紙面に木漏れ日が落ちている。葉擦れの音が降ると、その模様はゆれて、目の奥でちかちかと光った。芝
の青いにおいが胸を埋める。
「何を読んでいるんだ、加山。」
 長い影が頭上に差した。
 少し皺のついたズボンを履いた足が目の前に見える。加山はしおりも挟まず本を閉じた。
「暇つぶしだ。」
 そうか。
 大神は気のない様子で頷くと、加山の頭を見下ろした。
「今日は髪を固めていないんだな。
 ずいぶん、前髪が長い。」
 うっとうしそうだ、と声にはならずともその顔には書いてあった。それきり、背を向けてどこかを眺めだ
した大神の背を、加山の視線は追った。確かに前髪は鼻にかかるほどに伸びている。ここまでいっそ伸びて
しまえば、それほど邪魔にはならないことを大神は知らない。彼は額を見上げて髪が見えたら床屋に行って
しまうからだ。
「たまには固めない方が、すっきりしていいんだよ。」
 そう答えると、大神は気の無い様子で背中を掻いた。