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「それで、ロベリアさんは来るんですか?」
 エリカがいつも通りの勢いで、顔をずずいっと近づけてグリシーヌに問いかけた。
「念押しはして来たがな。
 あやつのことだ。
 当日になってみないことには、わからんな。」
 ふぅ、と軽くため息をついて、グリシーヌは椅子に腰を下ろした。エリカも、そうなんですか、と呟く
と、大人しく席に着く。お茶をするには遅いし、夕飯を食べるには早すぎる時間帯。カフェは人影もまば
らで、街路のテーブルを使っているのは、グリシーヌとエリカの二人だけだった。あとはがらんとしてい
て、店主のエヴァも暇そうな様子だった。
「それでそれで、飾りつけなんですけれど、
 昨日、コクリコと一緒に考えたんですよ!
 見てください!」
 まだ熱いであろうカフェオレを溢しそうな調子で、エリカはテーブルの上に紙を広げた。一番目を引い
たのは、紙面上部に書かれている横断幕の絵で、なにやら日本語で文字が書いてある。
「これは、なんと書いてあるのだ?
 『花火』しか、読めん。」
 グリシーヌがそういうのとほぼ同時に、通りの南側から、元気な声が響いた。
「エリカー! グリシーヌ!」
 その心地よい声は、振り返らなくても誰のものだか判る。エリカが大きく手を振ると、コクリコも振り
返して来た。駆ける足取りが少し速くなる。
「コクリコ、サーカス終わったの?」
 大声で話し出したエリカが立ち上がろうと腰を浮かせると、足がテーブルの盤面に引っかかって、カフ
ェオレが跳ねた。それを慌てて、グリシーヌが受ける。
「エリカ、もう少し周りに注意して立ち上がらんか!」
 そう言って怒るグリシーヌの右手は、カフェオレで濡れていた。
「わぁ、ごめんなさい!
 ハンカチ、ハンカチ・・・。」
 エリカがおろおろと慌てながら、ハンカチを探し出す。
「あーあ、エリカはまたカフェオレ溢しちゃったんだ。
 ドジだなぁ、もー。」
 たどり着いたコクリコが、椅子に座りながら呆れた。エリカは大慌てでハンカチを捜すが、一向に出て
くる気配は無く、グリシーヌは黙って自分のポケットからハンカチを取り出した。
「エリカ、次に気をつければよいのだ。
 もう大丈夫だから、座れ。」
 グリシーヌの言葉を聞きながら、コクリコは前にも同じことを言ってたな、と思い出していた。しかし、
エリカはそんなこともう覚えていないのか、喜色満面で大きく肯いた。グリシーヌが小さくため息を吐い
た。
「それでだ、この飾り付けには、なんと書いてあるのだ?」
 グリシーヌが飾り付け計画図の先程の日本語を指してエリカに問いかけた。コクリコが身を乗り出して、
計画表を覗き込む。エリカは首を捻った。
「えっとですねー、えっと・・・・・。」
ぐりっと捻った首が、90度に達した頃、エリカはぽんと手を打った。
「花火さん、御覚悟!! ですよ!」
 グリシーヌの眉が跳ね上がった。
「覚悟させてどうする!
 なんのパーティだと思っておるのだ!」
 声のトーンが二人して大きくなりだして、道行く人までがこちらをちらちらと振り返っては様々な視線
を投げかけてきて、コクリコは恥ずかしくなった。
「ねぇ、二人とも、こんなところで大声出さないでよ。
 ボク、恥ずかしいよ。」
 コクリコがそう言う間にも、現代っ子はこれだから、みたいな目や、かわいらしくていいわねぇ、とい
うような視線を向けられたりする。コクリコは居心地の悪さに座りなおしたりするが、当の二人はそれほ
ど気にした様子が無い。大物、といえば聞えはよいかもしれないが、この二人の場合はただ単に、周りが
目に入らないタイプなだけではないかと、コクリコは内心思っていた。
「ほら、グリシーヌさんがいきなり怒るからー。
 ごめんね、コクリコ。
 グリシーヌさん怒りっぽくて。」
 まるっきりお母さん面で、エリカはコクリコに謝る。
「エリカがそもそも、御覚悟!などと書くのが悪いのであろう。
 もっと場をわきまえた言葉をだなぁ―――!」
 だん、とテーブルに手を着いたグリシーヌは真剣な様子だった。コクリコは改めて昨日エリカと考えた
計画図を覗き込む。エリカとグリシーヌが口論している原因は、コクリコにもすぐ見つけられた。昨日、
帰り際の大神を捕まえて、わざわざ書いてもらった日本語だ。
「エリカ、これ、御覚悟じゃなくて、
 御誕生日おめでとう、じゃなかったっけ?」
 一瞬、座がしらけきった。
 エリカは視線を明後日の方向へ泳がせながら、頭を掻いてすっとぼけた表情を繕う。グリシーヌはじと
目でそんなエリカを見据えた。
「ま、まあ、何はともあれ、
 これで飾り付けの計画は完成ってことで・・・・ね?」
 エリカは引きつり笑顔で振り返った。
 その顔が、なんだかやたらと可笑しくって、コクリコはころころと声を立てて笑った。
「エリカ変な顔ー!」
暮れなずむ夏の空に、その声が澄み通るように響いた。エリカは、えー、コクリコひどいよぉー、とか言
いながらも、変な顔のバリエーションをして見せている。グリシーヌは二人の様子を見ながら、微笑んだ。
 楽しいことをこの二人に考えさせたら、最高だ。