「せんさい、あめ。」
フェイトが細長い飴の袋を見つめて呟いた言葉に、はやては目を丸くした。
しかし、フェイトはそんなはやての様子には気づかず、
その奇妙に長い飴を凝視しながら首を傾げる。
「なんで千歳なんだろう。
 長いからかな。」
はやてはランドセルを背負いなおしながら、フェイトについて思い出す。
確か、フェイトが日本に住むようになったのは小学三年生の頃だ。
七五三は、女の子は七歳と三歳の時にやるもので、
小学三年生だと九歳だから、知らないのも道理か知れない。
はやて自身も、七歳の時には両親もなく病院で過ごしてしまったから、
飴の味くらいしか知らないのだが。
流石に三歳の頃を思い出せと言われても、中々難しい。
二階の両親の部屋にあるアルバムに、三歳の頃の写真があったような気だけはするけれど。
「うーん。」
悩みだしたフェイトを見て、はやては一つにやっと笑った。
「えー、フェイトちゃん、なんでせんさい飴なのか知らへんの?」
本当はちとせ飴やけど、と心の中で呟きながら、はやては大げさに驚いた顔をしてみせる。
う、と言葉を詰まらせたフェイトの顔が、徐々に赤くなる。
「う、うん・・・。」
はやては口元を両手でぱっと押さえて、可哀想な物を見る目をした。
「そんな、日本にもう二年も住んでんのに、
 せんさい飴がなんで千歳なのか知らへんなんて・・・。
 そんなことがあってええんやろうか。」
その表情は、悲劇を目の当たりにしたヒロインそのもの。
フェイトが気まずげに青ざめる。
何か知らないが、重大な過失を犯しているらしい自分に戸惑いが隠せないようだ。
「そ、それを知らないと、どうかしちゃうの・・・?」
心配顔になってきたフェイトをちらっと見、はやては顔を俯けて悩むような仕草をした。
そして、口の中でぶつぶつと呟く。
「いや、まだ三年経ってへんから、大丈夫なんかな。」
フェイトの食い入るような視線を受けながら、
はやては一度大きく深呼吸するとフェイトに向き直った。
フェイトの両肩に手を置き、顔を覗き込んで告げる。
「実はな、せんさい飴言うんは、
 日本に居る人は三年に一度は食べんとあかんねん。
 そうやないとな、住み始めて五年目にうっ、てなって、
 七年目にコロッて逝ってしまうんやって。」
ごくりと音を立てて、フェイトが唾を飲み込んだ。
可哀想なくらいに見開かれた目の縁にうっかり涙が溜まり始めている。
「でもな、せんさい飴をちゃーんと食べてれば、
 千歳まで生きられんねや。
 角んところに住んどる森田のおばあさんなんてそうやで。
 93歳なんて言うてるけど、さば読んでんねや。
 本当は5倍くらい生きてるんやって。
 それもこれも、せんさい飴のおかげやねん。」
フェイトの表情に安堵が広がる。
そして、飴の袋を開けると、一本の千歳飴を取り出した。
はやては腕を組んで頷いた。
「うん。
 食べたらええよ。」
赤い飴を真剣に見つめるフェイト。
はやては湧き出しそうな笑いを抑えながら、その様子を眺める。
しかし、飴を口に入れようとしたフェイトの動きが止まり、はやてを振り仰いだ。
「半分こしようよ、はやて。」
その言葉に、はやてはきょとんとなった。
千歳飴はさっき商店街で、フェイトが消しゴムを買ったときに貰ったものだ。
会計の時、本棚のところにいたはやては、飴を貰ったことを店を出てから知った。
だから、二人居るのに飴は一つしかない。
「はやてが五年目にうっ、てなったら私、嫌だよ。」
フェイトが真剣な眼差しになり、
千歳飴を袋の中に一度戻し二つに折ろうと飴の端を握り締めた。
それを見て、はやてが慌てて止めに入る。
「折っちゃだめやって!
 せんさい飴は長くないとあかんねん。」
はやてが告げた事実に、フェイトはしょげたように顔を俯けた。
三秒くらいだけ。
次にはやてを振り返ったフェイトの顔は、名案に輝いていた。
「そうだ、こんなに長いんだから、二人で逆から食べていけばいいんだよ!
 500歳になっちゃうけど、
 5年でうっ、てなっちゃうよりずっといいよねっ!」
千歳飴を取り出して、片方の端をはやてに向けながらフェイトが瞳を煌かせる。
はやては千歳飴を見つめながら、うっ、となった。