その瞳を、どうして形容し得ただろう。
 フェイトを見上げるシャマルの双眸を、ただ蛍光灯に照らし出されただけの紫石英を、
平坦な眼差しを。鋭くもなく、フェイトを映すだけ。フェイトは胸の縁が引き絞られてい
くように錯覚した。息が苦しくて、指先に血が通わなくて痛い。
「確かに、私が言うことは矛盾してます。
 でも、私はこの線までは踏むと決めました。
 あなたにも、はやてにも生きていてもらう為に。」
 フェイトが握り締めていた拳はいつの間にか僅かに持ち上がり、腰の高さで固まってい
た。筋が薄く腕の内側に浮き上がる。
「それで、あなたにそう言われて、何が変わるというの?」
 シャマルは口元に一筋の笑みを引いた。空洞の様な瞳がその中で浮いていた。唇だけが
まるで本物のように微笑む。
「何も変わらない、そうでしょう?
 それに、今講じられることはそれくらいなんだから、あなたは特に間違ってないわ。
 だからいいのよ、気にしなくて。」
 肩口を柔らかい金髪が流れた。シャマルは優しげだった。
「あなたが出した申請が通ったなら、その時は使うわ。
 ありがとう、フェイトちゃん。」
 優しげなだけだった。
 微笑んでいるような形を見せているだけだった。中には何も無い。弧を描く眉も、緩ん
だ頬にも、穏やかに佇む姿も、流れる様な声音も、そう作られているだけ。そういう人の
形をしているだけ。
「シャマル・・。」
 息を呑むようにして呟いた名前が、耳の裏で反響した。
「ザフィーラもそろそろ戻ったら?
 話はもう終わったでしょう。」
 席を立ち、シャマルは壁際に佇んでいたザフィーラにそう告げる。さっきフェイトに向
けられた目はもう誰のことも映していない。シャマルにはもう、話を聞く気など無い。最
初から聞く気など無かったのかも知れない。ただ、フェイトの言葉に振り返っただけで。
「ザフィーラ、ついでにフェイトちゃんも送っていってあげたら?」
 シャマルの褪めた声音がフェイトの耳朶を打った。ザフィーラは驚いた様子で耳を立て、
その場に立ち竦んだ。シャマルは二人に背を向けて部屋の隅へと歩き出す。靴がリノリウ
ムの床を叩いて乾いた音を上げた。
 フェイトは遠ざかるシャマルの背中を見つめた。
「この前、私がなのはに、
 大切な人が笑ってくれるなら他に何も要らない、って言うの、聞いてましたよね。
 あの言葉、撤回します。」
 そして、シャマルの背中に言葉を突き通した。
「大切な人に笑って欲しいなら、自分が居ないといけないんだ。」
 シャマルの歩みが止まった。部屋の隅、シェルフの手前で。慣性で白衣の裾が揺れ、足
元に溜まるシャマルの影が動く。ザフィーラもまた、フェイトを見ていた。
「あのロストロギアを一部でも利用しようとすることに、
 シャマルが何も言うことが無いなら、私もこれ以上は弁明しません。
 だけど、このことは判って欲しいんです。」
 フェイトはシャマルへと明朗に声を紡ぐ。
「シャマル、もう自分を否定するのは終わりにして下さい。」
 空気が凝固した様な錯覚に陥る長い一瞬。音の無い部屋の中で、シャマルが息を止め、
ザフィーラがその場に縫い止められた瞬間。窓も無い本局の一室が箱に変わり、暗さの蟠
る牢獄になる時。
「シャマルは、はやてのことを諦めてるんじゃないんですよね?
 自分のことをどうしても許せないからそう言ってるんだ。
 自分が居なければ良かったって、シャマルはずっと思ってるんだ。」
 フェイトの低い声は狭い部屋に響く。ザフィーラを俯かせ、シャマルの背中を叩く。
「確かに、自分が居ない方がよかったんだって、
 自分はただの不幸の塊でしかなかったんだって、そうとしか思えない時はあります。
 大切な人なのに、自分ではどうやったって大切に出来る筈が無かったんだって、
 そう判っちゃう時だってあります。」
 フェイトの目に、過る人の影があった。目蓋の裏に焼き付いたまま、いつまでも風化し
ない人。
 自然とフェイトは握った右手を前に突き出していた。
 自分が生まれた日のことを思う。初めて泣いた日のことを。何もかも遅すぎて、大切な
人の手を掴めなかった手。そのくせ、今でも間違って何もかも手放してしまいそうになる
手。もう少し早ければ、この手は届いただろうかと今でも思う。
 その右手越しに、フェイトはシャマルを見つめた。
「でも、どれだけ不完全でも、自分が心の中になければいけないんです。
 言われるまま動くだけのただの人形では、絶対に誰も救えない。
 自分が居なければ、誰の手も掴めないんだ。」
 シャマルの背中は遠い。声はこの距離を渡っても、手は近づかなければ取ることは出来
ない。そうだ、こんなのは言ってしまえばきっと、ただの精神論だ。意気込みを新たにし
ろと言ってるに過ぎないと、誰かに言わせればそうなってしまうだろう。
 それでも、自分の意志を持つことが、生きることの始まりだと思っている。
「シャマルは、はやてと出会ってから、自分を見つけたんですよね。
 闇の書のプログラムとしての機能を越えて、
 はやてのことを大切にしたいって、もっと一緒に居たいって、
 そういう自分を見つけたんですよね。」
 だから、
「その自分を、自分で肯定して進まなくて、どうするんですか。」
 フェイトは大きな声で叫んだ。
「私は、シャマル達にはやてと一緒に生きていて欲しいんです!」

