頭が揺れている。
 白い髪は橙色の光の中で、まる綿菓子のように浮いていた。
「そなた、飲み過ぎではないか。」
 己を呼び出した相手の醜態を、グリシーヌは腕組みして見下ろす。つまみにと勝手に頼まれていたハム
盛り合わせもガーリックトーストも、碌に齧られもしないまま、安い電球に乾燥させられている。グリシ
ーヌはさして上手くもないプロシュートをフォークに指すと、その赤身を噛み切った。
「あぁ・・・?」
 たっぷり十秒空いた返事だった。
 寝ぼけた声だ。酒場の喧噪に表面まで浮き上がって、軽く流されてしまう音。白い毛玉は自分の腕の間
に顔を突っ込み小さく呻いた。
「巴里の悪魔が、そんな・・・この程度の酒で・・・・。」
 掌で充分温めたブランデーを、グリシーヌは喉から落とす。強い酒に胃の奥が熱くなって、アルコール
の渋さにわずか顔を顰める。この狭い円卓には全てのものが有り余っている。ロベリアの寝息がぽっかり
空いた時間に漂っている。
 時刻は0時47分。
 帰るにはまだ、時間があまり過ぎていた。