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 誰もいない海がいいと言ったのは、今、隔絶の言葉を放った自分だった
「私の愛はあの人に捧げているの。他の誰も愛したりできないわ。」
 水面で弾ける西日が海岸から水平線までまっすぐ伸びる。彼女は言葉を背に受けて、ただ海を見つめてい
た。
「愛がないなら、恋をすればいいじゃない。私はあなたの愛の傍らにある恋で十分幸せよ。」
 いつも通り、聞こえて来る声音は深刻さよりは真剣さを孕んでいた。海風に煽られて長い髪が靡く。背後
の道を走る車の排気音が止むことはなく、テトラポットに押し寄せる海水は波の一つも立てなかった。合間
に見える水は暗い。
「愛の戦士が恋で妥協するの?」
 レイは美奈子の背に言葉を重ねる。赤いリボンは彼女の髪を束ね、端を潮風に揺らしていた。その色も、
もう見えなくなろうとしている。海に沈みいく太陽が真紅に燃え、貫かれた遠い雲が黄金に輝く。逆光に縁
取られた彼女の姿は、黒い影を長く伸ばしていた。レイの体を影が流れる。
 美奈子の声は笑っていた。
「あなたが恋しかできないなら、その分私が愛で返すもの。」
 嘘だ。
 最初に拒んだのは自分のくせに、レイは唇を噛んだ。本当にそう思うなら、こっちを見て言って欲しい。
本当に返してくれるならば。
「バカね。」
 呟いて笑って、レイは自分の胸に流れ込む彼女の影を抱きしめた。
 最初に拒むのが自分なら、最後まで拒むのはきっと彼女の方なのに。だから、振り向いてくれる筈なんて、
なかった。