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 信じられない。
 息が震えて、眩暈すら感じてシグナムは左手で顔を覆った。汗ばんだ掌に、荒い息が当た
る。男が喚く様に弁解の声を放っていた、それすら遥か遠い。茫洋とした何処かから響いて
くるみたいで、もう何を言っているのか、言葉にすら聞こえなかった。だがその必死に否定
する姿こそが、何よりの肯定だった。
 人を殺し、そのリンカーコアを奪い発動する剣。
 そして男は、それを知って振るっていた。
「どういう、ことだ・・・これは。」
 顔を覆う指の間から、シグナムは剣を見下ろす。時折返す拍動は、まるで剣が息をしてい
るかのようだった。いつまで経っても掌に馴染まない柄に篭った熱は、剣の持つ体温なのだ
ろうか。
 人を殺して活きる剣。それを、
「どうして・・・、こんなもの使えるんだ。」
 息を吐いたシグナムの目に、剣の灯す光が映りこむ。暗い夜の海のようなシグナムの瞳の
上で、水面に反射する星明かりのように揺らめいた。
「お、れはやってねえぞ。
 元から魔法が使えるようになってたんだ。」
 鼓膜を打った声に、シグナムは視線だけを男に向けた。そうして、小さく唇を動かす。
「そうか。」
 それは本当なのだろう。でなければ、非魔導師であるこの男がリンカーコアを得るのは難
しい。他の誰かが魔導師を殺してこの剣を振るい、そして、きっと幾人もの手を経て、この
男の元に行き着いたのだろう。そう、こんな人間なんて、他にいくらでも居る。それこそ吐
いて捨てるほどに。
 この剣はただの、解りやすい象徴だ。この男がどういう人間なのかの。そう、判っていた
のに解っていなかった自分に思い知らせるための、解りやすい象徴。
 だから。

 どうして――――、なんて、今更だ。

 ぶち、と音を立てて唇が切れた。
 噛み締めた歯が皮膚を突き破り、口内に血の味が満ちる。
 苦い。
 体中に走った裂傷が血を流していた。火がついたように全身が痛い。裂けた左の頬から溢
れる血が襟を汚し、穿たれた右肩が膿んでいくように疼痛を寄越す。血塗れの両腕が、左の
脇腹が痛い。抉られた左の大腿が麻痺している。右足首は拉げているみたいに感じられた。
「ああ・・・。」
 シグナムは眼差しを自らの足元に落とした。焼け爛れた建材や何かの部品を踏みしめる足、
その下には剣の光が作る影が流れている。
 あの日。
 あの日から、はやては目を覚まさない。誰が何度呼びかけても、一言も答えず。握り締め
た冷たい手は、指先一つ動かさず。ただゆっくり、ゆっくり苦しみながら、いずれ。
「どうして。」
 何度見ても変わらない男の相貌。落ち窪んだ眼窩に濁った黄色の目を嵌め込んだ男が何故
だか、歪な人形のように見えた。胸の奥に小さな電池だけを持つ、人形。焼け落ちた機材に
埋もれ、夜に飲まれ青に霞んでいるからかもしれない。
 私は、判っていて剣を収めたんだ。殺さないと決めたんだ。
 どうして、自分が復讐の剣を振るってはならないのか。
 どうして、こいつらをぶっ飛ばす為に剣を振るってはならないのか。

 ゼストが守ろうとした世界だから。
 はやてが守ろうとしている世界だから。

 人は、
 人と共に生きる中に幸せがあるんだ、というそれを守るために、
 私は、どうして―――――

「どうして、こんなものを生かしておこうなんて、思ったんだ。」
 シグナムの手から、大剣が滑り落ちた。鼈甲の光を放つ剣は甲高い音を立て、地面を跳ね
転がり。耳障りな残響を散らせて、沈黙をする。零れ落ちるように、光は消えた。
 断ち切られた屋根の間から降り注ぐ穏やかな夜を背に受け、シグナムは男へと向き直る。
その左手が、腰に帯びた剣を取る。
「お前のせいだ。」
 目が熱かった。唇を引き結び、シグナムは顔を歪める。
「お前みたいな奴が居るから、こんなことになるんだ。」
 滲んでいく視界の中に、一つの人影が映る。
 十余年。ずっと共に過ごしてきた人。自分の、存在そのものを変えてくれた人。
 たった一人、この世で、たった一人きりしかいない、世の中で一番大切な人。

