なのはちゃんがテーブルをばん、と叩いて、私に詰め寄った。 「私間違ってた! フェイトちゃんは風呂敷とストーブじゃないよ!」 真剣な眼差しで放たれた言葉に、私は顔面を引き攣らせる。 「そ、そうなん?」 そもそも、フェイトちゃんは風呂敷とストーブだなんて、 明らかにフェイトちゃんが言われて喜ばない喩えを聴いた覚えがないんですけれど、 私の記憶領域に不具合が生じているんでしょうかなのは先生。 なのはちゃんは更に顔をドアップにして、力説する。 「フェイトちゃんがね、みんなを包み込めるっていうのは本当だよ。 フェイトちゃんににっこり笑われたら、もうどうしようもないよね!」 これは、風呂敷の話でいいのだろうか、と思い悩む私を尻目に、 なのはちゃんは言い募る。 「それにそれに、フェイトちゃんが居ると、 それだけでぽあってあったかくなるよね!」 ああ、はい、今度はストーブの説明ですね、ありがとうございますなのは先生。 包容力とか何となく気持ちが和らぐところとか、判らなくはないような、 それでいて全く判らないような、そんなところで。 でもなにも、風呂敷とストーブで言い表さなくても良いと思うのは、 私だけではないと思う。 「でもね、風呂敷とストーブよりももっと的確なものがあったんだよ! 私、今までどうしてこれに気付かなかったんだろう!?ってくらいにね!」 そっかそっか、なんや重大なことに気付いたんやね、うん。 ところでなのはちゃん、 最近、私達の席だけ、店員さんがよう来てくれへんようになったのには気付いとらんの? 「それで、もっと的確なものって、何なん?」 私が問い返すと、なのはちゃんはそれはもう待ってましたとばかりに胸を張った。 そして、悪事をたくらむどこぞのマンガの帝王か何かのように、 低く忍び笑いを漏らして雰囲気作りをまず始めてくれる。 喫茶店のテラス席に不似合いなドラムロールの音が聞えるのは、 レイジングハートの仕業だろう。 最近は映像を持ってきたり、こんな演出を考えてきたり、 何気になのはちゃんはこの、 フェイトちゃんが居ないのにフェイトちゃんの圧倒的な存在感が席巻するお茶会もどきを、 満喫しているのだろうか。 まあ、それならそれで、私の消え行く休日も本望、なんやろうか。 良くわからへんけど。 そんなことを考えているうちに、 ドラムロールは最高潮に達し、緊張が場を埋め尽くした。なのはちゃん的には。 「そう、的確なものとは、」 傍から見るとすっごいアホやねん、このテーブル。 「こたつなんだよ!!」 なのはちゃんは目をくわっと開いて、テーブルを叩いた。 グラスの中で、溶け始めた氷が音を立てる。 「こ、こたつ・・・? こたつって、 あの、日本の家屋やったら、一家に一台は政府から支給されるっちゅう、 伝説の家電製品やよね?」 狼狽のあまり、何かおかしなことを口走っている気がするけれど。 なのはちゃんはうんうんと頭を振って肯く。 「そうだよ! あるだけで、なんとなく家に帰ってきたー!わー! って気持ちにさせてくれるだけじゃなくって、 入ればあったかくって、 思わず眠っちゃいたくなるあの包容力! フェイトちゃんはこたつなんだよ!」 どこの世界に、 『君って、こたつみたいだね。』 って言われて喜ぶ女子が存在するのか、私に教えてくださいなのは先生。 まあ、なのは先生なら、 『喜ぶ喜ばないじゃなくって、 それが真理だから仕方ないの! フェイトちゃんはすっごいんだから!』 とかすっごい真剣な目で見つめられそうで訊けませんけど。 「けど、こたつやと、 電気が通っとらんとあかんのちゃうん?」 相変わらず、間抜けなことを言う私に、 「電気は私だよ!」 なのはちゃんは咲き初める花のように、 「だって、 私が、世界で一番フェイトちゃんのこと好きなんだから!」 見惚れるような笑みを向けた。