あいしてる、だとか。 すき、だとか。 そんな曖昧な言葉に、私は惑わされたりなんかしない。 日の落ちていく教室は、椅子と机の影が長く床に伸びていて、 雑然と何かを囲っているようだった。 多分、私のことだ。 だってほら、窓に寄りかかって立っている私の影は、 椅子と机の織り成す格子の影に囚われている。 頭の先まですっぽりと。 背中へと突き刺さる、遠い西日の熱。 目に焼きつくのは、教室に落ちる暗い影ばかりなのに。 私は音を立てずに唇を動かした。 先ほど、この教室の空気を埋めた言葉の形骸をなぞる。 言葉はいずれ消えてしまう。 耳の奥にすら、いつまでも残響としてあり続けることは出来ない。 だから私は声を出さない。 だって、言うわけないから。 あの人が、私を好きだなんて、言うわけない。