あー、なんやえらい久しぶりなはずなのに、
どうしてまったく久しぶりって気持ちがしないんやろうか。
遠くから手を振って私たちのほうに歩いてくるフェイトちゃんを眺めて、
私はそんな疑問に駆られた。
多分、一ヶ月以上会ってないはずなのに、
私はこの一ヶ月、フェイトちゃんが毎日何をしてたか知ってるんやよね。
やー、えらい不思議やねぇ。
そんなに通信もしてないはずやのにねえ。
ねー。
うん、やめよう。
今日も休日で、いつもの喫茶店なのに、
何故、フェイトちゃんがここに来ているのかと言うと、
単純にこの間通信をしたときに、なのはちゃんの話になって、
休日は結構この喫茶店にいると教えたからだろう。
歩いてくるフェイトちゃんは執務官服に身を包んでいて、多分、
業務の空いた時間を利用して立ち寄ったというところだ。
「なのは、はやて!」
フェイトちゃんから笑顔が零れる。
その笑顔は、なのはちゃんの言を借りればきっと、
太陽だとか、ひまわりみたいだとかになるんだろう。
いや、最近のブームで言えば、意外と蛍光灯だというかもしれない。
もしくはナイター用設備とか。
フェイトちゃんが、ナイター用設備のような眩しい笑顔で、
私たちのほうに歩いてきました、
ってちょっとロマンチックなのか私にはよう判らんよ、なのはちゃん。
まあそんな笑顔で、フェイトちゃんは私たちのテーブルへとやってきた。
「フェイトちゃんひさしぶりやね。
 元気そうやない。」
手を振り返しながら言うと、フェイトちゃんは嬉しそうに目を細めた。
「うん、本当に久しぶりだね。
 直接会うのは一ヶ月ぶりくらいだよね。」
そうやよ。
やけど私は、フェイトちゃんの昨日の晩御飯まで知ってるんやよね。
さて、何故でしょー。
ああ、もうええわ。やめよう。
私となのはちゃんが向かい合って座っているために、
小さめの丸いテーブルにはこのままではフェイトちゃんが座りにくいので、
私は椅子を引いてスペースを空けた。
「ありがとう。」
フェイトちゃんはそういうと、椅子を別のテーブルから借りてきてすとんと座った。
メニューや何かは多分、後から店員さんが持ってきてくれると思う。
いや、うん、このテーブル、店員さん避けてるから、ほんまに。
今日は3人目登場っていうか、真打登場でどうなるか私にもわからへんし。
そういえば、
フェイトちゃんが現れた瞬間、
なのはちゃんは飛び掛る、ていうのは流石に失礼やね、
食い付く? うーん、それでもあれやろうか、
襲い掛かると思ったんやけど、
って結局一番失礼になってしもうたね、
まあでも私の前でさえあれだけフェイトちゃんフェイトちゃんなんやから、
本人の前では相当に決まっとるという推察もとい確信もあるわけやし、
こんな言葉になってしもうたのもしゃあないことやと思う。
フェイトちゃんが現れた瞬間、襲い掛かると思ったなのはちゃんは、
だけど私の予想を恐らく良い意味で裏切って、静かにしていた。
「なのはは何を飲んでるの?」
思いのほか早くメニューとお冷を貰ったフェイトちゃんが、なのはちゃんに尋ねる。
「えと、あのね、アイスティーだよ。」
か細く恥らったような声が、私の耳朶を叩いた。
「なのはちゃん?」
なんやの、今の声?
驚いて振り返ると、なのはちゃんは手でスカートを握って、身を竦めていた。
顔は下を向き気味で、躊躇いがちな視線が見上げるように私を映す。
頬は心なしか紅潮していて、まるで、それは。
「なにかな、はやてちゃん。」
なのはちゃんの目が少し潤んでいるような気がするのは、私の気のせいでしょうか。
え、まさか、なにこの反応。
「いや、なのはちゃんはいつもアイスティーやねって。」
そうなんだ、とフェイトちゃんが微笑んだ。
そうするとますますなのはちゃんは顔を赤らめて、小さな声で、
「うん。」と呟いた。
「じゃあ、私もアイスティーにしようかな。
 なのはのおすすめってことだよね?」
小首を傾げて問いかけるフェイトちゃんになのはちゃんは肯いた。
耳まで赤いんですけど。
これは、一体、どういう現象ですか、なのは先生。
なのは先生はこの間まで、
世界で一番フェイトちゃんのことを好きなのは自分だ、って声高に叫んでましたよね。
今まで沢山のフェイトちゃん特選画像集を見せてくれましたよね。
そろそろ我が家の記憶デバイスが全てフェイトちゃんで埋め尽くされそうなんですけど。
真っ赤な顔でフェイトちゃんを窺うようにちらちらと見たり、
視線を逸らしたりを繰り返しているなのはちゃんに、
私は頭の中を過ぎった、ある恐ろしい可能性を念話に載せた。
『なのはちゃん、もしかして、
 まだフェイトちゃんに告白してへんの?』
瞬間。
「きゃ!」
思わず飛び上がったなのはちゃんが、椅子を蹴倒して後に転んだ。
「なのは、大丈夫!?」
驚いたフェイトちゃんがなのはちゃんに手を伸ばすのを視界の隅に収めつつ。
私は血の気が引いていくのを感じていた。

あれは惚気ではなくて、
ただの、好きな人自慢だったんだ。