どこに呼び出すかは大事だって、はやてちゃんは言ってた。
釣り橋の上とかいい、っておすすめされた。
なんでも、釣り橋効果っていう効果が告白の成功率を高めてくれるんだって。
でも私は、違うところにした。
私たちの思い出の場所、海鳴臨海公園。
久方振りに降り立った、海鳴の季節は春だった。
出会った頃と同じ季節。
小波の音と、柔らかな風が頬に触れて、町へと向かっていく。
空は淡く綺麗な青空。
薄い雲が水色の空に広がってる。
今日、私はこれから、フェイトちゃんに告白する。
胸がとくんとなった。
10年間、ずっと胸に抱いてきた気持ち。
あの日、すずかちゃんのお家の庭で出会ったあの時から、
私はフェイトちゃんを見つめていた。
大好きだった。
言葉を交わすのすら、交わした言葉さえ宝物になるくらいに。
フェイトちゃんといるだけで、胸がいつも熱かった。
これが好きっていう気持ちじゃないなら、
この世界に愛なんてない。
そう思うくらいに。
『なのはちゃん、大丈夫? 勇気を出して告白するんやよ!』
はやてちゃんの声が耳の裏に響いた。
心配して、はやてちゃんは私を見守ってくれてる。
大切な親友。
いつも私の話を聞いてくれて、こんなにも親身になって相談に乗ってくれる、
こんな優しい友達がいる私は幸せで、今、ちゃんと勇気を持ってる。
だから、大丈夫。
そのとき、私の後で、靴音が一つ鳴った。
そして、
「なのは。」
声が、私を振り返らせた。

フェイトちゃんが、そこには立っていた。

海風にフェイトちゃんの金髪が舞う。
潮騒を纏って、光を透かして。
赤い瞳が、私を見つめていた。
海の青さのなか佇む、フェイトちゃんの姿。
10年前がふっ、と重なった。
私を窺うように見つめてきた、少し寂しそうな、
でも優しく微笑む女の子が。
あの面影を残したまま、フェイトちゃんは今でもやさしく笑って、
私の傍に居てくれる。
「ここに来るの、久し振りだね。」
フェイトちゃんが私の隣に並んで、海に目を向けてそう言った。
白い肌、横顔に海が香る。
「そう、だね。」
心臓が音を立てたのが判らないように、私はゆっくり唇を動かした。
あんまり近くにこられると、聞こえちゃいそう。
「今日はどうしたの?
 改まって話したいことがあるだなんて。」
フェイトちゃんが小首を傾げて、私を振り向いた。
拍子に、肩に乗っていた金髪が跳ねた。
光がぱらぱら零れ落ちてる。
綺麗。
「なのは?」
フェイトちゃんが、私の顔を覗き込んだ。
いつの間にか、黙ってちゃってたから、
フェイトちゃん変に思ったんだ。
「あ、そ、その…っ。
 フェイトちゃんに、ずっと言いたいなって、思ってたことがあって、それで。」
どうしよう、心臓が止まっちゃいそう。
フェイトちゃんが私を見つめてる。
「うん、何か相談だったら、いくらでも聞くよ。」
鈴の音みたいな声。
きらきらな目に私が映ってて、顔を見られないよ。
告白するときは、フェイトちゃんの目を見つめながらって決めてたのに。
でも、言わなきゃ。
私の気持ちを、はっきり。
そうするのが、私のいい所なんだって、はやてちゃんも言ってくれてた。
「フェイトちゃん、私――――。」
胸が苦しい。
私は左手で胸元をぎゅっと握り締めた。
「私―――っ!」
顔を上げて、フェイトちゃんを仰いだ。
そうしたら、フェイトちゃんの顔が、目の前にあった。

どうしよう、言えないよ。
こんなに、言いたいのに。
フェイトちゃんが好きだって、
フェイトちゃんのことを世界で一番好きなのは、なのはだって言いたいのに。
どうして?
胸が詰まって、言葉が出てこないよ。
フェイトちゃんが、私、大好きなのに。
それなのに。

