ねぇ?
 星の欠片みたいにきらきらした言葉を集めて、
 それで君に手渡したら、
 私の気持ちって、ちゃんと君に伝わるかな?

 すごくね、私、君のことが好きなんだよ。
 なのは。

「な、の、は。」
 驚かすように後ろから声を掛けたら、なのはは本当に驚いてくれて、ちょっと空を飛ん
だ。ほんの一センチ。私はそんな反応がうれしくって、元から緩んでいた顔がもっとゆる
ゆるになる。こんなんだから、はやてやアリサに、抜けてるって言われちゃうのかな。
「もう、フェイトちゃん、驚かさないでよ。」
 頬を少し膨らませて、なのはが私を振り返る。ごめん、なのはを見つけたら、つい、驚
かしたくなっちゃって、って本当のことを言うと、なのはは目を半分にした。睨まれちゃ
った、私。
「ねえ、一緒に帰ろうよ。」
 言いながら、私は左手の折りたたみ傘をなのはに差し出した。なのはは私の顔を見て、
それから私の右手にある普通の傘へと目を向けた。外は雨が降っていた。昇降口のガラス
戸に、雨の雫が吹き付ける。水滴に、雲で白くなった空が映っているのか、ちょっと光っ
ているみたいに見えた。
 雨水だって、意外と、見方を変えれば星ぐらいには見えるのかも知れない。じゃあ、雨
を両手いっぱいに集めたら、なのはに伝えるのにぴったりな言葉、一つくらいはみつかる
かな。
「うん、ありがとう。」
 なのはは私の差し出した折りたたみ傘を手にして、首を傾げて笑った。なんとなく控え
めな笑顔は濡れた淡い光の中でも綺麗。私は靴に履き替えると、なのはと一緒に学校を出
た。
 雨脚はずーっと一定のリズムを刻んでいて、足元で、傘の上で機嫌よく跳ねる。私は布
の傘を叩く雨の音が好きだ。耳を打つ感覚が気持ちいい。なのはと私、足並みを揃えて、
アスファルトの水の上を歩く。
「なのは、今日のテストどうだった?」
 私は傘越しに、真っ白い空を見上げる。よく目を凝らすと、雲にも厚さの差があって、
暗い色をしてるところと、ちょっと指で開ければ青空がみえちゃうんじゃないかってくら
いに光を透かしているところがある。
 雨は何処から降ってくるのか見えなくて、すぐ近くに来たときに突然何処かから現われ
るみたいだった。空中を引っかいたみたいに線が一瞬引かれて、傘とかアスファルトとか、
家の屋根とかいろんなところを叩いて、好きなように音を出す。
「私、古文自信あるんだよ。
 この間から、ずっと、予習と復習がんばってたんだから。
 あ、でも、なのは、
 最近私が学校で勉強してるとき、一緒に居たから、知ってるよね。」
 とっておきのつもりだったんだけど、やっぱり私って抜けてるのかな。そんな風に思っ
て、それでちょっと恥ずかしくって頬を掻きながらなのはを振り向いた。
 なのはは私ではなくて、道の先を見つめていた。澄んだ横顔に、雨音が照り映えてる。
「なのは?」
 首を傾げると、なのはは私を見つめた。透明な目だった。
 雨水を集めたみたいな目。
「うん、知ってるよ。
 でも、私のほうが、きっといい点取っちゃうよ?」
 そう言って、なのはは口元に笑みを浮かべた。

 ねえ、両手いっぱいに雨水を集めたら、
 君に伝えるのにぴったりな言葉、一つくらいは見つかるのかな。