授業中に読んでね、なんてうさぎから渡された小さな手紙が筆箱に入っている。消しゴムを探していた指
が紙片に触れて、亜美はちらと周囲を窺い見た。黒板には二次関数。基本問題の解説を終え、今はそれぞれ
が類題を解く時間だった。周りの生徒は集中度こそそれぞれだが、一応みな教科書に向き合っている。
 亜美はこっそり手紙を取り出してノートの上に置いた。三、四センチに小さく折り畳まれた手紙はたぶん
ノートかなにかの切れ端で、斜めに罫線が走っている。真ん中にはオレンジのペンで亜美ちゃんへと角のな
い文字で書かれていた。
 教科書の内容は春休みのうちに一通り勉強した。今やっている内容は、前の単元が終わる頃に全て予習し
たし、塾の授業でも習った。この類題は昨日家で解いたから、答えはもうノートに書かれている。
 悪い子かしら、と眼鏡越しの視界で思う。けれど指は丁寧に折られた紙片から伝わるぬくもりに抗えない。
亜美はもう一度だけ教室を眺めてから、そっと手紙を開いた。したためられた文字に午後の日が当たる。
 うさぎが亜美へ贈った他愛ない言葉が、胸に音なく響いていく。