消えてしまうその音を、追い求めている。 難しい顔をしながら、グリシーヌはもう一度口を開いた。 その音を聞き、彼女は小さく笑う。 「まだfね。」 グリシーヌは眉間に皺を寄せると、唇を曲げた。 「そうか、難しいな。 今まで口にしたことのない音を出すのは。」 グリシーヌはそう言うと、腕を組んで上を仰いだ。 天井には電燈がまだ光を灯されずに沈黙し、 室内を午後の日差しが満たすのにまかせている。 夕暮れがもう近い。 室内は金色に染まり、椅子に座った二人の影は長く伸びた。 グリシーヌは影を振り返る。 他の学生や教師とは異なり、 まるで北大路男爵や夫人が呼ぶように、 「グリシーヌ、そろそろ明かり、つけましょうか。」 彼女が切り揃えた黒髪を揺らし、グリシーヌを覗き込んだ。 眦を緩めた柔和な笑みがその頬に広がる。 あの影のように背が伸び大人になる頃には、 グリシーヌは頷いて、自分で席を立った。 長い影が天井近くにまで届く。 「ああ、そうしよう。」 その名を美しいあるがままの形で呼ぶことが出来るだろうか。 「 。」