ぺりぺりぺり、と小気味よい音が後ろの席からして、フェイトは不審に思って振り返った。
「なのは、それ。」
なのはの右手の中には、目に馴染んだ赤い箱があった。
左手には剥がされた細い厚紙。
「ポッキー、安かったから。」
なのはは舌を出して、秘密だよ、と笑った。
もう放課後で人影もまばらとは言え、中学校でお菓子を取り出すのは一応まずい。
フェイトはちらちらと教室内や廊下に目を配った。
部活に行こうとしていたりなんだりで慌しく、
なのはの手中にあるポッキーに気づいた人は居ないけれど。
「だめだよなのは、学校でお菓子なんて。」
フェイトは小声でなのはを嗜めた。
「大丈夫だよ。」
対するなのはは気にした様子もなく、あっけらかんとしたまま中の小袋に手をかける。
フェイトは口を戦慄かせたかと思うと、一本に引き結んで、
自分の鞄を壁になるようになのはの机の端に立てておいた。
「にゃはは、フェイトちゃんは真面目さんだね。」
なのはがポッキーを一本取り出しながら、ころころと笑った。
フェイトが反論する。
「なのはが構わなすぎなの。
 駄目だってば。」
そんなフェイトを尻目に、なのははポッキーを咥えた。
小気味のいい音を立てながら、ポッキーは見る見るうちになのはに食べられていく。
フェイトがあああ、と情けない顔になる。
「怒られても知らないんだから。」
唇をほんの少し尖らせてちょっとだけ拗ねた様子だ。
窓の方に顔を背けてしまったフェイトを見ながら、なのははポッキーをもう一本取り出した。
「もう、フェイトちゃんこそ怒らないでよー。」
なのははフェイトの頬を指でつんつんと突付く。
柔らかい頬の手触りを指先で楽しんでいると、フェイトが振り返った。
「なのは、私は、」
言いかけるフェイトを遮って、
「フェイトちゃん、あーん。」
となのはは声をかけた。
そして、え? と顔を歪めるフェイトの開いた口に、なのははポッキーを突っ込んだ。
思わずポッキーを咥えてしまったフェイトが抗議の目をなのはに向ける。
なのはは笑いながら、ポッキーの反対側を口にした。
つい立替わりの鞄の陰に隠れて。
そして、悪戯っ子な笑みを浮かべる。
「これで、フェイトちゃんも共犯だね。」
真っ赤な顔のフェイトが、ちょっとだけ残されたポッキーの切れ端を食べた。