「ねぇ、フェイトちゃん。」 おだやかな寝息が耳について、細い金色の髪が頬に絡んで、閉ざした目蓋に掛かる睫は淡くて、 唇はゆるやかに結ばれていて、胸はかすかに上下して。そんな彼女を見つめて、見下ろして、はや ては細い息を吐く。夜半も過ぎて、厚いカーテンの薄く開いた隙間から漏れる青い夜闇だけが、は やての左耳にかけて掛かり、ベッドに伸びて、フェイトの体をよぎってその顔を断っていた。 「言えないことがあるの。」 歌うように唇が音色を紡いで、夜のしじまに溶かしていく。影に沈んだ目の淵には微かに光が滲 んで、頬に張り付いたまがい物の笑みを彩る。まるで滑稽な彫像で、はやては腕を掲げた。彼女に 伸ばすように。 でも、微かな笑みを唇に灯して、その手は止まる。愛おしさを装った目が細められて、青白い腕 を暗がりに混ぜて。 「ごめんね。」 囁く声で、はやては翳した手の向こうに見えるフェイトの頬を、遥かな距離を隔てて撫でた。