「何か、見つけた気がしたんだけどな。」 呟いた言葉は、口元で白い息の塊になった。 自分の足がアスファルトを踏んで、鈍い音を通りに流す。 駅前にわずか残った灯りから離れて住宅街に向かう道に、人影は自分一つきりだった。 声も、足音も聞く人はいない。 目を閉じて歩いても、誰にもぶつからないで行けるだろう。 意味のない呟きも、意味のないまま消えていく。 「なんだったんだろ。」 マフラーに首を埋めて、コートのポケットに手を入れた。 中は空で、手は空気を掴んだ。 小さな頃はコートのポケットは折りたたみ式の携帯電話が入っていて、 親指で押し開いてはメールを確認して歩いたものだった。 今は懐かしむだけだ。 大人になるのは、懐かしむ過去が増えることかもしれないと、時折思う。 「今も、ケータイを持っていればなぁ。」 大通りにさしかかると、広い路を風が通りすぎていった。 長い金髪が一筋流れる。 対岸の赤く点った歩行者用を見上げ、息を吐く。 片側三車線の大通りは真っ黒いアスファルトを晒している。 夜は車さえ途切れる。 通りの先の方に赤く、2つのテールランプだけがちらついていた。 昼にはない隙間が、夜には空いている。 「何か・・・。」 遠い都心の明かりが映り、薄ぼんやりと黄色い空には星もまばらだ。 何からも遠くて、街の底から見上げるみたいだ。 「わかったかな。」 青信号が点って、フェイトは歩き出した。 何も泳がないアスファルトの河に足を浸す。 聞こえるはずのない着信音を探して、耳は遠い車の咆哮を追っていた。