「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト。」 ぶつ切りの言葉に合わせて、はやてが階段を一段ずつ跳ね上がっていった。 小さい神社へ続く、石で出来た古い階段は、左右の木々に覆われていて、 まだ下の方に立っているフェイトからは、 まるで緑のトンネルのように見えた。 厚い常緑樹の葉は濃い緑をしている。 はやてがフェイトを見下ろして、右手を振り上げた。 それを合図に、二人の声が重なる。 「じゃーんけーん、ぽん!」 はやての手は、しっかりと握り締められたグー。 フェイトの手は、二本の指が突き出たチョキ。 はやてはくるっとフェイトに背をむけると、大きく腕を振りながら、階段を駆け上がる。 「グ、リ、コ。」 前に数えてみたら、はやてにとっては69段、フェイトにとっては68段あった階段の、 真ん中よりは下にはやては立った。 もう一回、チョキかパーで勝てば一度平らなところに出る。 対して、フェイトはまだ下から三段目だった。 「私、もう真ん中についてまうよー!」 はやてが大きな声を上げた。 降り注ぐ声に、フェイトは左手でランドセルの肩紐を握り締めながら、 右手をぶんぶん振った。 「これからだよ! 私、負けないよ!」 はやてがちょっと意地悪に笑う。 「いやいや、そうはとんやがおろしませんよー!」 狭い階段の上で、危なげなくぴょこぴょこ跳ねてはやてが言う。 そうすると、やまびこか何か見たいに、谷底からフェイトの声が返ってきた。 「とんやってなにー?」 はやてはフェイトを見下ろすと、はっきり答えた。 「しらへーん!」 時代劇で言ってるのみただけー、と続けると、フェイトは少し小難しい顔で首を傾げた。 いつもは自分より少し高い背丈のフェイトを、今や頭のてっぺんから見下ろしている。 はやては上機嫌に眼下の景色を眺めた。 長くて急な階段、その下のフェイト。 坂の上にある神社は、もっと先に目をやると、町が一望できた。 ほんの少し霞んだ、鮮やかな町並み。 自分達が、住んでいる町。 「家に帰ったら、母さんに訊いてみるー。」 いつの間にやら悩み終わったフェイトが、はやてに向かってそう叫び返した。