亜美ちゃんはおねぼうさんだね。 そうささやいたゆるやかな声音が、ふっと胸の奥から記憶の縁を叩いた。自分がなんと返したかはもう覚 えていないけれど、ええ、少し朝は弱いかもしれないわ、ときっと頷いたのだろう。音はもう残っていない のに、そっと唇に触れて思い返す。ただお泊まりをして、でも出かけることもしないで、ただ一緒に過ごし ただけの土曜日。 レースのカーテンが午後の陽に淡く染まっている。やわらげられた日差しに包まれて、寝息が一つソファ の上に流れていた。癖のある髪は金色に透けて、合わされた睫の上で光が震えている。 朝の真っ白い光って、亜美ちゃんによく似合うよ。 眠るまことの整った頬に亜美は小さく笑い掛けて、ソファの足元に座り込んだ。閉じた文庫本の上に、西 日が映る。まことには午後のまあるい光がよく似合う。遠い街の音を聞きながら、亜美はゆっくりと息を吸 い込んだ。