朗らかな風の舞う穏やかな午後、機動六課の訓練場、その草むらにフェイトの明るい声が響いた。 「キャロみっけ、ぽーこぺん!」 頭上を見上げると、青空を切り取って、フェイトの笑みが輝いていた。 キャロは悔しそうにしながら、隠れていた草むらから立ち上がった。 そうして、開けたところに並んでいる面子のほうを見て言う。 「見つかっちゃいましたー。」 並んでいたうちの一人、スバルが額に手を当てて、あちゃあ、といった感じで嘆くのが見えた。 キャロは頬を掻くと、フェイトを仰いだ。 フェイトはスバル達のほうを指すと、穏やかに告げた。 「じゃあ、つかまっちゃったキャロは、 みんなと並んでてね。」 キャロは、はい、と頷くとくさっぱらを跳ねるように駆けていった。 フェイトはその後姿を眺めつつ、訓練場の中央の方へ戻っていく。 そこには、日の光を浴びる、一本の空き缶が佇んでいた。 缶蹴りをやっているのは、 スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、なのは、はやての6人と、鬼のフェイト、合わせて7人だ。 そのうち、スバル、キャロ、なのはの3人は捕まえた。 残りは三人だ。 フェイトは缶の上に片足を乗せると、訓練場を見渡した。 缶が置いてあるのは、割と開けたところだった。 隠れられるようなところは、2、30メートル離れた草むらやら木の影やらになる。 そのせいで、かくれんぼの時間が長い。 だけど、一番最初につかまったのはスバルで、 始まって5分もしないうちに痺れを切らせて缶に向かって疾走した。 といっても、事前にティアナに躾けられていたので、フェイトが缶から随分離れるのを待ってからだった。 距離は、スバルの方が断然有利だった。 草むらから飛び出したスバルの顔は、スタートダッシュも決まったために、 勝利の確信に輝いていた。 だけど、フェイトの足は、スバルの予想よりもずっと速かった。 いや、おそらく、その場に居た誰の予想よりも速かっただろう。 スバルはあっさり捕まった。 その後、なのはは足が木陰から出ているのを発見された。 今捕まったキャロはというと、フェイトが探しに歩き発見したのだった。 みな、フェイトの足の速さを見て、どうにも攻めあぐねている。 そして、それを知っているからこそ、フェイトの表情には余裕が耐えなかった。 缶の数メートルとなりにある一本の木に寄りかかり、人でも待っているかのように、 緩やかな風に頬をなでられるままにしている。 「ティアナ、エリオ、はやてちゃん、頑張ってねー!」 ゲームが終了してしまったなのはが、草の上に座り込み、どこに居るとも知れない3人に向かって叫んだ。 フェイトがそれを見て眉を垂らす。 「なのは、私の応援は?」 情けない感の漂うフェイトを一瞥し、なのははそっぽを向いた。 「フェイトちゃんなんて、ずっと鬼をやってたらいいんだよ。」 その何処となく拗ねた物言いは、おそらく間抜けな捕まり方をしたのが悔しいのだろう。 隣に居るスバルやキャロは、いつになく子供っぽい様子のなのはを見るのが物珍しいのだろう、 終始可笑しそうにしている。 風が吹いて、木々を揺らし、フェイトの前髪を跳ね上げた。 「じゃあ、そうならないように、 残りの三人を捕まえに行こ、っと。」 フェイトはもたれていた木から、一歩前に軽く飛んで歩き出した。 踏まれた下草が楽しげに声を上げる。 暖かい日差しが心地良い。 フェイトは上機嫌に青空を仰ぐと、なのは達が居るのとは逆の方に向かう。 「ティアナ、エリオ、はやてー!」 呼びかけながら、フェイトは木漏れ日の中に埋もれていく。 低木を掻き分けて、木の幹を覗き込んで。 でも、三人ともどちらかといえば周到なほうだ。 なかなか見つからないな、とフェイトが肩を落とした。 そのとき、視界の隅に、オレンジ色が映った。 気づいて振り返る。 しかし、気のせいだったとでも言うように、その色は見えなくなった。 フェイトは慎重に歩を進めていく。 茂みの奥へ、オレンジ色が見えた場所から視線を逸らさずに。 すると、その低木の葉が、風もないのに動いた。 ティアナだ。 確信すると、フェイトは木々の根を飛び越え、低木を回り込んだ。 そこには、地面に身を伏せる一人の少女の姿があった。 フェイトがピッ、と人差し指を向けて告げた。 「ティアナみっけ、ぽーこぺん!」 ティアナがフェイトを振り仰ぐ。 見つかった、という表情。 でも、フェイトはティアナの顔を見た瞬間、違う、という直感が脳幹を射抜いた。 弾かれたように身を翻し、フェイトは缶の方へ走り出した。 木々の間を突き抜け、茂みから飛び出すと、 反対側の茂みから飛び出して、缶に向かって猛然と走るエリオの姿があった。 距離はすでに倍近く違う。 フェイトが煌く緑の上を飛ぶ様に駆ける。 スバルを捕まえた時よりももっと速い。 風のように渡っていく。 エリオの必死な顔が歪む。 わずかな距離筈なのに、泥のように進めば遠い。 風が迫る。 同じ、一つの缶の元へ。 そして。 「エリオみっけ。ぽーこぺん!」 フェイトは片足を缶の上に乗せ、力強く言い放った。 ほんの2メートル手前に、エリオがへたり込む。 「フェイトさん、足速すぎです。」 フェイトがうれしそうに頬を緩める。 後ろを振り返ると、ティアナが藪の中から出てくるところだった。 ティアナのおびき出しという罠を打ち破ったのがうれしい。 後は一人だ。