9月からコンビニの店頭に並び始めた肉まんは、 寒くなってきた近頃の気候の中ではやたらと輝いて見えた。 物価の上昇で100円玉一枚で買えなくなってしまったのが、中学生の身の上としては悲しかったが。 今日だけは違った。 「に、20円引き・・・!」 はやては足を後ろに一歩引きつつ、右手はドラマチックに手元に翳してそう叫んだ。 背後にはべたフラッシュの効果が踊る。 フェイトが笑う。 「なに、はやて、その反応。 驚きすぎだよ。」 ころころとした笑い声が道路脇に舞う。 はやてがフェイトを振り仰いだ。 「だって、20円引きやよ! 20円引きが5回重なれば、なんと、一個多く肉まんが買えてしまうんやで!」 握り締めた両手をぶんぶん振りながらはやてはそう力説した。 フェイトは破顔して、コンビニへと顔を向ける。 人影もまばらな午後4時のコンビニなら、 買い食いしても先生に見咎められることはまずないだろう。 「じゃあ、買ってっちゃおうか?」 ポケットの小銭入れを握り締め、フェイトははやての顔を覗き込んだ。 だけど、はやての表情はわずかに曇る。 小さくうなり声を上げながら、はやては学校指定のカバンの中、 チャックの付いた部分を開けて中を手でまさぐった。 そして、出てきたのは4枚のコイン。 「・・・・35円・・・。」 はやてのため息を、道路を通り過ぎた車の排気音が攫っていった。 「一個、80円だっけ。 いいよ、50円くらい出してあげるよ。」 しょぼくれた様子のはやてに、フェイトはそう言った。 途端、はやてが表情を明るくし、フェイトを振り仰ぐ。 「ええの? ほんまに!?」 見開かれた瞳の中で光が弾けている。 フェイトはその素直な眼差しを見て頬を緩めた。 「本当だよ。」 ほら、とフェイトはポケットから小銭入れを取り出して、チャックを開いて見せた。 「・・・あれ。」 小さな小銭入れの中に入っていたのは、48円だった。 もっとたくさん入っているはずだったのに、おかしいな、とフェイトは軽く頭を掻いた。 それから、ぽそっと提案する。 「半分こしよっか。」 はやてが、うん、とうなずいた。