 自分よりも、他の何よりも、かけがえがなくって、
 本当に大切で、

 たいせつで。

 その人とずっと一緒に、

「お前さえ居なければよかったんだ。
 お前みたいな奴さえ居なければ、こんなことにならなかったんだ。」
 戦慄く腕が剣の柄を掴む。大きく震える腕に、鞘と鍔が耳障りな音を立てた。熱い目に、
込み上げて来る何かが滲む。噛み締めた唇の間から、呻き声が漏れた。抜くな、抜くなと誰
かが言う。抜いてはならないと、自分の胸の奥が言う。それでも、シグナムは叫んでいた。

 生きていきたかったのに。

「お前を、殺してやる!!」
 叩きつけられた鞘が床を跳ね、真っ白い刀身が輝きを放ち、暗闇を切り裂く軌跡を描いた。
踏み出した足で劣化した床を叩き割り、シグナムは男へ突き進む。耳元でまだ熱い空気が裂
け、手にした魔剣が白く光を反射する。
「な、なに言ってんだよ・・・!
 てめえ、管理局員だろ、こ、殺すって。」
 手足を拘束された男が床を這い後ずさる。引き攣った笑いがその頬に張り付いていた。中
途半端に見開かれた目は、シグナムを捉えて微動だにしない。目が逸らせない。その歩みか
ら、提げた白銀の刃から、自分を射抜く真っ青な双眸から。
「やめろ、近づいてくんな!
 じょ、冗談だろ、お前管理局員の癖に、人のこと殺すのかよ!?」
 何を一体、今まで躊躇っていたのだろう。人には二種類いて、傷つける人間と守る人間だ
なんて。違う、人間は二種類なんていない。一つだけだ。それは、守る人間だ。人を傷つけ
るしかないものなんていない。
 シグナムは男の前に立ちはだかった。
 真下に男を見下ろし、その剣をゆっくりと振り上げていく。弧を描き上り詰める切っ先は、
冷たい半月を描いた。
「や、めろ。」
 男がか細い声を出した。見開かれた目には、剣を振り上げるシグナムの姿しか映らない。
「やめろ。」
 シグナムの唇が、微かに歪んだ。

