はやてはソファに座ったまま、壁に掛かっているカレンダーを見上げた。 11月11日だ。 隣に座っているフェイトは鞄の中をごそごそと探って取り出した本を広げている。 「なあ、今日なんの日か知ってる?」 はやては座りなおすと、背中でフェイトの肩に寄りかかった。 フェイトが身じろぎをして、カレンダーへと目をやる気配がした。 「11月11日。 え・・・、ゾロ目の日?」 はやては声を出さずに笑った。 「そんなストレートな日あるかい。 ほら、ほっそい棒状のおかしあるやんか。」 細い棒状のお菓子、とフェイトが呟いた。 それから、ぽん、と手を打つ。 「うまい棒?」 ずる、とはやてがフェイトの肩を滑り落ちた。 「いや、10円でお子様の味方でええけどね。」 ぼそぼそと言いながら、はやては起き上がるとソファにきちんと座りなおす。 うまい棒ではないらしいと知ったフェイトが、疑問いっぱいな表情をはやてに向けた。 「もっとあまくて、そんでもーっと細い奴。 一箱155円くらいやったかな? 赤い箱の。」 言いながら人差し指で箱のサイズを示す。 すると、今度こそフェイトは確信に満ちた様子で、ぽんと手を打った。 「ポッキー!」 「そう!」 指を鳴らして、はやてが大きく頷いた。 それに気をよくしたフェイトがにこにこと話し始める。 「この前ね、シャーリー達に聞いたんだけど、 ポッキーゲームって言うゲームがあるんだってね!」 はやてが笑顔のまま停止した。 しかし、フェイトはそんなはやての様子に気づかず話を進める。 「どんなゲームか直接教えてくれなかったんだけど、 はやてだったら知ってるって言ってたんだ。 面白いゲームなんでしょ、はやて、一緒にやってみようよ!」 嬉々として言い放つフェイトを見つめながら、はやては殊更優しい笑みを浮かべた。 テレパシーがあったら、ちゃんと伝えられる気持ちもあるんだろうけれど、 テレパシーがないからこそ、知られたくない気持ちも知られずにいられる。 例えば、余計なことを教えおって、おのれシャーリー、だとか言う気持ちだ。 「残念やけど、今、ポッキーないんよね。 だから、今度機会があったらな?」 軽い調子で断る。 すると、フェイトはやおら、足元の鞄を探り出した。 「私もポッキーは持ってないんだけど、 ポッキーみたいに細長いお菓子をね、この前商店街でもらったんだ。」 その言葉に、はやての背を戦慄が駆け上がった。 恐怖に戦き引き攣るはやてを差し置いて、フェイトの手が鞄の中から一本の飴を引っ張り出した。 それは、 「ち、ちとせ飴・・・。」 はやてがその名を呟いて凍りついた。 フェイトが頷いて微笑む。 「うん、なんか貰っちゃって。 ポッキーじゃないけど、細長ければ出来るって言ってたし、 これでいいよね?」 喜色満面でフェイトが千歳飴の袋を開ける。 それを見つめるはやての脳裏に、 千歳飴でポッキーゲームをする様子が走馬灯のようにぐるぐると駆け巡った。 まさか、ポッキーのように千歳飴を噛み砕けるような顎の力はない。 飴だし両側から舐めていくことになるのだろうか。 しかしそれでは、一体どれほどの時間がかかるというのだろう。 しかも離脱するときはどうする。 どうやって千歳飴を折ればいいのだろう、 直径が1センチメートルはあろうかという飴を噛み砕けと? まさかそんな、無理にも程がある。 いや、そもそも、千歳飴を両側から舐める19歳の女二人ってどうよ? なかなかいろいろ絵的に問題があるような気がするんですけど、などなど、 多種多様な疑問に目を回しているはやてに、 「はい、ポッキーゲーム、やろうよ。」 何も知らないフェイトの無邪気な笑顔と千歳飴が手渡された。