声を。 目蓋を開くと、暗闇が広がっていた。 塗り潰された漆黒を目にぽっかりと映し、呼吸を重ねる。 ベッドに横たわったままの耳に、衣擦れの音が触れる。 寝間着の下に、わずかに汗を掻いてるのを感じていた。 空気を吸い込み、空気を吐き出して、息をする。 瞬きを繰り返せば、ゆっくりとものの輪郭が青く浮かんだ。 白い筈の天井を薄らとした光の一筋が走っている。 窓に掛かるカーテンの隙間から零れた、街の光だ。 フェイトはゆっくりと、頭を巡らせた。 枕の中身が動く耳障りな音が響いた。 僅か三センチばかり開いたカーテンの合わせ目を、街灯が黄色く透かしている。 マンションの前の通りにある灯火。 暗闇に走る光。 フェイトは息をすると、唇を引き結んだ。 声をあげろ、と。 ただそれだけの言葉が首の裏を這った。 言葉ではなく声を、ただ音声として一度きりのその声を、生み出せと。 右手の中で、シーツが潰れた。 フェイトは寝返りを打って壁へと体を向けると、目を硬く瞑った。 サイドボードに乗った小さな窓は見なかった振りをした。