 人を傷つけるしかないものなんて、
「お前は、人間じゃない。」

 刀身が光る。
 男の目が、真円に見開かれた。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!」











 雫が、落ちた。


 金属音が響いた。振り抜いた両の腕。その手の中に、剣はなかった。あるのは、星明りが
落とす指の影と、零れた涙だけ。透明な雫が、頬を伝い、ぽつ、ぽつと小さな音を立てて、
空っぽの手の平に落ちる。
「出来るわけ、ないじゃないか。」
 涙の絡んだ声で、シグナムは呟いた。呆然と、口から滑り落ちる声。その顔は自嘲に歪ん
でいる。笑っているのかと思えるほどにぐちゃぐちゃに顔を歪ませて。
「お前を殺したって、何にもならないのに。」
 その目蓋の縁から、涙が溢れ出す。男は気絶していた。斬られたと思って、目を白く剥い
て。シグナムが零す涙のわけすら知らず。殺せたらよかった。思うままに、剣でこの男を一
刀に伏してしまえれば。そうすれば、どれだけ救われたか知れない。そうすればきっと、自
分は一度でも笑えたのに。
「お前を殺したって、主はやては悲しまれるだけに、決まっているのに。」
 過ぎったあの人の姿は、声は、優しく笑っているだけで。
 シグナムが愛している笑顔を向けてくれるだけで、
 それなのに、
「出来るわけ、ないじゃないかあああああああああああああ!!」
 慟哭が倉庫を突き抜け、空へと放たれた。掌に、幾つも幾つも涙が落ちる。数え切れない
ほどの涙が、夜闇の中、煌いた。空から降る星のように。
 どん、という鈍い衝撃が胸を貫いた。
 二条の光が、背中から胸を撃ち抜いて虚空を走った。シグナムの胸の中央と、左胸に穴を
穿って。血が噴き出す。射撃魔法。シグナムは後ろを振り返った。霞み、景色に溶け込むよ
うにして、一人の人間が後方に立っていた。手には杖を持ち、こちらに向けた掌には環状魔
法陣。最初に確認した魔導師は五名。倒したのは一人。逃げたのは、一体何人だったのか、
気にしていなかった。
 胸に二つあいた穴に手を当てるが、両手で穴は塞ぎきれない。血は止まらない。指の間か
らも、手の隙間からも、背中からも流れ出て、意識が砂のように霧散していく。代わりに、
足元には血が溜まって。
 どうして、と、形にならない疑問が幾つも脳裏を掠めた。どうしてこんなことになったん
だろう、とか。どうして、私は――――、とか。
 でも暗闇の中最後に浮かんだのは、眩い笑顔で。
「主・・・はやて。」
 微笑に口許を引き攣らせ、シグナムは血の海に倒れた。











