たよ。』

涼やかな声が耳朶を打った。
男達の背後、祭壇の上に、フェイトが立っていた。
割れたステンドグラスが降り注ぐ。
外の白い光を受けて、破片が輝く。
ガラスの砕ける音が遅れて鼓膜を揺さぶった。
男達が慌てて振り返ろうとしたときには、既に全員、フェイトに昏倒されていた。
軌道すら目に映らない。
フェイトは白いマントを揺らめかせ、祭壇からまっすぐとなのはに歩み寄ってくる。
『フェイトちゃん。』
なのはの声に、フェイトは微笑んだ。
逆光に、彼女の姿は眩しかった。



映像が終わって、私がはやてちゃんを振り向くと、
はやてちゃんはぼうっとした表情をしていた。
でもそれも仕方ないことだと思う。
このときのフェイトちゃんは、すごく格好良かった。
いつでも格好良いけれど、でも一際格好良い瞬間っていうのもあると思う。
フェイトちゃんはずるいと思う。
だって、子犬に可愛さっていうものを与えてしまうくらいに可愛いのに、
私が危ない時には、絶対に助けに来てくれる。
それも、すごく涼しい顔をして、
それが当然だっていう風に笑って。
はやてちゃんが降り注ぐステンドグラスの中、
光を浴びて立つフェイトちゃんを見つめながら呟く。
「こら、確かに格好ええなあ。
 別任務に就いてたはずなんに、いきなり現れたんやろ?」
問われて私は、何度も首を縦に振った。
そう、私もまさかフェイトちゃんが来てくれるなんて、
このときばかりは思っていなかった。
どうして来てくれたの、なんて聞いたら、
なのはの為だからね、当たり前だよ、なんてまたにっこり笑って。
光の剣を握って、マントを翻して現れるなんて、
「ほんと、フェイトちゃん、王子さまみたいやね。
 とか考えてたやろ?」
はやてちゃんがいつの間にか私の顔を見つめていたずらっぽい表情をしていた。
私は拳を握り締めて、
「王子様みたいなんじゃない!
 王子様なの!!」
はやてちゃんの中にある勘違いを粉砕すべく、声を張った。