何故か、彼女の目を見て、「青い瞳が私を見つめている。」というフレーズが頭を過ぎった。
どう考えても、何故だか分からない。
彼女の目は真紅で、宝石みたいで、触れてみたいくらいに綺麗で。
でも、触れられない。
だって、触ったら痛いから。
「はやて、人の話聞いてる?」
フェイトちゃんが珍しく不満そうに口を曲げた。
本当を言うと、ちょっと聞いていなかったんだけど、そこらへんはちょっと嘘を吐く。
「ん、聞いてたよ。」
だって、フェイトちゃんの声はいつだって私の中にすっと入り込んでくるから。
内容がなんだって、声だけは。
もう、とフェイトちゃんは肩を落としてから、私が聞き逃した話を繰り返してくれた。
「だからね、今度、なのはと同じ任務になるんだ。
 なのはと一緒に空を飛ぶの、凄く久しぶりなんだよ。」
別に、頼んでもいないのに。
私は緩やかに、微笑みに似たものを顔に浮かべて、フェイトちゃんを見つめた。
「らんでぶーとかいうやつかぁ。
 近頃の若い人はあらあらまあまあ。」
からかう口調でそう言うと、フェイトちゃんは頬を膨らませる。
「もう、はやて!」
確かに相当久しぶりになるんだろう。
なのはちゃんはあの日落ちて以来、
最近まで魔法を使うような任務に就くことを控えていたから、
フェイトちゃんと、ってところを差し引いてもかなり久しぶりだろう。
「私も、なのはちゃんと一緒に空飛びたいな。
 久しぶりやから、きっとなのはちゃん目をきらきらさせて飛ぶでー。」
机に頬杖をつきながらそういうと、フェイトちゃんが嬉しそうに笑いながらまねしてきた。
「うん、私もそう思うよ。」
小さい机の上に、向かい合う形で頬杖をついたら、
当然だけどフェイトちゃんの顔がすっごく近くにくる。
息してるのだって、気をつければ分かっちゃうような距離。
見つめると、フェイトちゃんのことしか見えなくなるような、そんな近さで。
フェイトちゃんは微笑んだ。
「はやてどうしたの、変な顔して。」
可笑しそうに目を細めると、フェイトちゃんはちょっと身を乗り出してきた。
私は、動けなくって、固まったままで。
そんな私の額に、フェイトちゃんはおでこをくっつけてきた。
「んー、熱はないね。」
はは、と軽く笑い声をあげて、フェイトちゃんは頭を少し振って、私の頭を揺らしてきた。
「あ、ったり前やんか。」
振り絞った声に、はじけそうな心臓の音が滲んでいなかったことに安堵して、
私は軽くやり返す。
くすぐったそうに、フェイトちゃんが声を上げた。
フェイトちゃんは私を甘やかすのが得意。
こっちの心臓はいい迷惑だけど。
学校のチャイムが鳴り響いた。
下校を告げるチャイムは、遠くぼやけて、それでも突然私を現実に引き戻す。
フェイトちゃんが顔を上げて、窓の外を見た。
窓の外には暮れた街並み。
赤い光が西の空を覆っていて、そこへ青い夜がゆっくりと迫っていっている。
建物は影をこちらへと投げかけていた。
「そろそろ、帰らないとだね。」
フェイトちゃんはそう言うと、椅子から立ち上がった。
その頬が、残照に照らし出されて真っ赤に輝いている。
流れる金髪。
耳の奥で、何か、低い響きが蟠っているのを感じていた。
遠くから聞こえてくる、それは荒れた空の音にも聞こえて。
それなのに、私は遠い音を無視して、フェイトちゃんに手を伸ばした。
「ん。」
掌を広げて見せると、フェイトちゃんがこちらを振り向く。
きょとんとして、私の手を見つめたのはほんの一秒。
フェイトちゃんはすぐに、私のして欲しいことを分かってくれた。
「はやては、甘えたさんだね。」
そう柔らかな声音で零すと、フェイトちゃんは私の手を掴んで、
小さい子にするみたいに立ち上がらせてくれた。
「じゃあ、帰ろうか。」
そういうと、フェイトちゃんは鞄を持ち上げた。
「そうやね。」
私が頷くと、机の間を縫って、フェイトちゃんが私の一歩先を、
教室のドアに向かって歩いていく。
その背中にはまだ、夕日の色が残っている。
金髪は淡い光を零して、綺麗で。
私は音を無くして、囁いた。
「    。」
その髪が零す、光の残滓が掌にあればいい。
振り向かない貴方がくれる、私の、小さな星。