木々が風にざわめいている。大きく潮騒のように鳴り、曇りの薄暗い室内を揺らしている。開いた小説は
息を止めて、印字は頭の中で一つも像を結ばない。
 誰か、急に訪ねて来てくれないかな、とぼんやり思う。
 キッチンは洗い物も済んでカゴの上にある鍋は鈍く室内を映し、昨日掃除をしたばかりでテレビ台の下に
ホコリがポツンと落ちているきりだ。観葉植物は習慣通り、朝の内に水をあげた。あのホコリ一つを拾った
ら、他に何もすることはない。
 まことは本をテーブルに置くと、手のひらを組んで伸びをした。振り返り見た窓の外、レースのカーテン
は住宅街を朧に透かしている。
「たいくつ、だな。」
 呟いた声は意外に響いて、まことはテーブルに伏せた。腕の中に顔を埋めて、曇空を見上げる。真っ白で
何も見えない空。
 誰かに突然、訪ねて来て欲しかった。