私じゃやっぱりだめなのかな。
私には、ずっと告白なんて出来ないのかな。
このままずっと、好きって言えないまんまで。

『なのはちゃん、なに怖気づいとんの!』
はやてちゃんの声が、私の脳裏に響いた。
今もずっと、物陰から私を見守っててくれてるはやてちゃん。
『勇気を出すんや!
 なのはちゃんはフェイトちゃんのこと大好きなんやろ?
 そんで、なのはちゃんが大好きなフェイトちゃんって、
 人の気持ちを蔑ろにするような人やない。
 人の気持ちを、すっごく大切にしてくれる人や!
 なのはちゃんが好きになったのは、そんな人やで。
 だから、はっきり、思いを伝えることに、
 なんも怯えることなんてあらへんよ!』
力強い言葉が、私を強く励ましてくれた。
「はやてちゃん・・・。」
ありがとう、はやてちゃん。
私、勇気が出たよ。
そうだね、私が好きな人は、そういう人だもんね。
私は真っ直ぐにフェイトちゃんを見つめた。
そして、想いを言葉に乗せる。
「好きなの!
 出会ったときからずっと、ずっと、大好きなの!」
フェイトちゃんが目を見開いた。
驚いたような瞳。
私は胸を握り締めて、弾けそうな心を壊さないようにしながら、告げる。
「一緒に居るだけで胸が暖かくなって、
 笑顔にいっつも勇気と幸せを貰ってた。
 だから、私――――。」
フェイトちゃんが涙を浮かべて、くしゃくしゃな笑顔を浮かべた。
頬を緩めて、嬉しそうにして。
私を抱き締めてくれた。
「そうだったんだね。」
フェイトちゃんの腕が暖かい。
首筋に顔を埋めると、フェイトちゃんのいい匂いがした。
春の日差しに暖められた、柔らかい匂い。
何処でつけてきたんだろう、甘い花の香りがした。
「ありがとう、なのは。
 私に話してくれて。」
フェイトちゃんが私の頭を撫でてくれた。
優しい仕草だった。
私はフェイトちゃんの腕の中で目を閉じる。
涙が出てきちゃいそう。
10年間、ずっと、ずっと胸に抱いてきた気持ちが、
こうやって伝えられるなんて。
こうやって、フェイトちゃんの腕に抱き締めてもらえるなんて。
フェイトちゃんは腕を緩めると、私の顔を覗き込んだ。
満面の笑みを咲き誇らせて。
「良かったね、なのは。
 なのはとはやてのこと、私、ずっと応援してるからね!」

・・・ん?
「最近、なのはとはやてすっごく仲良いから、
 もしかしたらって思ってたんだけど、そうだったんだね。」
フェイトちゃんは私の肩をぽんぽんと叩きながら、すっごく嬉しそうに目を細める。
「はやてになら、なのはのこと任せられるよ。
 はやてって、優しくて気立てもよくって、
 二人とも可愛いから、すっごくお似合いだと思うよ!」
フェイトちゃんはしきりにうんうん頷いた。
それから、少しだけ目を伏せてから、空を仰いだ。
「でも、ちょっとだけ、寂しいし、悔しいな。
 なんか、はやてになのはを取られちゃうみたいで。
 なんてダメだよね、
 親友なんだから、二人の幸せをお祈りしなくっちゃいけないのにね。」
フェイトちゃんは可愛く笑うと、私をもう一回抱き締めて、耳元で囁いた。
溶けちゃう様な甘くて、優しい声音で。
「はやてと、ちゃんと幸せになってね。」



フェイトちゃんは少し涙ぐんだまま、先に帰るね、と言って行っちゃった。
うん、フェイトちゃん。
私、はやてちゃんと幸せになるよ。
はやてちゃんと、幸せに。

・・・。
あれ?

「な、なのはちゃん・・・。」
頭に葉っぱを一枚つけたはやてちゃんが、茂みからがさがさ出てきた。
はやてちゃんの顔は真っ青だった。
私はそんなはやてちゃんに、言う。
「私、これから、はやてちゃんと幸せに、なる・・・
 の?」
あれ、なんか、おかしくない、かな。
私、フェイトちゃんが好きって言ったはずなのに、
どうしてはやてちゃんと一緒に幸せになるのかな。
いや、はやてちゃんはいい子だし親友だし、
はやてちゃんが幸せになってくれればうれしいし。
あれ、いいのかな。
告白した後って、そうだよね、幸せになってねとか、
幸せになろうとか、そういうようなこと言うんだよね?
「フェイトちゃんに告白して、
 それで、なのはが一緒に幸せになる相手って、
 はやてちゃんでいいんだ・・・・よね?」
なにか、凄く間違ってる気がするんだけど、
フェイトちゃんにそう言われたんだから、合ってるよね?
尋ねると、はやてちゃんは真っ青な顔で、首を小刻みに横に振っていた。
怯えた子犬みたい。
「なのはちゃん、自分がなんて言ったか、
 覚えてへんの?」
私が、なんて言ったか・・・?
「え、えっと・・・。
 フェイトちゃん、私、私――――・・・。」
ここまで言ったときに言葉が詰まっちゃって、
はやてちゃんが励ましてくれて、それで、だから、
「はやてちゃん。」
って呟いた気がする。
それで、勇気を出してフェイトちゃんに向かって、
「好きなの、出会ったときからずっと、」
って言って。
そうだ、うん、そうだよ。
「ず・・・っと・・・。」
・・・・。
はやてちゃんが青い顔のまま、唇を動かした。
「今の、全部繋げると・・・?」
言った言葉を、全部繋げる、と。
「フェイトちゃん、私、
 はやてちゃん好きなの、出会ったときからずっと、ずっと・・・。」



あ。









「ああああああああああああああああああああああ!!」