旅立つあなたに花束を A 夕食の席ではやてが言った一言がきっかけだった。 「授業参観…とはなんですか?」 代表して訊いてきたのはシグナムだった。 「学校でな、みんなが頑張ってるところを、 お父さんやお母さんに見せたろいう日なんよ。」 はやて少し身を乗り出して、口早に答える。 はやては何でも、楽しそうに話すけれど。なんだかいつもより積極的だ。 ヴィータがご飯茶碗を置いて、はやてを見た。 「はやて、授業参観に行きたいのか?」 その言葉に、はやての顔が真っ赤になる。 両手と首をぶんぶん振りながら、矢継ぎ早に否定の言葉を並べ立てる。 「そんなんちゃうよ。 ただなのはちゃん達が、明日授業参観なんだー言うてたから。 みんな授業参観とかどんなもんか知らないやろなあ、思っていっただけやよ。」 ホントそれだけやから、とはやてが力説する。 皆がはやての顔を見た。家族になって、もう丸一年経つ。見逃したりなんてしない。 「それじゃあ、明日、行ってみましょうか。」 シャマルが手のひらを合わせて微笑んだ。 案の定、はやては眉を歪めてシャマルを見上げる。 「いや、でもわたし、学校なんてまだろくに行けてへんから、 みんなに見せるような普段頑張ってる姿なんてあらへんし。」 そう答えると、横手からヴィータが提案してきた。 「じゃあ、なのはとかテスタロッサの頑張ってる姿見に行けばいいんじゃん。 それなら問題ないだろ? あいつらが机に座ってまじめに勉強してる姿なんて、想像しただけで笑えるよな!」 「いや、でもわたしまだ全然、歩くなんてレベルやないし。 学校は階段多いから行けへんよ。」 はやての否定の語調が強くなる。でも、瞳の奥に、隠し切れない期待の色が、段々強 くなっていってることに、みな気付いている。シグナムが口を開く。 「それは問題ありません。私が階段では抱き上げて行けばいいだけですから。」 はやてはもうぐうの音も出ないようで、三人の顔を何度も見る。 「で、でもみんな、大変やろ? ええんよ、わたしの為にそんなしてくれなくて。」 言葉の割に、目がすごくうれしそうだよ、とは誰も言わないで。 「遠慮しなくて構いません。家族とは、そういうものなのでしょう?」 あなたが大切にしてくれるように、あなたを大切に思っていると。 あなたが愛してくれているように、 「わがままもたまには言って下さい。はやて。」 愛しているのだと。 あなたはもっと思い知って。 はやてはもう一度、今度はゆっくり端から、3人の顔を見た。 そして大きく頷いた。 「わたし、学校行ってみたい。連れてって!」 すると3人は満面の笑顔で答えた。 「おまかせ下さい。」 「まかせろ、はやて!」 「楽しみですね、はやてちゃん。」 顔を見合わせると、こつんと音がした。見やると、ザフィーラがテーブルの上に頭 を載せて、耳をぱたぱた言わせていた。はやてはその頭を撫でる。 「ザフィーラにもお願いな。 でも学校って犬連れてっていいんやろか。 ザフィーラはお留守ば―――。」 言い掛けるはやてを遮って、ザフィーラは人型になって立ち上がった。しっかり耳 と尻尾も隠している。それを見て、はやてはにっと笑った。 「ザフィーラは格好いいお兄さん役で決まりやね。」