 庭に出ると、夜露の匂いを孕んだ風が鼻先を掠めた。出してあったサンダルに足を掛け、
シグナムは庭のタイルの上を歩き始める。腕の中に抱いたはやてが苦しくないように、な
るべく滑らかに、ゆっくりとした歩調で足を運ぶと、サンダルが踏みしめる砂の音が耳に
付いた。
 庭木の葉の色は夜に溶けて青く、室内からの明かりが四角く届く芝生だけが滑らかな緑
をしていた。その中に数本生えた雑草は小さな白い花をつけ、時折吹く風に身を揺らす。
肌を焦がした強い日差しも、むせ返る様に立ち込めた昼間の熱気も、もう夜の中、息を潜
めている。耳の奥に微かに響いてくるのは、何処かの通りを走る車のぼやけて輪郭も曖昧
な音と、庭を行きかう生き物の気配ばかりだった。シグナムは庭の外を仰ぐ。街の方、夜
空を照らす明かりが遠くに見えた。
 この小さい庭のある、天球。シグナムが息を吐き出すと、腕の中ではやてが身じろぎを
した。シグナムがはやての顔を覗き込むと、はやてはくすぐったそうに首を竦めて微笑ん
だ。肌に触れるはやての暖かさをシグナムは抱き寄せる。そうすると、はやてはシグナム
の首に回した腕に力を込めた。
「今日は、よう星が見えるな。」
 はやてが、空に輝く夏の星座を見上げた。あどけない輪郭が一層丸みを帯びて仰ぐ空を、
シグナムも望んだ。頭上、空の天辺を見上げる。深く、吸い込まれるような夜空には月が
輝き、千切れた雲の一筋と、砂粒のように煌く星が幾つも散らばっていた。真っ黒の空い
っぱいに瞬く星達は、数えることすら叶わない程で。
「本当ですね。」
 天に流れる川を見つめるシグナムの横顔に、はやては嬉しそうに「せやろ?」と頷いた。
シグナムは間近にあるはやての顔を振り返り、自分を見つめるその眼差しを見つめ返して、
微笑んだ。
「ええ、綺麗です。」
 はやての瞳が、嬉しそうに綻んだ。そうして、はやては空に手を伸ばす。
「なあ、シグナム、見ててな?」
 小さな掌を開いて、指の間に一つの星を捉えて、はやては笑う。幼い顔、丸く黒い瞳の
表面を、光が流れていた。シグナムの見つめる先、はやては小さな手をきゅっと結ぶと、
その右手を大事そうに左手で包み、胸元に引き寄せた。掌に水を掬うように指の間を閉じ
て手を合わせ、はやては開いた掌をシグナムに見せる。
「ほら、お星様取れたで!
 見えるやろ?」
 はやての掌はやわらかく曲線を描いて、大切なものを落とさないように器を形作ってい
る。そこにあるのは夜風と、室内から差し込む蛍光灯の光が形作る陰影だけで。
 でも確かに、シグナムには見えた。
「ええ、もちろんです。」
 シグナムがはっきりと頷くと、はやては満面の笑みを零した。
 純真な眼差し。丸い輪郭、柔らかな頬。惜しみなく笑顔をくれる現マスター八神はやて。
その笑みを見ていると、いつも胸の中で何かがとん、と一拍打つ。その後で、何かが溢れ
てくるように、胸が熱くなる。いつまでも見ていたい、そんな笑顔だった。
 もっと笑ってくれればいい。
 いつまでもずっと、翳ることのないその笑顔で。
 シグナムは顎を引き、はやてを見た。
「主はやて、本当によいのですか。」
 空を見上げていたはやてが、シグナムを振り仰ぐ。
「なにが?」
 暢気な声。丸い黒の瞳に、シグナムが映っている。その目を見つめて、シグナムは口を
開いた。
「闇の書のことです。」
 守護騎士とマスターを繋ぐもの。守護騎士の義務にして存在意義。はやてが目を僅かに
見開いたのに気付きながら、シグナムは言葉を続ける。
「あなたの命あらば、
 我々ははすぐにでも闇の書の頁を蒐集し、
 あなたは大いなる力を得ることが出来ます。」
 闇の書は巨大ストレージデバイスだ。内部に頁として保管できる魔力量は、人間個人が
扱える魔力を遥かに超える。闇の書の真の覚醒にして完成が果たされれば、その力を自在
に行使できるようになる。今まで幾度となく繰り返してきたこと。マスターの誰もが求め
たもの。そして、
「この足も、治るはずですよ。」
シグナムは力なく垂れるはやての足を見た。幼い頃から患っている病気の為に、自ら歩く
ことの出来ないはやて。闇の書の力を手に入れれば、足など直ぐに動かせるようになるだ
ろう。今の、不自由な車椅子での生活から解放される。時折見せる曇った表情など、しな
くてよくなる。
「あかんて。
 闇の書の頁を集めるには、
 いろんな人にご迷惑をおかけせなあかんのやろ。」
 はやてがシグナムを見据えた。そして、はっきりとした声で言い放つ。
「そんなんはあかん。」
 その声に迷いはなかった。
 確かに、闇の書は他の生物がリンカーコア内に保有する魔力を蒐集する。それはすなわ
ち、奪うということに他ならない。だが今まで、それを躊躇したものは居ない。闇の書は
頁を蒐集するもの。そしてそれは、他者から奪うものだ。
 奪わなければ手に入らないのだから、仕方ないのではないですか、とシグナムは言おう
と思った。だが、はやては首を横に振って続ける。
「自分の身勝手で、人に迷惑かけるんは良くない。
 私は、今のままでも十分幸せや。」
 そうして一度言葉を切ると、はやては緩やかに微笑んだ。
「それになにより、今は、みんなが居るからな。」



