フェイトちゃんが、私の隣に座ってる。 はやてちゃんとおしゃべりして、にこにこ笑ってる。 綺麗な笑顔。 なんて、フェイトちゃんは綺麗で、可愛いんだろう。 テラスに降り注ぐ光の全て、街角を流れる風の全てが、 フェイトちゃんのために用意されているみたいに、フェイトちゃんを引き立たせてる。 髪の毛の金色が、日に透けて綺麗。 赤い瞳に映る世界が綺麗。 フェイトちゃんの声、フェイトちゃんの空気、フェイトちゃんのぬくもり。 ただ、隣に座って、私、フェイトちゃんと同じアイスティーを飲んでるだけなのに、 どうしてこんなにどきどきするんだろう。 心臓が、痛いよ。 こんなに胸がどきどきしてたら、フェイトちゃんに聞こえちゃうかもしれない。 顔が熱い。 どうしよう、フェイトちゃんに聞こえちゃったら。 どうしよう、どうしよう。 フェイトちゃんに聞こえちゃったら、フェイトちゃんどう思うんだろう。 変なコって思われたら、私、 「あ、そうそう、フェイトちゃん、 ここのお店、ケーキもおいしいんよ。 折角やし、食べてったらええんやない?」 はやてちゃんが何か言ってる。 どうしてはやてちゃんは、フェイトちゃんと見詰め合っておしゃべりできるんだろう。 私は、フェイトちゃんに見詰められるだけで、 言葉なんてなくなっちゃうのに。 あの瞳に私が映ってるだけで、うれしくて、 あの赤い瞳に、私が映っているだけで、それだけで。 フェイトちゃん。 「そうなの? じゃあ、まだ時間あるし、食べちゃおうかな。」 フェイトちゃんがほっぺを緩めた。 なんて可愛い笑い方をするんだろう。 子犬よりももっともっとかわいい。 きっと、この世界の何よりもかわいいんだ。 きらきらした目。 穏やかに零される言葉。 フェイトちゃん、私、フェイトちゃんを見てるだけで、 それだけで胸が苦しくなって、泣きたくなっちゃうんだよ。 フェイトちゃん、私、フェイトちゃんのことが、 「なのはは何食べる?」 フェイトちゃんが突然私を振り返った。 わ、私、そんな、見詰められると、た、食べたいもの!? 「フェイトちゃん!」 あちゃぁ、とはやてちゃんがため息をついた気がした。 あれ、食べたいもの? フェイトちゃんがきょとんとした顔で私を見てる。 あ、どうしよう、なのは、変なコって思われちゃったかな、え、え? ケーキ、そうだ、ケーキだ。 食べたいケーキ答えなきゃ、えっと、えっと、 「め、メニュー見てもいいかな?」 言葉を搾り出す。 震えてなかったって思う。思いたい。 「あ、そうだよね。 はい、メニュー。」 フェイトちゃんがそういって、私にメニューを見せてくれる。 二人の間に置かれたメニューを、一緒に覗き込む。 フェイトちゃんの顔が、すごく近いよ! フェイトちゃん、睫も金色なんだ。 私よりずっと長い。 光ってるみたいに見える。 「私はね、チョコレートケーキにしようって思うんだ。 なのははどれにする?」 フェイトちゃんが私を見た。 間近にある顔が、もっと近づいた気がして、私は息を呑んでしまった。 フェイトちゃんの息遣いが分かる。 「しょ、ショートケーキにする、よ!」 そっか、とフェイトちゃんはもう一回微笑んで、 今度ははやてちゃんに、何にする? と聞いている。 少し遠くなったフェイトちゃん。 あんなに近くて、心臓がもう止まっちゃいそうだったのに、 離れてしまうと惜しく思うなんて、私はわがままなのかな。 フェイトちゃんが手を上げて店員さんを呼ぶ。 その姿もなんだか様になっていて格好いい。 黒の執務官服はいつもと同じで皺もなくって、フェイトちゃんを一層格好よく見せる。 上げられた手。 指はほっそりとしていて長くって、なのに私よりもずっと女の子らしい。 フェイトちゃんが店員さんに注文をしてくれてる。 店員さんもフェイトちゃんを見てる。 どうしよう、フェイトちゃんのこと、皆が好きになっちゃったら。 ううん、きっと、もう皆、フェイトちゃんのこと好きになっちゃってるよ。 だって、フェイトちゃんはこんなに綺麗で、格好よくて、可愛くて、やさしくて。 皆が好きにならないはずないもん。 どうしよう、やだよ、フェイトちゃんがほかの人に取られちゃったら。 私のほうが、ずっとずっとフェイトちゃんのこと好きなのに。 フェイトちゃんのことずっと前から好きなのに。 なのに、そんなのやだよ。 フェイトちゃん、私、わたし。 「なのはとはやてって、結構このお店に来てるんだっけ?」 フェイトちゃんが言葉を紡ぐ。 「んー、割と来とるな。 他のお店も開拓したいところなんやけどね、 ここ、なんでもおいしいから、まあええかなって。」 フェイトちゃんが頷く。 そうしてると、さっきの店員さんがケーキを持って着てくれた。 三種類。 チョコケーキと、ショートケーキと、チーズケーキ。 フェイトちゃんが喜ぶ。 「わあ、おいしそうだね。」 「そうやろ?」 ってはやてちゃんが言うと、こくこく頷いた。 仕草の一つ一つが、私の心を揺さぶる。 はあ、と私の口からため息が零れた。 「あれ、なのはどうしたの? 違うケーキがよかった?」 チョコの付いたフォークを咥えて、フェイトちゃんが首を傾げる。 子供っぽい無邪気な仕草に、私はまた心臓がどきんと跳ねる。 そうだ、私、まだケーキを少しも食べてなかった。 「そんなことないよ、私、ここのショートケーキ好きだもん!」 慌てて私はフォークを取り、包みを取り去った。 白いクリーム、赤いイチゴ。 フェイトちゃんが笑う。 「そっか、よかった。」 口の中に甘さが広がった。 ケーキがこんなに甘いなんて、知らなかった。 フェイトちゃんが、そうだ、と思いついた顔をする。 チョコケーキをフォークで取って、 「なのはもこれ食べてみる? すっごくおいしいよ。」 私にそれを差し出した。 フェイトちゃんの、ケーキを。 「はい。」 フェイトちゃんの笑顔。 そうだ、食べちゃわないと、フェイトちゃんが困っちゃう。 食べないと。 チョコケーキ。 でも、でも、これ、だって、フェイトちゃんのケーキで、 フェイトちゃんのフォークで、 フェイトちゃんの、 フェイトちゃんの、 「おいしい?」 ケーキを口に入れた私に、フェイトちゃんが問いかける。 味なんて、まったく分からなかったけど、私は大きく頷いた。 「うん、おいしい。」