最近、朝晩は寒い。 9月も終わりに近づいていて、衣替えの時期はもうすぐそこで。 6時になってしまうと、もう日は暮れてしまっていて、 西の空の片隅に赤い光が、 染まりだした雲の合間で一抹の残照となっているだけだった。 頭上には、日が暮れた空。 風が強くなりだして、昼の熱を全てさらっていく。 私の指先からも、肌からも。 空気を吸い込めば鼻の奥が冷たくなって、体の内側からこうして、 冷えていくんだろうって思うのに。 背中から回された両腕が、押し当てられた体が、 冷えていく私に止め処なく終わりない熱を与える。 暗くなっていく視界の中に、金糸が舞った。 それを輝かせるものは何もない。 太陽は消え、行く筋もの大河のように流れる厚い雲の合間に、まだ星は見えない。 それなのに、私の目には、彼女の金髪は確かに光を放って見えた。 触れることの出来ない光。 彼女が私に回した腕に力をこめた。 それに同調するように、引き攣るような彼女の嗚咽が強く耳に突き刺さる。 泣いている彼女。 でも、私には触れることなんて出来ない。 彼女は耐えられないだけなんだ。 その赤い瞳にいつも写していた人が、また傷ついたということが、 苦しくて、それで誰かに縋らずにはいられなかった。 墜ちた、なんて形容するほどの怪我でもない、 ただ出動先で相手にしてやられた、という程度で、本人もけろっとしていた。 けれど、彼女の目にはフラッシュバックしていたんだろう、 数年前の、ある境をさ迷っていた人の姿が。 私は彼女の腕に抱かれながら、彼女の嗚咽を聞きながら、西の空をにらみ続ける。 次第に寒くなっていく私の指先は感覚が落ちていく。 けれど、背中や首の辺りは暖かい。 そう、寒気を感じる要素なんて、本当にわずかなのに。 赤い光が、だんだんと色彩を欠いていく。 地平のかなたにある、青空を追いかけて。 そうだ、青空なんてどこかに行ってしまえばいいんだ。 赤い色と共に。 そうしたら、夜が来るから。 暖かい彼女の腕の中で、私は胸の奥が冷えてゆるやかに凍り付いていく音を聞いていた。 一陣の風が吹く。 こんなの、私が望んでたものじゃない。