「シグナム。」
 ぼうっとする頭に、はやての声が反響した。シグナムははやてを覗き込み、「はい。」
と返事か疑問か判然としない調子で答えた。はやてはそんなシグナムを、変わらない丸い
黒の瞳に映している。
「シグナムは、みんなのリーダーやから。
 約束してな?」
「はい?」
 はやての言うところが判らず、シグナムは間の抜けた返事をする。はやてはその、変な
調子に気付きもしないで、シグナムを見つめた。星空の流れる黒の瞳。生き物の安息を包
む、夜の色をした眼差しで。
「現マスター八神はやては、闇の書にはなーんも望みない。
 私がマスターで居る間は、闇の書のことは忘れてて。
 みんなのお仕事は、うちで一緒に仲良く暮らすこと。
 それだけや。」
 シグナムの口から、返事にもなっていない変な声が零れた。腕の中で、はやては静かに
シグナムを見上げている。温かく、小さな体。自分の意志で歩くことも出来ない、不自由
で弱い体。力も、自らの足で歩くという自由もないままで良いから、一緒に仲良く暮らす
ことが自分達の仕事だと、そう、彼女は言ったのか? 自分達が居るから、それで十分幸
せだから、頁は蒐集しなくていいと、そう、彼女は
「約束できる?」
 はやてがシグナムにそう尋ねた。
 約束、という言葉がシグナムの頭に響く。目を逸らすことなくはやてが自分を見ていた。
だからシグナムは、一度唇を引き結ぶと、厳かに誓いを立てた。
「誓います。
 騎士の剣にかけて。」
 すると、たちまちはやてが頬を綻ばせた。丸い頬をうっすら赤く染めて。満面の笑みを
咲き誇らせて。はやては笑いながら、シグナムの首にぎゅっと抱きつき、頬を寄せた。
 シグナムの胸の中で、何かがとん、と一拍を打ち、溢れてくる何かに胸が熱くなった。
一緒に仲良く暮らすだけで幸せだ、そう言ってくれるなら、いつまでも一緒に仲良く暮ら
そう。ずっと、ずっと一緒に。
 もっと笑って欲しいから。
 いつまでもずっと、その満面の笑みを咲き誇らせて欲しいから。

 私はあなたの笑顔が、何より一等

















 リンカーコアだ。
 安定した魔力供給を可能にする体組織。その安定性はエネルギー結晶体では及びもつか
ない。ただし、一個のリンカーコアでは使用できる魔力量は知れている上に、人間がその
運用をする以上、連続して長時間を使用するには限界がある。
 だが、もし人体から取り出し、かつ大量に集めることが出来たならどうだろう。もっと
も安定で、長時間の使用に耐えうる機関を作り出すことが可能になる。大量の魔力を安定
に運用すること。それこそが、人工臓器の最大の課題だ。それさえ出来れば、人工臓器の
機能不全は解決される。
 主はやては助かる。
 簡単な、ことだったんだ。
 シグナムは自分が笑ったことに気付いた。体が動く。顔の右半面は血の海に沈み、錆び
た臭いがこびり付いていた。生暖かい気色の悪い感触だ。これは自分の流した血だ。胸に
冷たい夜風が滑り込んでくる。文字通り胸にあいた、二つの穴から体の中に。
 何を勘違いしていたんだろう。一緒に生きたいだなんて。
 元から自分は、生きてなんかいなかったのに。
 自分はあの剣と同じだ。人の魔力を集める為の物でしかない。魔法技術で作られた擬似
人格。主の命令を受けて行動する、ただそれだけのためのプログラムに過ぎない。
 あの人があまりに優しいから、忘れていただけで。
 シグナムの目がうっすらと開く。暗い。物は薄明かりに青く朧な輪郭を描き、何も判然
とはしない。その中で、錆びた大剣だけが、シグナムの目に焼きついた。
 私は闇の書の騎士だ。
 一定期間、蒐集を行わなかった主の命を蝕む書の騎士。 
 数多のものを斬ってきた。人間だけじゃない、リンカーコアさえ持っていれば、どんな
生き物でも構わず斬り捨てた。蒐集するまでは殺さない。でも、蒐集した後に死なないか
どうかなんて、気にもせずに。
 シグナムは立ち上がった。手にした大剣が放つ橙色の灯火が、シグナムを下から照らし
だす。仄暗い瞳に光が宿る。
 発現過程さえ未だ明らかになっていないリンカーコアを取り出し、かつ運用することは
現在のミッドチルダの技術では出来ない。だが、この大剣なら出来る。簡単なことだ。あ
の時と同じ。魔力を集めればいい。そうすれば、主はやてを救える。
 シグナムは自分を撃った魔導師に向き直った。手の中で大剣が床を擦って音を立て、気
絶した男の様子を見ていた魔導師が、ゆっくりとこちらを振り返った。


 ああ、どうして、私達は主はやての家族だなんて、思ったんだろう。