教室で足元に滑り込んできた冷たい風に、 近く迫った秋を、遠く佇んでいる冬を想った。 薄青く澄んだ高い空を見上げ、それからはやては視線を下ろして行く。 緩やかに弧を描く蒼穹に、静かに聳える中学校の校舎が映えている。 鳴り響いたチャイムの残響も、快晴の空に飲み込まれ、 風の音だけがはやての胸の中に溜まり始めていた、昼休みの終わり、5時間目の始まり。 中庭の植え込みの下、芝生の上には良く見知った人が寝ていた。 「なにやっとんの、この人は。」 はやてはため息混じりに呟いて、気持ちよさそうに目を閉ざしている人の顔を覗き込んだ。 木の葉の影が眩しい日差しから顔を守っていて、その肌の上を風が撫でていく。 煽られる金色の前髪。 どうやら目を閉じているだけではなくって、 ちゃんと眠っているようで、はやての声に対する反応はない。 「こんなに堂々とサボるなんて、 フェイトちゃんって意外と大物やったんなぁ・・・。」 呆れの混じった声が陽だまりの中に落ちる。 フェイトの顔に、小さな花が一つ降った。 オレンジ色の小さな花は、よく見れば広がった髪にもいくつか絡んでいる。 甘い匂い。 秋を告げる、それは金木犀だった。 何処かから香っていると思っていたら、目の前の木で、 その下で寝ているフェイトが可笑しかった。 「よう眠れるなあ、こんなところで。」 小さく声を上げて笑うと、はやては左足を大きく後ろに引いた。 そうして、気合一閃。 「はよう、起きんかい!」 大声を出すと、フェイトの足を思いっきり蹴り飛ばした。 痛そうな音を立てて、フェイトの足が跳ね、 フェイトは飛び起きた。 「え、な、なに!?」 芝生と金木犀を頭につけたまま、フェイトが何事かと頭をきょろきょろ左右に振る。 その顔は最終的に、救いを求めるようにはやてを振り仰いだ。 はやてはフェイトを見下ろして口を開く。 「もう5時間目始まっとるで。 いつまで寝てんの?」 起き上がったフェイトは目を丸くした。 「え、本当? じゃあ、急がなくっちゃ。」 埃を払いながら、フェイトが立ち上がる。 サマーセーターについた花は落ちるが、髪に絡んだ花は取れない。 はやては見かねて手を伸ばすと、長い髪を手に取った。 「ほら、金木犀の下なんかで寝るから、 めっちゃ絡まっとるやない。」 花を取りながら、はやてが呆れて言う。 フェイトはごめん、と小さくこぼして、されるがままはやての指先が動くのを見つめた。