黒い尻尾がフリフリと目の前で揺れていた。
「・・・。」
はやては努めて無言で無関心を装ったまま、揺れる尻尾を睥睨する。
本来、人間では退化してしまっている筈の装備品を何故か誇らしげに生やしている彼女は、
いつも通りの冷静な眼差しで目の前に展開した空間モニタの前に立っていた。
「観測されたエネルギーのゲインが今までに比べて急激に高くなってるのが判ると思う。
 これは今まで考えていた理論予測のいずれともずれているから、
 原因について考え直す必要がある。」
彼女がつらつらと述べるのは、果たして真面目一徹な物だ。
そう、彼女に取っては、日常となんら変わる所は無いのだ。
もちろん、ただの思い込みなのだけれど。
「・・・。」
割と猫っぽい耳と、猫っぽい尻尾が頭とお尻から生えている人間はいないんです、
と、声を大にして言えたらどれだけ幸福だろうか。
押収物である古代の宴会アイテムに記憶野の一部と生体器官の一部を変化させられてしまった彼女は、
おそらく真面目に考えれば酷く危険な状態なのかも知れないけれど、
宴会アイテムと猫っぽさに意味もなくそれが中和されてしまって、
なんだか平和の象徴みたいな雰囲気を作戦司令室で作り出していた。
「遠距離からの観測で得られているデータは配信したファイルの通りだけれど、
 これらから今以上に良い原因の予測は難しいと私は判断している。」
本人は居たって真面目なのに、見てるこっちは笑いが込み上げてくる。
言ってる内容の深刻さが逆にコントみたいだった。
作戦司令室の全員がフェイトから目を逸らしているのはたぶん、そのせいなんだろうな、
と思いながら、はやては重たい口を開いた。
「わかった。
 じゃあ、幾人か調査に出そうか。
 探査魔法に長けているのと、戦術に優れているのとで。」
言いながら、はやては室内に居るメンバーの顔を見る。
戦闘で信頼を置ける者は多い。
だが、探査魔法となると、選べる者は
「はやて、探査は」
フェイトがそう言いかけたのを制して、はやては言った。
「管理局の評判が落ちるからやめて。」