掌の上に空白がある。
粘り着く夏の空気が開いた指の間を握り締め、汗が吹き出し滲んでも。
掌はまっしろだった。
「アルトリコーダーって、やたらおっき思わない?
 いっくら中学生になったいうても、指つりそうやわ。」
ぷぅ、とまっすぐな音が教室に線をひっぱった。
フリーハンドで描かれたラインは、夏休みのがらんとした教室を歩いていく。
注ぐ影は斜め。
自分達の姿は机と混じり合い、夏空に鮮明な化け物だ。
床の上に、抜けるような青空が広がっている。
ぷ、ぷ、ぺ、ぴぽ、間抜けな音がひゅうっと脇から抜けた。
「フェ、イ、ト、ちゃん、ていうたんやけど、わかった?」
はやての額には前髪が一本貼り付いていて、肌に太陽が輝いていた。
砂粒のようにきらきら光って、フェイトは目を眩ませた。
影の青い夏だった。
「ちょっとむずかしいなぁ。」
汗が首の後ろを流れていった。
窓の外、遠い海原から空の中心へ、雲が峰を突き立てていた。