 シャマルが静かにフェイトを振り向いた。金髪が揺れ、滑らかな顎のラインがゆるやか
にこちらへと向けられる。
「あなたが・・・。」
 震える唇から、震える声が漏れる。
 深く顔に落ちた影。
「あなたが人間だからそんなことが言えるのよ!!」
 その奥で、紫色の瞳が涙を零した。

「はやてちゃんが死んじゃうかもしれないのに、なんでそんなことが言えるのよ!!
 どうしてまだ、一緒に生きたいなんて思えるの!?
 シグナムもヴィータちゃんもザフィーラもあなたも、みんな、理解出来ないわ!」
 吼えるように、シャマルは泣いていた。薄く微笑むだけ、空っぽになっているだけだっ
たシャマルが晒す、それは強烈な絶叫だ。
「今までのこと全部否定して、何が悪いって言うの!?
 はやてちゃんが生きていること以上に、大切なことなんて無いわ!!」
 シャマル、と、ザフィーラが零した。耳を伏せ、見開いた目にザフィーラはシャマルを
映していた。その場に立ち尽くして動けないまま、枯れそうな声だけが微かに空気を揺ら
して。
「自分を肯定する?
 どうやってそんなことしろっていうのよ、
 生きてもいない私達に、なんの価値を見いだせって言うの?」
 価値。
 ザフィーラはその言葉を遠望する。
 管理局にさえ入らなければ、もっと子供らしい生活を、もっと年頃の女の子らしい生活
を送れたのではないだろうか。こんな危ない仕事をしないで済んだのではないだろうか。
こんな仕事をしていなければ、死ぬかも知れない怪我はしなくて済んだ筈なのに。
 狂っていた闇の書に、行き着きうる場所は今のところしかなかった。蒐集をしないでい
ることは出来なかった。他の選択肢なんてなかった。
 例えば、もとから全てを知っていたグレアムが全てを話していれば違ったのではないか、
そう考えることは出来ても、自分達のせいで幼い頃からはやてが矢面に立たなければなら
なくなった事実は変わらない。
 自分達のせいで、こんなことが起こったんだ。
 自分達が犯した罪を償う為に嘱託魔導師となったはやてに、過去の罪まで背負わせたの
は自分達だ。ただの古代遺失物なのに。
「生きてもいない私達が、どうやって一緒に生きていくって言うのよ!?」
 そんな自分達に、本当に価値はあるだろうか。
 自分達がいなければよかった、その思いを、何処まで自分は否定出来るだろうか。
 それでも一緒に生きていきたいと、自分は何処まで、
「私達が家族になれる筈なんて無いわ!!」
 肯定出来るだろうか。

