トンネルを抜けると、そこはナノハちゃん家のお風呂でした。


えっと、はい。
うん、もう一回繰り返して、状況を再確認してみようと思います。
せーの。

トンネルを抜けると、そこはナノハちゃん家のお風呂でした。

あ、ちなみに、めでたくなのはちゃんの入浴中です。
ええ、私らって運がええみたいやね、フェイトちゃん。
そうそう見られるもんじゃないで、なのはちゃんの入浴シーンやなんて。
しかも、湯船に漬かって長いのか、ちょっと頬なんて赤く染めていて、
いい頃合なんじゃないでしょうか。
何に対して、いい頃合なのかはまあ、存じ上げませんが。
なのはちゃんって目ぇ、大きいんやなぁ。
まん丸に見開くと、私たち二人がちゃんと映ってるのが分かるって、
これ、凄いんやないかな。
なのはちゃん、自慢してええよ。
それにしてもなのはちゃんはスタイルええなあ。
フェイトちゃんの方が、出るとこ出てて、って感じやけど、
なのはちゃんはなんていうの、体つきがなんや猫みたいっていうかなんていうか。
小学生の頃は、運動も出来へんから、筋肉もなにもって感じで、
特徴のないすとーんとした体形やったけど。
でも、ほら、今はお風呂の中でなんやわざわざそんな小さく座らんでもええのに、
体育座りしとるけど、形のええ胸があるのが分かるし。
それに、手足も私より伸びて、
いつの間にやら先に大人になられてしもうた気分だってしてくるくらいや。
中学生のころはなあ、私の方が成長早いんちゃうかって思ったんやけど。
うーん、いつごろ私の予定は狂ったんやろか。
そんなことを考えてると、なのはちゃんが湯船の中でさらに小さい体育座りになりながら、
左手をお湯の中から出した。
指先から、水滴が水面に落ちる。
はごろもフーズみたいなミルククラウンは、残念ながら出来へんけど。
なのはちゃんがなんか言いたげ。
「な、なんで・・・?」
指先をぶれさせながら、私たち二人を指して発したのは、たったそれっぽっちだった。
そら、トンネルがここに続いていたから、としか答えようがないんやけど。
なんて言うたら納得してくれるやろうか、
この正面切った堂々とした、まるで道場破りのような覗き行為を。
いや、むしろここは、一緒にお風呂に入ろうと思って、
と嘘を付いたほうが私たちの今後の関係を保つには最適だろうか。
「え、そ、その、
 ・・・なのは、これは誤解なんだ・・・。」
突然、今まで沈黙を保っていたフェイトちゃんが言葉を発した。
私は思わずフェイトちゃんを振り仰ぐ。
風呂場に立ち込める湯気の中、水気を帯びた長い金髪が艶やかに光を放っている。
打つ向き気味に伏せられた長い睫には影が落ち、赤い瞳がその奥で揺らいでいる。
言葉につまり、フェイトちゃんは手を祈るように組んだまま、
風呂場のタイルへと視線を落とした。
流れきっていない泡がフェイトちゃんの足元に蟠っている。
「私たちは、ただ、トンネルの中を進んでいただけなんだ。
 本当に、それだけ、で・・・。」
歯切れの悪い言葉が浴室の中に凝る。
反響を残し、それは私たちの耳の奥底に残る。
そして、私たちを包んだのは、一抹の静寂だった。
呼吸の音さえ、何処かに吸い込まれて消えてしまうほどの静けさ。
天井に付いた水滴が一つ、なのはちゃんが浸かっているお湯の表面を乱した。
ふ、となのはちゃんは息をつき。
そして、一言、零した。
「とりあえず、出て行ってくれるかな。」