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ぽーん、と空へ、エリカが蹴ったボールは飛んだ。
「シスター、もー、ちゃんとやってよー!」
「エリカもまだまだだなっ!」
子供達が振り返り、エリカに向かって口々に言う。エリカのミラクルシュート、食らえっ!
等と叫んだ手前、エリカは顔を赤らめずには居られなかった。
「えへへ、やっちゃたー。
 ボール取って来るねー!」
迷子にならないでねー、等と子供達のエリカに対する信頼感を伺わせる声援がこだました。
エリカは公園を出て、あらぬ方向へと飛んで行ってしまったボールの軌跡を思い出しつつ、
河の方へ走った。随分と高く、ボールは秋空に舞い上がったものだから、河にぽちゃんと
入ってしまっているかもしれない。そうしたら一大事。一抹の不安を胸に抱えつつ、エリ
カが河へと出ると、其処には見知った少女が二人、佇んでいた。
一人は手にボールを持って、頭を抑えている。
「グリシーヌさんと花火さん、
 ボール拾ってくれたんですかー!?」
両手をぶんぶん振って、エリカは二人の方へ、坂を駆け下りる。
「エリカか・・・。
 随分とすばらしい勢いの球だったぞ。」
少女のうち、ボールを手に持った方が、やや剣呑な雰囲気を醸し出しつつ振り向いた。
「わーい、エリカほめられちゃいました!」
エリカは無邪気に微笑んだ。
「グリシーヌ、
 エリカさんにだって悪気はなかったんだから。
 痛かったんでしょうけど、
 そんなに怒らないで。」
花火がエリカには聞こえないような声で、握りこぶしを作っているグリシーヌを諭した。
「判っている・・・。
 ただ、痛かっただけだ。」
随分痛かったのね、と花火は心の中でグリシーヌに同情した。
坂を下りたエリカは、駆ける勢いを衰えさせることなく、二人の方へ寄って来た。その顔
には笑顔が浮かんでいた。グリシーヌが、渋々、でも確かに口元を綻ばせた。
「二人ともどうしたんですか?
 あ、まさか、
 エリカのホームランボールを狙ってたとか!」
「たまたま散歩をしていただけだ。」
「きゃー、エリカ大感激ですー!」
グリシーヌの返事などまったく聞こえていない様子で、エリカが歓声を上げる。
「エリカ、もうそなたという奴は!
 人にボールをぶつけて置いて、
 話までまるで聞かんとはどういう了見だ!
 其処に直れ!」
足の速さは、感激もあいまってか、そろそろ、猛然と、とかいう形容詞を付けたくなる感
じだ。
「あの、エリカさん、
 少し勢いが付き過ぎているのでは?」
そんなペースで走っていることに、エリカ自身もそしてその進路上に居るグリシーヌもま
るで気付いていない。花火が控えめに掛けた声も、何処吹く風だ。

そして。

「きゃあ!」
「なっ!」

花火としては起こるべくして、二人にとって見れば突然の不幸で。エリカは案の定、足が
止まらずついでに砂利につまずいて、グリシーヌに抱きつく形で突っ込んだ。グリシーヌ
の一歩後ろは河。花火が空を切るグリシーヌの手を掴む間も無く、二人は河にダイブした。

ばしゃーん!

「・・・お二人とも、大丈夫ですか?」
花火は折り重なるようにして、水の中に倒れている二人を見下ろした。立っていた位置か
ら言って順当に、グリシーヌを下敷きにする形で、エリカが転がっていて、下敷きにされ
たグリシーヌはと言えば、ボールが当たったのと同じところを、再度、強かにぶつけて、
らしくもなく涙目になっていた。
「一応、大丈夫だ・・・。
 エリカ、起きろ。
 いつまでもエリカに乗られていては、起きられん。」
「はーい。」
そろそろと、エリカは体を起こす。グリシーヌがクッションになってくれたおかげで、エ
リカはあまり体が痛まなかったし、あまり濡れもしなかったが、グリシーヌはびしょ濡れ
でぶつけた頭はかなり痛いようだった。エリカは控えめに上体を起こしたグリシーヌを見
つめる。
「ごめんなさい、グリシーヌさん。」
その顔には、怒られちゃうかな、という不安と、悪いことしちゃったな、という感情が同
席しているのがありありと見えた。そして、そんな顔を見ていると、起こる気などあっさ
りと失せて、グリシーヌは軽いため息を吐いた。
「まぁ、よい。
 そなたにも悪気があったわけではなかろう。
 それに、今度からは私が受け止めればいいだけの話だ。」
顔に張り付いた髪を払いながら、グリシーヌは安心しろという風に微笑んだ。エリカの頬
に朱が入る。
「流石、グリシーヌさん!
 エリカ、大好きです!!」
大声で告白して、勢いよくグリシーヌの首に抱きつくと、

ばしゃーん!