 シャマルが目を水で輝かせたまま、赤く腫らせたまま、笑顔になる。握り潰したかのよ
うな笑顔で言う。
「それに、はやてちゃんを助ける為だったら、人を殺す必要なんてないわ。
 私達のリンカーコアをあげれば良いだけよ。
 それで全て解決するじゃない。」
 フェイトは厳しい眼差しをシャマルに向けた。シャマルは見つめ返してなお笑う。
「何も問題ないでしょう?
 私達なんて、データさえ残しておけばまた、まったく同じものが作れるじゃない。
 はやてちゃんは万に一つも悲しむことなんてないわ。」
 何処までも、何処までも、何処までも、シャマルは何も肯定しない。口を噤んでいたフ
ェイトは、首を一度、横に振った。
「そんなことしても、それはシャマルじゃないよ。
 今、ここでこんなにも悩んでいるのがシャマルなんじゃないか、それなのに、」
「フェイトちゃんがクローンだからそう言うのよ!
 そうじゃないと自分を守れないから!!」
 声を張り、シャマルは最後に視線を切った。
「意志なんて、そんなの、なんの価値もないわ。」
 凪いだ音が通り抜けた。
 これがシャマルの想い。フェイトはそれを認めて顔を俯けた。伏せた睫が淡く影をなす。
「それでも、私、シャマルに自分を否定するのをやめてほしいし、
 はやてと自分達のことを諦めないで欲しいって、思ってますから。」
 フェイトは最後、自分の右手の平に視線を落として、その手をゆっくりと握った。
「最後に自分を肯定出来るのは、自分だけです。」
 一言、フェイトの声が落ちた。
 シャマルは黙ったまま、部屋の扉を開ける。廊下からの光が差し込んで、フェイトの横
顔を明るく照らした。
「結果が出たら、また来ますから。」
 フェイトはそれだけ告げると、シャマルとザフィーラに背を向けて歩き出した。その背
はすぐに、扉から外へと出て行く。残されたザフィーラはシャマルへと顔を向けた。
「どうして、そういう風に思えるのよ。
 シグナムも、ヴィータちゃんも・・・・。」
 シャマルの背中が震えた。ザフィーラは壁を手で押し、己が足で立ち上がった。尻尾を
振ると、固まっていた体が解れる。
「わたし・・・、わたし・・。」
 ザフィーラは空気を切って歩く。俯くシャマルが顔を覆う。背を小さく丸めて、涙が絡
んだ声を落とす。
「どうしても、そんな風に思えないのよ。」
 その時に、ザフィーラはシャマルに背中から腕を回した。回した腕に、熱い雫が幾粒も
伝う。
「俺は、主と共に居られて幸福だった。
 俺に判るのは、それだけだ。」
 信じて進もう、とは言えなくて、ザフィーラは口を閉ざす。本当は判っている、ここで
何を否定し続けたって何処にも行けない。進まざるを得ない。そのことを本当は判ってい
ても進めなかったのは、きっと。
 ザフィーラは唇を引き結ぶと、顔を上げて前を見た。



