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朝の匂いがする。
開いた窓から吹き込んでくる風がレースのカーテンを膨らませて、鼻先を掠めた。
寝転がったフローリングの冷たさが横たえた体に染み込んで来る。
差し込んでくる真っ白の光は閉じた目蓋を越して橙赤色をしていた。
寝転んでいると、いろんな音が耳に響いてくる。
外で鳴き交わす鳥の賑やかな声や、自分の呼吸、上下する胸のリズムとか、
なるべく気配を消して忍び寄る足音だとか。
床が少しだけ軋んで、布が擦れる音がして、隣に座ったのが分かった。
目を開けなくても分かる。
なんだか顔に強い視線を感じた。
だからなるべく顔をにやけさせないように気をつけてじっと目を瞑っている。
するとふと、鼻を摘まれた。
それでフェイトは目を開けて、自分を覗き込んでいる人を睨んだ。
「なんや、起きとったんか。
 思ったより今日はお目覚めええんやね。」
そう言ってはやては微笑んでフェイトの頭を撫でた。
額に掛かる髪を避けさせて、指先でなぞる。
その感触がくすぐったくて、フェイトは目を細めた。 
「二度寝ならぬ三度寝に突入するん?」
くすくすと軽い笑い声が降り積もる。
「そんなには、寝ぼけてないよ。」
言い返す自分の声音が寝ぼけていることにフェイトは気づいていた。
「ふーん。
 寝ぼすけさんの言葉を、どんだけ信じてええもんか悩むなあ。」
はやての手がフェイトの頬に触れる。
指先で少し頬を押して、はやては「柔らかいなあ。」と呟いた。
「はやても横になってみたら。
 床が冷たくて気持ちいいよ。」
言うと、はやての人差し指がフェイトの鼻を軽く押した。
「私は二度寝はしませんよ、っと。
 朝ごはんも作らないとあかんしな。」
見上げると、丸い壁掛け時計は8時半を示していた。
そうだ、この家の人は休みの日でも、この時間にはみんな起き出すんだ、
と少しぼやけた頭の片隅に思い出し、フェイトはひじを突いて身を起こした。
「手伝うよ。
 人数多いから大変でしょ?」
寝転がっていた為に乱れた髪を片手で梳く。
そうしていると、はやての手が伸びてきて、髪の一房を手に取った。
「ん、助かるな。
 せやけど、フェイトちゃんに手伝ってもらうと、うちの子達途端にやかましくなるからなあ。」
困ったような呆れたような、柔和な表情を浮かべながら、はやては手にしたフェイトの髪を三束に分ける。
そうして、それを器用にみつあみにしだした。
「え、そうなの?
 いつもあんなに賑やかなんだと思ってたけど。」
淀みない手つきで編まれていく自分の髪を眺めながら、フェイトが疑問を口にした。
大人しい八神家のみんななんて想像するのも難しいくらいに、
家に揃ったみんなは騒々しいのに、と。
はやてが、ころころと笑い声を立てた。
「まあ、確かに大人しくはないんやけどね。
 フェイトちゃんが来ると、なんやろうなあ、いつもよりみんな妙に寄ってくるというか。
 みんなフェイトちゃんと張り合おうとしてるんかな。
 ほら、フェイトちゃん甲斐甲斐しいから。」
甲斐甲斐しい、という言葉がピンとこなくて、フェイトは眉を寄せた。
十年来の付き合いとはいえ、家にお邪魔している以上、多少は気をつかっているが、
基本的にはいつも通り接しているつもりだ。
甲斐甲斐しいか、と言われると少し疑問を感じた。
「みんな、はやてのこと好きだもんね。
 もしかして悪い虫みたいに思われてたりして。」
そう言うと、はやては小さく吹き出してから、冗談めかして言った。
「こんな悪い虫には、私のこと取られたないって?
 おっかしーなぁ、もう。
 そんで、めっちゃかわいいわ、そんなんやったら。」
笑い出したはやてを見ながら、フェイトは自分の名誉のためにも、
悪い虫かどうかは置いておくとして、
はやてのことを取られたくないんだろうな、というのだけは納得した。
もちろん取ったりするつもりはないし、そんなこと出来るとも思っていないけれど、
自分だって好きな人が誰かと仲良くしてたら少しは焦る。
その誰かがよく知ってる人だってだ。
「ま、なにはともあれ、
 さっさと朝ごはん用意しに行こうか。」
はやてがそう言って腰を浮かしかける。
その手をフェイトは捕まえて、ほんの少し引きとめた。
ん、と振り返りかけたはやての頬に唇を寄せる。
「な、なんよ、いきなり。」
頬を手のひらで押さえて、赤い顔をしたはやてがフェイトを見つめた。
だからフェイトはちょっと目を逸らしたまま、背を向けて立ち上がった。
「な、なんとなく。」

私だって、ちょっとは焦る。