本日二度目の水飛沫が上がった。
流石に今度は怒られた。


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001 : でも、こうでもしないと抱きつかせてくれないじゃないですか。










「あれ、メルさんどうしたんです?
 ブロマイドですか。」
何の用があるのだか、毎回毎回よくわからないけれど、エリカはたまに秘書室にやって来
ては、それが微妙なタイミングで、メルをどきっとさせる。エリカは、ははー、とかなん
とか若干不審な声を上げながら、メルの眼前に立ってポーズを構える。口元に手を当て、
探偵を気取っているみたいだけれど、まるでいつものとぼけた様子が隠れていなくて、メ
ルは笑いそうになってしまった。
「待ってください、
 エリカがそのブロマイドが誰のだか、当てて見せますから!」
「いえ、別に、当てていただかなくても結構なんですけど・・・。」
メルがやや迷惑そうに言うが、エリカはやっぱりまったく聞いていない。もとより、聞い
てくれるとも思っていなかったが、それはそれで何処となく空しいものだ。話を逸らすタ
イミングというのもなくて、メルは内心軽く落ち込んだ。
「わかりました!
 コクリコのですね!
 マジカルエンジェルが大好きとは、にくいですねー。」
びしっと人差し指を突き刺して、エリカは喜色満面で断言した。
「いえ、違います。」
メルは首を横に振った。答えながら、コクリコのブロマイドはやや年配の方に男女問わず
人気があると、シーが言っていたのを思い出した。
「えー、違うんですかー。
 それじゃあ・・、タタミゼ・ジュンヌ!」
「花火さんのでもありません。」
「だったら、意表をついてサフィールさん!」
「それも違います。」
別に嘘を吐いたってよかったはずなのに、なんでこんなに真面目に答えているのだろうと、
メルの脳裏に疑問が湧き上がった。ちなみにエリカはまだ当てる気満々だ。といっても、
既に二択の域に入っているけれども。
「えー、それじゃあもう、エリカのしかないじゃないですか。」
エリカが不満そうに唇を尖らせた。
「グリシーヌ様のもあるじゃないですか。
 二択ですよ。」
メルが正すと、エリカはきっ、と珍しく生真面目な顔をした。
「駄目ですよ!
 グリシーヌさんはエリカのなんですから、
 他の人が肌身離さず持ってるなんて、そんなの駄目です!」
とんでもない理論だ。少なくとも、修道院のシスターがする発言とは思えない。メルは呆
気に取られながらも、浮かんだ疑問を口にした。
「でも、いつもエリカさんが抱きつきに行くのは、ロベリアさんじゃないですか。」
そうしたら、エリカはやたらと胸を張って、明朗に宣言した。
「ロベリアさんのハートはもうがっちりキャッチしてるので、おっけーです。」


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002 : そう? とは思ったけれど口にはしないで置いた。










花火がグリシーヌの部屋に来ると、鍵が開いていたが返事はなく、それでもこの時間に約
束していたのだからと、部屋に入った。手近なソファーに腰掛けて、窓の外に広がる庭へ
と視線をくれる。最暖月の7月はもう過ぎたけれども、日差しはまだ強く、水を巻かれた
芝生が陽光を反射して眩しいくらいだった。
「花火、来ていたのか。
 遅れてすまないな。」
声に振り向くと、先程、花火が入ってきたのと同じドアから、グリシーヌが戻ってきたと
ころだった。
「いいのよ。」
微笑むと、グリシーヌはすまない、と返事をした。
「腕の怪我をタレブーに見つかってな。
 お小言を貰っていたのだ。」
「グリシーヌはやんちゃだものね。」
グリシーヌはなんともバツの悪そうな顔をして、花火まで怒るのか、と拗ねた声を出した。
花火の隣に座る仕草まで、なんだか子供っぽく見えて、花火は思わず笑った。
「タレブーさんもあなたのことが大切だから、そう言うのよ。」
拗ねた横顔にそう言うと、「わかっている。」と小さな声が返ってきた。
「しかし、子猫を助けるには――――。」
グリシーヌはこちらを振り向いて、眼をまっすぐに見つめてくる。花火はその眼を見つめ
返して、はっきりと言った。
「ええ、わかってるわ。」
そうして、にっこりと微笑む。
「あなたに無茶をして欲しくはないけれど、
 無茶をしてでも頑張るあなたが好きなのよ。」
グリシーヌは面食らったような表情になって、言葉を無くした。
「やっぱり矛盾してるかしら。」


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003 : だから怪我したら真っ先に私に言って。