 リインは澄んだ眼差しに空を映していた。庇の先、庭を越えてこの家も街並も包み込み
光る青空を仰いでいた。真っ白い綿の様な雲は飛び上がれば手が届きそうに近くて、春先
の雲に似ている。今日は小春日和だと、朝の天気予報で言っていた。嵐の中にぽっかりと
開いた日溜まりの様な日。
「人間が生きているってどういうことなんだろう、って思ったことないですか?」
 リインの声は穏やかで、のびやかで、まるで淡々としていた。
「お前はホントめんどくさいことを聞くな。」
 アギトは庭の木に止まる淡い緑の羽根をした小鳥を眺めて、頬杖をついた。ぼやきにリ
インは「そうですか?」と軽い調子で返す。
「人間って一体なんなんだろう、って思わないですか?」
 少し顔を崩すと、リインは呟くように言った。
「こんな社会を作って、共生を前提にして生きているのに、
 どうして、こんなことばかりしているんだろう、って。」
 独り言の様な、遠くに向けて放ったような、そんな響きだった。
 木々の小枝の上を、淡い緑の小鳥が跳ね回っていた。小鳥の動きに合わせて枝がしなる。
それは眩しい春の景色のようで、アギトは目を細めた。家の中ではそよぐ風の音も聞こえ
ない。
「私、何があっても、はやてちゃんを刺した人を許しません。」
 静かな部屋の中に、リインの声が反響した。
「はやてちゃんが助かったって、あの人が死んだって、
 例え、はやてちゃんがもういいと、言ったとしたって。」
 横顔に微かな憎悪が滲む。リインの指先は左の脇腹を抑えて戦慄いていた。
 脇腹を突き破り、内蔵を抉る金属の感触。潰される体の音をその耳に聞いた彼女の中に
満ち続ける、一握の憎悪。脇腹を握り締める手が服に刻む深い皺に、アギトは彼女が決し
て口にしなかった感情の存在を見た。
「もし・・・、もし、はやてちゃんが死んじゃう様なことがあれば、私・・・、
 わたしも、もう誰も許せないと思います。」
 その言葉を零す、リインの声音は微かに震えていた。
「自分のことも、きっと。」
 唾を呑む音がやけに耳についた。彼女の体に残る形の無い傷が、きっとその日に彼女を
殺すのだろう。アギトはリインから目を逸らさなかった。
「どうして、って思うです。
 どうしてはやてちゃんがこんな目に遭わなきゃ行けないんだろう、って。
 どうしてあんな人達が元気で、はやてちゃんが、って。
 ・・・逆だったら、・・・って。」
 最後の呟きは擦れていた。けれど、アギトには聞こえた。
「そうだな。」
 聞こえなかったフリをアギトはしなかった。逆だったら、何も悲しくはないのに、と思
う。それは知らない相手が傷ついても悲しくないからなのか、無垢なもの程、命の価値は
高いということなのか、どちらなのかは判らないけれど。
「でも逆だったら、あいつらははやてのことを斬るんじゃないか、って、思う。
 勝手な、印象だけどさ。」
 シグナム達は斬らないことを選んだのに、と言い添えるアギトに、リインは答えなかっ
た。それは、肯定しているようにも感じられた。
「人間ってなんなんだろうなって、思うよ。確かに。」
 アギトはふ、っと息を吐き出すと、懐かしい人を思い出す。初めて遣えた彼女の騎士を。
一度は殺された筈なのに、実験素体として適合するからと息を吹返すよう強いられた人。
苦しみながら生き残り続ける彼に同情する者はなくて、実験者はただ彼の生命を転がした。
彼には帰る場所も無かった。
 それでも、彼には辿り着きたい場所があった。
 希望に燃えていた眼差しだとは思わない。強い意志が底光りしていたとも言わない。で
も、ゼストは辿り着きたい所まで歩き続けることをやめなかった。進むことをやめなかっ
た。その先に希望があったわけでもなければ、幸福があったわけでもない。ただ、辿り着
いた所にあるかつての友の真意を求めていた。かつて目指した正義の為に、彼は苦痛ある
生ですら諦めなかった。
「どれだけ苦しんでも志の為に進み続ける奴も居れば、
 簡単に自分のことも人のこともぶっ壊しちまう奴も居る。
 よくわかんないよ。本当にさ。」
 アギトが肩を竦めると、リインが眉を歪めた。そうしてリインは窓に背を向けると、足
を一歩踏み出した。リインはフルスケールに姿を変え、少女の格好で立ち止まった。まだ
デバイスのサイズであるアギトからは、見上げても顔は見えない。たださっきよりも大き
な声が降り注いだ。
「私、人って、はやてちゃんやゼストさん、フェイトさんとか、
 そういう人達のことだと思うです。
 望みの為に進み続ける強さがあって、そして、心がある。
 それが人間なんだ、って。」
 リインはそう言って、アギトに振り向いた。それはもう、いつも通りのリインの表情だ
ったから、アギトはちゃかすように答えた。
「それって、あんまり人に聞かれちゃマズい台詞じゃねーの?」
 笑い声を歯の隙間から漏らすと、リインは澄ました態度で「いーですよー。」と返した。
その手が庭へと通じる窓の鍵を開ける。レースのカーテンを開くと、真っ直ぐに日光がア
ギトの目を焼いた。
「私がこの道を選ぶのは、私がリインフォースIIだからです。」
 窓が桟を滑る音に重ねて、リインがそう告げた。
 開かれた窓から、冷たい風が光と共に流れ込む。冬の風には冷気だけが溶けていて、透
き通るような匂いがする。頬を打つ感触。アギトはリインを見上げた。リインはサンダル
を突っかけて、庭の真ん中へと歩み出ていく。
「私には心があります。
 はやてちゃんと一緒に生きていきたい、
 そう思うリインフォースIIの心がここにちゃんとあるから、この道を選ぶんです。」
 リインは胸の中心に手を置いて、庭の真ん中で笑った。さっきまで庭に居た鳥は驚いて
飛んで行ってしまったから、鳴き声はちょっと離れた所から聞こえて、もっと遠くからは
また何かの気配が微かに流れてくる。土の呼吸だとか、空を渡る雲だとか、通りを走る車
とか、人のざわめきとか、そんなものが一緒になって、開いた窓から滑り込む。
 リインは明るく言い放った。
「心さえあれば、一緒に生きて、
 すっごく楽しい毎日を作っていけるって信じてますから。」
 アギトは立ち上がって、庭へと一歩を踏み出した。もう一足のサンダルを踏みつける時
に合わせて、フルスケールに変わる。目線の高さはリインフォースより少し上。まだ枯れ
草色の芝生を踏んで歩くと、サクサクと小気味のいい感触がした。
 リインの言ったこと、それは、自分達は人間になれると言った様なものだ。アギトはリ
インに歩み寄りながら、やっぱりロードと融合騎は考えも似てるもんなんだなあ、なんて
思った。でも、ただの融合騎とアホなだけのロードだったら、きっとこうじゃなかったろ
うな、とも思う。
 そうきっと、リインがリインだから、はやてがはやてだったからなんだろう。
「シグナム達は、あんなにいろいろ言い合ってたのに、
 お前はあっさりしたもんだな。
 らしいけどさ。」
 口の端を持ち上げて歯を見せると、リインが同じ笑い方を仕返して来た。
「だって私達は、はやてちゃんにとっての幸せですから。
 決まってるじゃないですか。」
 これがきっと、闇の書として関係を始めたシグナム達と、祝福の風として生まれて来た
リインフォースIIの違いなのだろう。そして、はやてが築きたかった関係は、きっと、リ
インの言う様なものなのだろう。一度たりとも蒐集を命じなかったのも、自分達を物とし
て扱わなかったのもそう。
「誰かは、ただのデバイスのくせに、って言うとは思うです。
 でもこれが、私が生まれてからの9年間全てを使って見つけた、私の答えです。
 ですから、誰にも否定させません。」
 蒼いリインの瞳が輝いている。アギトはリインの隣に立って、正面から顔を見つめた。
リインはアギトに向かって、自信たっぷりの笑みをぶつけた。
「たった9年でも、これが私の100%です。」

 一緒に生きたいと思っていて、
 それを実現して、
 みんなで幸せになりたいと思っているのが自分だから。

「一緒に生きたいって心を持って、進んでいくこと。
 これが私の、世の中で一番大切な人と絶対に幸せになる方法です。」

 はやてにとって、自分は何だったかなんて、判りきっている。
 はやての笑顔を信じているし、幸せだと感じた自分の心を信じているから。

「私は絶対、みんなと一緒に生きていく未来を掴んでみせます。」
 リインは大きな笑みを浮かべると、握り拳をアギトに向かって突き出した。

「それで、アギトはどうなんです?」
 アギトは笑い返して、握り拳を作った。はやてに何かあったら、そういう迷いが無い訳
ではない。怖くない訳が無い。それでも、まっすぐに笑ってみせるのがきっと、心がある
ということだと、アギトも思う。
 本当に守りたいものを守る。
 そのために、苦しいことも、怖いことも、全部受け止めて進んでいくのが強さだから。
「あたしも一緒に生きていける方を選ぶに決まってんだろ!
 リインフォース!」
 アギトはリインの拳に、自分の拳をぶつけた。